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『BAD COMMUNICATION』(フラン&ベル小説) 第2話

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特殊暗殺部隊ヴァリアーの本拠地の最上階には、幹部未満は利用を許されないシークレットエリアがある。

街を見下ろす眺望と、特注のソファと、世界中の酒が集められた豪華なバーカウンターが自慢の、いわゆる幹部専用ラウンジだ。

広くはないが、贅をこらしたこの瀟洒な空間を、しかしボスを筆頭に幹部連中はほとんど利用しない。利用できることを覚えているかどうかも怪しく、実際は、ほぼベル専用のラウンジとなっていた。

ベルは、生まれ育った城の迎賓室をそのまま小さくしたようなこの部屋を、一目見たときから気に入っていた。自分から捨てた城の生活を懐かしむことはないが、落ち着いた雰囲気と派手ではないが凝った調度の数々にはどこか安心させられた。

酒を美味いと感じる年になる前から、一人で頻繁に出入りしていた。当時の担当者が気を利かせて、ベルの好きな牛乳やジュースを切らさないようにしてくれていたこともあり、仕事のないときは、幹部になってから得たもう一つの権利であるプライベートルームかこのラウンジで過ごすことが多くなっていた。

今でも、それは変わっていない。

任務を終えて一ヶ月ぶりに本拠地に戻ってきたベルは、自室でシャワーを浴びて着替えると、肩にかけたタオルで濡れた髪を拭きながらいつものようにラウンジに向かった。今夜は周辺にいくつかある隠れ家ではなく、ここ本拠地の自室にそのまま泊まることを決めて、寝る前に何か飲もうと考えたのだ。

しかし、敷地の端にある長い階段を上がり、ラウンジの扉を押し開けたベルは、珍しく驚くことになった。

贅沢な夜景と誰にも邪魔されない静けさ。実は高い場所が好きなベルのお気に入りのラウンジの、中でもお気に入りの赤いソファに、今夜は座っている奴がいるではないか。

しかも。

「・・・なにしてんのお前」

思わず声が出る。革張りの大きなソファに小柄な体を沈みこませていた少年は、両手で包んだマグカップの中に落としていた目線を上げた。

自室前の廊下で接触して以来だったが、青臭いくせに飄々とした空気は相変わらずだった。ベルを見ても、数度、まばたきをしただけで、その表情に驚きは読み取れない。

「先週から幹部になりましたー」

「はぁ?」

思わず間の抜けた声が出る。のんびりした口調の、その意味するところを理解して、ベルは耳を疑った。

「・・・フザケんな」

「ミーのせいじゃありませんからー。ボスに言ってくださいー」

思わず毒づいたベルだったが、それを意に介した様子もなく、少年は右手のサイドテーブルにカップを置く。アルコールの匂いはまったくしなかった。コーヒーかココアか、何か温かい飲み物が入っているのだろう。

ソファの前に置かれた長方形のローテーブルの上には、トランプのカードが不規則に散っている。ソリティアをしていたようだ。

(ノンアルコールでトランプ・ゲーム?)

ベルは内心舌打ちした。お子様かよ。

任務後に得られるささやかな高揚感は、酩酊したときのそれに少し似ている。高ぶった気持ちを感じよく抑えて眠りにつくための、心地よいひとときを求めてここに来たのに。
すっきりするつもりでラウンジに来た分、余計にイラだった。

しかし、そこはオレの席だからどけ、と言うのも大人気ない気がする。かといって、この新米幹部らしきチビと一緒に酒を飲んでも美味いはずもない。

「ていうか何で知らないんですかー?帰ってこないのは勝手ですけど、通信ちゃんとチェックしてくださいよー」

再びゲームに関心を戻して、伏せたカードを順番にめくっている少年が何か言っているが、ベルは無言でカウンターの中に入り、ワインセラーを開ける。
自室に持ち帰って飲もう、そう思ったのだ。

ところが。

(あれ)

目当てのワインが入っていなかった。正確にいうと、あるべき場所になかった。
整然と並べられたボトル達の間に、不自然な隙間。

まさか、と振り返ると、備え付けの小さなシンクに、きっちり五本、空になったワインのボトルが立っている。

手入れの行き届いたこのラウンジは、たとえ利用する者は少なくても、毎日掃除されている。ということはこれらは今日飲まれたものだ。そして自分の知る限り、他の幹部連中がワインに手を出すことはまずない。しかも五本も。

ということは。あくまで状況証拠でしかない。が。

(あいつ・・・!)

唇に手をあててテーブルの上のカードを見ながら考え込んでいる少年の横顔を、カウンター越しに睨みつける。

もちろん、共用の場所にある飲み物なのだから誰が飲んでも自由だ。しかし今回は、ただのストックではなく、任務先で気に入ったレア物をわざわざ自分で買って、先に送らせておいたのだ。

まさか自分以外にこのワインセラーを使う奴がいるなんて思わなかった。十年以上の間、そうだったのだ。しかも、他に何本も入っているストックではなく、よりによって自分のレア物ばかり正確に飲みつくされているところがベルの逆鱗に触れた。

「あ、そこにあったワインなんですけどー」

ワインセラーの扉を叩きつけるように閉めてカウンターを出ると、少年がカードから目を離さないまま言ってくる。

「喉かわいたんで貰っちゃいましたー。でもあんまり美味しくなかったですー」

(味分からねーなら五本も飲んでんじゃねー!!)

思わず叫びたくなったのを何とかこらえた代わりに、ベルは腰に忍ばせたナイフにそっと手を触れた。
ナイフは、風呂上りだろうがなんだろうが、常に携帯するクセがついている。

すると、その気配を察したかのように、少年がまた口を開いた。

「この間はどうもー」

言いながら手早くカードを切ると、テーブルの上に並べていく。

「今日はナイフとか投げんのやめてくださいねー」

「この間は口がきけねーんじゃねーかと思ったけど、よっく喋んだな」

ベルは少年から適当な距離を取って、カウンターにもたれる。ナイフから指を離さないまま、横顔を観察した。
前回はまともに顔を合わせもしなかったが、白い喉を見て、ふとそこに当てたナイフの感触を思い出す。

「あんとき、喉、切り裂いとけばよかったか?」

「プリンス・ザ・リッパーってやつですかー?」

ベルの通り名を無感動に口にして、少年は並べられたカードの一枚を華奢な指でめくる。

現れたのはスペードのジャック。

「そーいえば」

少年はジャックを手に取ってしげしげと眺めた。

「ジャック・ザ・リッパーも、王族だったって説があるんですよねー」

「ハッ」

ベルは笑いながら腰のナイフを抜く。使い慣れた柄の曲線は、手に吸い付くようになじむ。

「これいらないなー」

少年はスペードのジャックを爪先ではじいた。カードはきれいな放物線を描いてダストボックスに吸い込まれる。少年は五十一枚になったカードを集めて、また切り始めた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙。少年がカードを切る、さやかな音だけが聞こえる。

「・・・それで挑発したつもりか?チビ」

「チビじゃないですー。フランですー」

「知るか」

ベルは低い声でつぶやくと、きびすを返す。
挑発されたのも癪だったが、それに素直に乗るのはもっと癪だった。

結局、牽制されたことになるのだろうか。

「てめ、いつか殺してやっからな。背後気をつけろよ」

「ご忠告いたみいりますー。よろしくセンパイー」

フランは目線をあげないまま、感情のこもらない声で言う。カードの山に手を伸ばしたとき、扉が乱暴に閉まる音がした。
その扉を一瞬見て、テーブルに目線を戻したとき、伸ばしかけていた手が止まる。

「・・・だから、こーいうのがムカつくんだって」

いつの間に投げられたのか、カードの山の中央に一本の直刃が突き立っていた。
その特徴的な形のナイフを抜き取ってそのままダストボックスに放り込むと、フランは切れ目の入ったカードをまた一枚めくった。

To Be Continued...
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後書き(文字反転)

「前回はケンカして終わってしまったので、もう一話」と思って書いたんですが、さらにケンカしてしまいました。なぜだ。
もともとは、フランの幹部就任にベルが反対する一幕があったんですが、いきなりなってた方がベルが驚くかなと思って変更。(←鬼)

フランがベルのワイン「だけ」飲んだのが、嫌がらせか天然かはご想像にお任せします。ああ、実は飲まずに捨てたって可能性もありますね。今気づきました。フラン怖っ!(笑)

・・・というわけで、前回の「ベル様最強編」に続く「フラン逆襲編」でした。ここまで読んでいただきありがとうございました。もう少し続きます。

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