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『雪の使者』(ツナ&ベル小説) 前編

玄関のチャイムが鳴った。
その無機質な音を、ツナはまどろみの中で聞く。

(うーん・・・)

ベッドの上で寝返りをうつ。いつものように母親の奈々が出るだろうと思っていたら、しばらく間をおいてからまた鳴った。

(母さん・・・いないのかな・・・)

まだ半分夢の中、覚めきらない頭で考える。意識の覚醒とともに毛布の中に侵入してくる寒さに身震いし、毛布をたぐり寄せてもぞもぞと包まった。エアコンはとうに切れていて、部屋は外気と同じように冷えている。

三度目のチャイムが鳴る。階下には誰もいないようだ。

(しょうがないなー・・・)

眠い目をこすりながら、ようやくベッドの上に身体を起こした。宅配便か何かだろうと、だらだらと部屋を出たとき、突然、家中にけたたましい音が鳴り響いた。

「わあぁっ」

しびれをきらした来訪者がチャイムを連打し始めたらしい。家中に響きわたる耳障りな音に、ツナは慌てて階段を駆け下りてドアノブに飛びつきロックをはずす。もしここにリボーンがいたら、マフィアが不用意にドアを開けるなと跳び蹴りを食らうところだが、どこに行ったのか、小さな黒服の姿は見えなかった。

そして、ツナは家庭教師の言いつけを守らなかったことを深く後悔することになる。

「わ」

押し開けたドアの外は猛吹雪だった。吹き付ける冷気に思わず身を縮める。

朝から重い色の空だったが、昼寝をしている間に雪が降り始めたらしい。しかもシンシンと降り積もる風流な雪ではない。視界いっぱいに、大粒の雪が強風にあおられて舞い踊っており、灰色の空を見上げれば、あとからあとから降ってくる雪の欠片が地面に塀に激しく積もり始めていた。

(あれ)

予想外の天気に驚いて一瞬忘れかけたが、先ほどまでうるさくチャイムを鳴らしていた来訪者の姿が見えない。

(・・・いたずら?・・・こんな天気の中?)

しかしいつまでもドアを開けていては、雪が室内に降り込んでしまう。ツナは首をひねりながらドアを閉めてロックを掛け、振り返った瞬間に悲鳴をあげて飛びずさった。

「うわぁっ!!」

今閉めたばかりのドアに勢いよく背中をぶつける。そのまま、ずるずるとしりもちをついた。

「な、なんで・・・」

「なんでじゃねーよ」

いつの間に脇をすり抜けたのか、沢田家の玄関に立った金髪痩躯の殺し屋は。
黒いコートの肩に積もった白い雪を払い落としながら不機嫌な声で言った。

「王子が来たらチャイム鳴らす前にドア開けますくらいのことできねーのかよ」

「な・・・」

自分は夢でも見ているのだろうか。ツナは腰を抜かしたまま、口をパクパクさせた。
なぜこいつが、なぜ今ここに。

「あのさ」

「は、はいぃ!」

顔を向けられて、知らず背すじが伸びる。ハイパーモードならともかく、丸腰で敵う相手ではないのは明白だった。

(グローブどこだっけ?死ぬ気丸は?あああ、たぶん全部オレの部屋だ。こんなときにどこ行ったんだよリボーン!助けて誰か!オレ殺される!獄寺君!山本!このさい大人ランボでもいい誰か助けてー!!)

「話すと長いし面倒くさいから省略するけど」

「・・・はい?」

「風呂」

「・・・フロ?」

パニックになりかけていたツナは、合わない歯の根を無理矢理合わせておうむ返しに返事をする。

「風呂。貸して」

そこまで言ったところで、ベルは盛大なクシャミをした。

「あの、タオルと着替え、ここに置いておきますから」

脱衣所から声を掛けて、ツナはバスタオルとTシャツとスウェットの上下を籐籠の中に入れた。

曇りガラスごしに見える浴室の中は、温かそうな湯気で白く煙っている。返事はなかったが、たぶん聞こえているし見れば分かるだろうと思い、ツナはそのまま脱衣所を出た。

(父さんのだから少し大きいかもしれないけど)

自分の服では、獄寺と同じか少し高いくらいの身長に見える彼には小さいだろうと思い、悩んだ末にクローゼットから家光の服をひっぱり出してきたのだ。

とぼとぼと廊下を歩き玄関の前を通ったとき、たたきに脱ぎ捨てられた特徴的なブーツが目に止まる。

白いブーツはぐっしょりと濡れていて、いかにも冷たそうだった。黒いコートは、放り投げるように渡されたもののどうしたらいいか分からず、とりあえず玄関先のコート掛けに掛けてあるが、それもよく見ると色が濃く変わっていて重く濡れているようだった。

コートからしずくが垂れて床を濡らしていることに気づき、ツナはキッチンから雑巾を取ってきて床に敷いた。ついでに、タオルでコートを拭く。手を動かしながら、知らずため息が出た。

(はぁ・・・なんでこんなことに・・・)

突然やってきて、寒い、死ぬ、風呂貸せ、と繰り返すベルの顔は確かに真っ青で、落ち着いてよく見てみれば全身がずぶぬれと言ってもいい状態だった。
土足で上がろうとする彼になんとかブーツを脱いでもらい、昨夜の残り湯を温める間にシャワーを浴びてもらうということでひとまず話が付いた。彼が無言で脱衣所に入り、ドアが閉まったときには、ツナは心底ほっとした。

(とりあえず、いきなり殺されることはなさそう・・・)

生存権を確保できたことに安心し、それでも期せずして降りかかってきた災難にツナは暗澹たる気持ちになった。

「ん?」

コートをつかんだ手に、なにか硬いものが当たる。気にせず裏地も拭こうと、すその折り返しを持ったそのとき。

「ぎゃっ」

足をかすめて、床に高い音を立てて落ちたのは、鞘にも入っていない五、六本の抜き身のナイフ。
どれも、触れただけで血が飛びそうなほどに研ぎ澄まされている。

(ひ~・・・)

ツナはコートのすそをつかんだまま固まった。

やけに重いコートだと思ったが、そういうことか。耳を近づけてコートを揺すると、内側からチリチリと刃物同士が当たる音がする。まだまだ入っているらしい。

床に散らばったナイフを、手を切らないように気をつけながらかき集める。悩んだ結果、とりあえずコートのポケットに入れておくことにした。
リボーンはじめマフィア関係者の居候はともかく、母親にこんな物騒なものを見せるわけにはいかない。自分だって本当は見たくない。マフィアのリアルな生活を覗いてしまったような気がして、ツナはおそるおそる風呂場のドアを振り返った。

(あの人、うちに何しに来たんだろー?あ、風呂入りにか、って違う違う。ていうか、なんで日本にいんの?仕事?ってことはやっぱり暗殺?うわーやだやだ・・・ほんと、マフィアって変な人ばっかだよ・・・)

いまだ混乱気味のままツナはキッチンに入り、ダイニングテーブルの椅子に座って頭を抱えた。窓の外では、相変わらず白魔が舞っている。

(獄寺君と山本がいてくれたら心強いのにな・・・)

しかし、山本は土曜日の今日も部活のはずだ。並中野球部は、晴れの日はグラウンドで、雨の日は室内で、日々練習している。今日も朝はこんなに吹雪いていなかったから、きっと並中でトレーニングに励んでいるに違いない。部活に打ち込む山本の邪魔はできないし、したくなかった。

獄寺は、ツナの家にヴァリアーが来ていると知ったら心配して飛んで来てくれるに違いない。それは容易に想像できる。しかし相手はリング争奪戦での因縁があるベルフェゴールだ。騒ぎがムダに大きくなって収拾がつかなくなるのもまた、目に見えていた。

それに何より、友達をこんな荒天のなか呼び出すのは気が引けると思ってしまうツナだった。

(あ、そうだ!グローブと死ぬ気丸!)

今のうちに部屋から取ってこよう。そうすれば少しは安心だ。急いで立ち上がったツナは、そのときやっと、テーブルの上の書き置きに気づいた。

醤油さしを文鎮代わりに置かれたメモ用紙を読む。

『ツッ君へ。声をかけたけれど、よく寝ているようなので書き置きにします。ビアンキちゃん、ランボちゃん、イーピンちゃんと買い物に行ってきます。リボーンちゃんはどこかにお出かけみたい。出かけるときはガスの元栓と戸締りよろしくね。お天気崩れるみたいだから早めに帰ります。14時くらいかな。ケーキ買って帰るからね。母より』

14時?

ツナは壁の時計を見る。すでに15時半をまわっていた。

リモコンを取ってテレビを付ける。いつもは見ないニュース番組にチャンネルを合わせると、中年の男性キャスターが無表情にニュースを読んでいた。

『週末の午後、各地では大荒れの天気となっており・・・交通網に影響が・・・』

最寄り駅の電車も、しっかり数個先のターミナル駅で止まっていた。

(ぎゃあああああ!!)

ツナは心の中で叫び声を上げた。

ビアンキやランボ、イーピンが、ヴァリアーいちの天才と称されるベルに太刀打ちできるとは、正直ツナも思っていない。思っていないが、精神的にはずっと心強い。何より、この一人で殺し屋と向き合うというプレッシャーに耐えられそうになかった。

(あ、でもリボーンも殺し屋だっけ・・・って、そんなこと言ってる場合じゃない。とりあえずグローブと・・・)

決して積極的に戦いたいわけではないが、やはり武器は手元に置いておきたい。慌てて振り返ったツナは、戸口の壁に背中を預けて斜めに立っているベルの姿を見て飛び上がった。

「ぎゃ!」

家光のスウェットは、やはり少し大きいらしい。袖をひじまで捲り上げて細い腕を組み、無言でこちらを見ている。金色の髪がまだ少し濡れているようで、肩にタオルを掛けていた。

「あ、えーと、早かった・・・ですね・・・」

ツナは笑顔を引きつらせながら、浮かせていた腰を再び椅子に落とした。いつからいたのだろうか、まったく気づかなかった。

ベルはキッチンに入ってくると、ダイニングテーブルの椅子を引いてツナの正面に座る。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

無言。

「あ、あの、お茶でも飲みます?」

沈黙にいたたまれなくなって言ってみる。返事がないのを肯定と受け取って、ツナは逃げるように席を立ち、棚を開けて緑茶の缶を探した。

視線というのか殺気というのか、なんだか背中がちくちくする気がする。ポットにお湯が残っていたので、慣れない手つきで茶漉しをふるい、なんとかお茶を入れることに成功した。

「・・・どうぞ」

表情をうかがいながら、テーブルに湯のみを置く。ベルは黙ってそれを手に取り、口に運んだ。
ツナも、向かいの椅子を引いて座り、湯のみを両手で包んで口を付ける。

(この人がうちのキッチンにいるって・・・なんかすごい変な感じだ・・・)

見慣れたキッチンに、見慣れない人物が一人。湯気の立つお茶をすすりながら、そっと正面に座る水色のパーカーを着た殺し屋の姿をうかがう。

こんな風に二人で向き合うのは初めてだったが、他のヴァリアーメンバーと比べると、アルコバレーノのマーモンは例外としても小柄な方だったように思う。大きめのパーカーから伸びた腕も湯のみをつかむ指も、やはり白くてどちらかというと華奢で、ナイフを操って人を殺める手には見えなかった。

自覚はあまり無いが超直感というらしい自分の勘に頼ってみても、リング争奪戦で見せた常軌を逸した凶暴性は今はナリを潜めている。結局、よく分からない人だな、とツナは思った。

時計の秒針のカチ、カチ、という音がやけに響いて聞こえる。ツナは思い切って話しかけてみることにした。

「あの、今日はなんでうちに?」

「・・・・・・」

無視された。言いたくないのだろうか。
失敗したかな、と思い、ツナは必死に別の話題を探す。

「えーっと・・・あ、ヴァリアーの他の人たちは?日本には一人で来たんですか?」

考えた末に、比較的、無難そうな話題をふってみた。

「・・・あいつらとは一緒に行動する方が珍しい。今回の任務もオレ一人」

「あ、そーなんですか」

ほっとした。返事をしてくれたことに。そしてこれ以上暗殺部隊が増殖するおそれがなくなったことに。

「空港に着いてタクシー乗って、途中でカード忘れたのに気づいた」

「え?」

「雪降ってきやがるし、最悪」

どうやら最初の質問に答えてくれているらしい。

「・・・お金持ってないんですか?全然?」

「ない」

「それでうちに?」

「カードないからホテルにも泊まれねーし。データに入ってる日本の住所で使えそーなとこ探して、行き先変えたの」

(使えそーなとこ・・・)

それでうちですか、とツナはがっくりと肩を落とした。オレってなんか十代目とかそんなんじゃなかったでしたっけ、と空しく考える。決して認めたわけではないが、はっきり言ってこれは完全になめられている。

「あれ、じゃあタクシーは?・・・って」

まさか。
もしかして運転手さんを。恐ろしい可能性に思い当たってしまって血の気がひいたツナに、ベルは白けた声で言う。

「殺ってねーよ。一般人を殺ると上の連中がうるせーし。ただの乗り逃げ」

日本は殺人にキビシーからな、などと言って椅子の背もたれに背中をあずけてふんぞり返っている。

ツナは、空港からここ並盛までの距離を思って、そのタクシーの運転手に深く同情した。イタリアンマフィアの殺し屋を乗せて命を取られなかっただけでもマシと思ってほしい、と心の中で手を合わせる。

要するに、吹雪のなか一文無しで避難してきた、ということのようだ。

「で、どうするんですか?このあと」

いつ帰ってくれるんですか、と聞きたいところだが、その勇気は無かった。

「日本には拠点が無いからな。イタリアにメール入れといたから、そのうち部下が来る」

「え?でもこの天気じゃ飛行機飛ばないんじゃ」

「まーそーかもな」

「ってことは・・・」

「ま、そのうち来んだろ。それまでここにいるぜ」

「ええええええ!?」

(最悪だーーーーー!!)

ツナは恐れていた展開に青ざめ、思わず天を仰いだ。

To Be Continued...
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後書き(文字反転)

雪降った記念。原作ではあまり絡まない、ツナとベルのお話です。
原作ではリング争奪戦後すぐに未来編に入るので(しかも秋)、未来編終了後も変わらぬ日常が待っていることを願って、舞台は未来から無事に帰ってきたあとの冬を想定してます(大バクチ)

・・・でもとりあえず時系列は考えない方向でお願いします。

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