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『雪の使者』(ツナ&ベル小説) 後編

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「ええええええ!?」

ツナの悲痛な叫びに構わず、ベルは足を組んで椅子を前後に揺らしながら部屋の中を見回している。

「小せー家だな」

「そ、そうですか?」

一応、日本では平均的な広さの一軒家だと思うのだが。

「オレの生まれた城とかボンゴレ本部とかに比べたらネズミの穴だな」

(そこ比べられても・・・)

ツナはひきつった笑顔を浮かべながら、内心でつっこむ。

(えっと、とりあえず、部下の人が来るのを待つ、と。そのためには飛行機が飛ばないといけなくて、そのためには雪が止まないといけなくて、それまでオレこの人と二人?勘弁してよー!!)

怖いし居心地悪いしで、背中に変な汗をかいてきた。目の前の湯のみを見つめながらリボーンが帰ってきてくれないかとソワソワしていると。

「ヒマだな」

「はい?」

顔をあげると、ベルはいつの間にか、そしてどこからか取り出したナイフを手の中で器用に回している。
剣呑な光を放つ刃先の鋭さに、ツナは戦慄した。

「ヒマだからさー・・・」

やばい来た、とツナが身を引くのよりも一瞬早く。獣のような俊敏さで一足飛びにテーブルの上に乗り上げ片膝をついたベルのナイフが、ツナの眉間に突きつけられた。

(ひーっ!!)

テーブルの上に乗ったベルは、ナイフの切っ先をツナの眉間わずか一センチ手前で止めて、ツナの瞳を覗き込むように顔を近づける。ツナは椅子から立ち上がりかけた中腰の姿勢で身体をこわばらせた。

恐怖にすくんで涙も出ない。固まるツナに、ベルはことさらにゆっくりとした口調で言う。

「なんか面白い話しろ」

「えええええ!?」

(すごい無茶ぶり来たーーーー!!)

無茶ぶりどころか、この状況では明らかな脅迫だ。ツナは言葉を失った。

「ほら早く」

「・・・い、いきなり言われても無理っ」

ようやく言ったセリフに、ベルはつまらなそうに口をへの字に曲げる。

「仕方ねーな。じゃあゲームにするか」

「っそうですね!オレもそっちの方がっ!」

ウノやトランプなら自分の部屋にある。ゲームをしていればなんとか場ももたせられるし、部屋に行ったついでにグローブと死ぬ気丸を取ってくればいいし、とツナがすがる思いで考えていると、ベルはナイフをポケットにしまって、代わりに小さな錠剤を取り出した。

「ここに毒薬がある」

「・・・へ?」

使われる単語がおかしい。さっきからおかしい。

「普通の水と、この毒薬を溶かした水を、同じ形のコップに入れてシャッフルして、順番に飲んで、どっちが・・・」

「します!しますから!面白い話!」

ベルが最後まで言い終わらないうちに、ツナは大声で叫んだ。

「なんだよ、さっきは無理だって言ったじゃん」

錠剤を爪で弾いて握りこみ、ベルは不服そうに口をとがらせているが、ツナは自分でも首がちぎれるんじゃないかと思うくらいぶんぶんと勢いよく首を振った。そんな恐ろしいゲームに参加させられるなんて冗談じゃない。

「いま!いま思い出しましたから!面白い話!ぜひ聞いてくださいお願いします!」

「うるせーな。わかったよ聞いてやるよ」

ただの神経毒だし死なねーって、とか呟きながらもベルが錠剤をしまってくれたので、ツナは胸をなでおろした。

「えーとえーと、あ、そうだ。昨日、昼に屋上で獄寺君と山本と弁当食べたんですけど」

「・・・・・・」

「山本が、獄寺君のダイナマイトのこといまだに花火だと思ってて。それで獄寺君が怒っちゃって」

「・・・・・・」

「よく見とけ野球バカって言って、ダイナマイトを屋上から投げたら学校の木にぶつかって木が吹き飛んじゃったんですけど」

「・・・・・・」

「それ見て山本が言った一言がすごくて。『いやー、最新の花火はすごいな』」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・で?」

黙って聞いていたベルが低い声を出したので、ツナは焦った。

「いや、終わり、なんですけど・・・」

「はあぁ?」

「面白くなかったですか?」

「つ・ま・ん・ね・ぇ」

一語ずつはっきりと発音して、ベルはテーブルの上にストンと腰を落ろした。

「もーいい。腹へった」

「はい?」

「王子、朝からなにも食ってないんだよね」

「あー・・・そ、ですか」

「そ」

ダイニングテーブルの上で体育座りをして、膝を抱えて前後に身体を揺らして。
明らかに何かを要求している。

(・・・お腹すいたからご飯ください、て言えばいいのに・・・)

ツナは内心、深いため息をついた。この傍若無人なふるまいは、ワガママで片付けられる範疇を軽く超越している。しかもタチが悪いことに完全にねだり慣れしている。
面白い話して、お腹すいた、と言えば誰かが何かを与えてくれる環境にいるということか。誰がそこまで甘やかしているのだろう。

(部下?それともヴァリアーの人たち?)

とても想像できないと思ったが、とにかく、ここで下手に機嫌を損ねると何をされるか分からない。

「・・・オレ、炒飯くらいしか作れないですけど。それで良ければ」

この天気ではコンビニにも行けないし出前も頼めない。何より、そんな余裕があったらとっくに避難している。言ってみると、金髪の少年は揺らしていた身体をピタリと止めて、我が意を得たりとばかりに嬉しそうな笑みを浮かべた。

「しょーがねーな!ガマンしてやるよ」

「あ、ありがとう」

なんでお礼言ってんだろここはオレの家で食材もオレの家のでしかもオレ微妙にキョーハクされてんだけど、と疑問は次から次へと湧き出してくるものの、炒飯ごときで命が保証されるなら安いものだ。ツナは席を立って冷蔵庫を開ける。

冷ご飯を電子レンジにかけて冷蔵庫の使えそうな食材を漁っていると、背後でカチカチ、とガスコンロに火を点ける音がした。

(え?)

振り返ると、コンロにフライパンを載せて点火スイッチを押しているベル。

(手伝ってくれんのかな?でもまだ火つけるの早いと思うんだけど・・・)

卵を手に取ったまま見ていると、ベルは戸棚を探ってオイルポットを取り出す。そして次の瞬間、何を思ったかポットを持った腕を思い切り高く掲げて、火のついたフライパンに油を勢いよく浴びせかけた。

(ぎゃあああああ!!!)

フライパンから油が溢れだし、一瞬で火柱が上がる。ツナは声なき悲鳴を上げて炎上するコンロに飛びつき、火を止めた。

「ななななにしてんですか!」

「なにって、料理」

(料理っていうか放火でしょコレー!!)

まだどきどきしている心臓を押さえて、ツナは心の中で叫んだ。ベルは首をかしげている。

「スクアーロとかルッスは、なんかこんな感じでやってっけど。いつも」

(あの人たちと一緒にしないでー!!!)

「オレが作りますから!お願いですから座っててください!」

まだぶつぶつ言っているベルの背中を押して無理矢理もとの椅子に座らせて、ツナはボウルに卵を割り入れた。火柱の衝撃でまだ身体が震えていて卵がうまく割れず、ボウルに殻が入ってしまう。それらを地味に取り出しながらまたため息をついた。油断も隙もない。これじゃうちのチビたちと変わらないじゃないか。

普段は料理などしないツナだが、炒飯だけは何とか作れる。調理実習で作ったことがあるし、先週の日曜にイーピンに作り方を教えてもらっていた。

(あーでも、一人で全部やるのは初めてかも・・・)

おぼつかない手つきで玉ネギを刻んでいると、頭の上で声がした。

「おせーな」

「っぎゃあああああ!!!」

ツナは今日何度目かの悲鳴を上げた。どうして大人しく座っててくれないんだ、そして帰ってくれないんだ、と泣きたくなったとき。

「貸せ」

手の中の包丁が奪われた。やばい刺される、と思わず身体を固くしたツナだったが、もう一方の手が刻みかけの玉ネギとボウルをつかむ。

いったい何事かと振り返ると、ベルが手の中の玉ネギを、野球のボールのように空中に投げ上げていた。重力で落ちてくる瞬間、前髪の奥の瞳が光るのが見えた・・・ような気が、した。

包丁が一閃したかと思うと、完璧にみじん切り状態になった玉ネギがボウルに静かに収まっていた。そのボウルをぐい、と突き出しながらベルは不機嫌そうに言う。

「これでいーんだろ。腹減ってるって言ってんのにトロトロしやがって」

「す・・・」

すごいすごい。ベルの曲芸、いや神業にツナは本気で感動した。

「あ、あのじゃあ、これもお願いできますか」

感動に任せて、冷蔵庫から出した豚肉とピーマンを差し出す。ベルはフンと鼻を鳴らした。

背後で包丁がきらめいている間に、ツナは卵を混ぜて、フライパンになみなみ入っている余分な油を処理する。

「切れたぜ」

「あ、ありがとうございます。じゃあオレ炒めますね」

材料が切れてしまえば、あとは順番に炒めるだけなのでツナにもできる。イーピンに教えてもらったとおりの順番で材料と調味料を入れて炒めた。自分も昼食を食べそびれていたので、二人前作ることにする。

少し焦げた炒飯を皿に入れて、スプーンを添えてベルの前に置いた。本当に空腹だったのだろう、ベルはすぐにスプーンを取って食べ始める。

「美味しい、ですか?」

「うん」

おそるおそる聞いてみると、意外に素直な答えが返ってきた。

さらさらとした白金の髪、その前髪で瞳が隠れているせいで、やはり表情は読みづらい。しかし、黒いコートにボーダーのシャツ姿で暴れまわっている印象ばかり強かったので、奈々の趣味であろう淡い水色のスウェットを着て黙々とスプーンを口に運ぶ彼はやけに新鮮で、そして少しだけ幼く見えた。

(考えてみたら、そんなに年違わないんだよね)

お腹がいっぱいになってきたおかげか、だんだん落ち着いてきた。思い切って話しかけてみる。

「あの」

「オレはさ」

「え?」

逆に話しかけられて、ツナは驚いた。

「オレは。ボスが、XANXUSが十代目になるって思ってた。ガキの頃から、ずっと」

スプーンを動かしながら、ベルは独り言のように言う。

「おまえ、どうするつもりなの。十代目になったら、オレらのこと」

「え?どうって・・・」

急に聞かれて、ツナは面食らった。マフィアのボスになるつもりすらないのに、なってからのことなど考えたこともない。
今だって、他にやってくれる人がいるなら代わってもらいたいくらいだ。

返答に窮していると、ベルは口元に不敵な笑みを浮かべて言う。

「まー、潰すって言われても、おとなしくやられる気はないけど」

「オレは・・・」

彼らヴァリアーとは、ボスの座とボンゴレリングをめぐって戦った。仲間がたくさん傷ついたし、自分自身も消えない心の傷を負った。そのときの感情を思い出して、ツナは目を伏せる。

「よく分からないですけど、でも」

でも。

「あなたたちを、嫌いとか憎いとか思ったことは、なくて」

そう。あの戦いのさなかでさえも。
嫌いだから、憎いから、という理由で対峙したことはなかった。

ただ、止めたい。そう思った。

運命というものがあって、それがXANXUSを十代目にしようとしているのなら、その運命を変えたかった。
戦いの後に、彼らヴァリアーを何とかしよう、などと考えたことはない。

「ヴァリアーの人たちがボンゴレにいたいって思ってるなら、オレはそれを断るつもりはない、かな」

今ではボンゴレファミリーがとても大きな組織であることは理解している。そして、所属する者みなそれぞれがそれぞれの思いを抱えて生きているということも。

獄寺や山本、ランボ、了平のように、自惚れでなければ自分と共に歩もうとしてくれている者もいれば、雲雀や骸のように、彼ら自身の目的のためにボンゴレに力を貸してくれている者もいる。

ヴァリアーも同じなんだろうと思った。今も、そして目の前にいる彼には言えないけれど、十年後もボンゴレの一員として留まっているのは、きっと彼らの意志だから。

「・・・甘いヤツ」

伝わっただろうか、と目線をあげると、呆れたような顔で呟くベルがいた。しかしそれは決して嫌な響きではなかった。

炒飯を完食したベルはスプーンを皿の上に投げ出して、うーん、と両腕を突き上げて伸びをする。

「食ったら眠くなった。寝ていい?」

「あ、はい。・・・オレのベッドでよかったら」

「おまえのでも誰のでもいいって。二階だな?」

返事を待たずに、ベルは空の食器をそのままに席を立って出て行く。
階段を上がる足音は猫のように静かで、ほとんど聞こえなかった。

「・・・・・・」

キッチンに一人残されたツナは、しばらくぼんやりとしていた。
彼―ベルフェゴールが残していった非日常的な空気が、まだ漂っているような気がした。

電話が鳴った。立ち上がって、受話器を上げる。

「もしもし」

『もしもしツッ君?』

「母さん!」

電話越しの母の声がひどく懐かしく聞こえる。ツナは受話器を握りしめた。

『ごめんね遅くなって。やっと電車が動き出したから、今から帰るわ』

受話器を持ったまま窓の外に目をやると、雪はまだ降っているものの、かなり弱まってきていた。ツナはほっとして、ほっとした拍子に思い出す。

「あ・・・母さん」

『なに?』

「ケーキ、もうひとつ買ってきてもらえる?うん、一人来てて・・・いや、獄寺君じゃないよ。山本でもなくて、えっと・・・」

本職の殺し屋がうちに来てるなんて、奈々には言えない。絶対に言えない。

「友達・・・じゃないんだけど。うん、まぁ近い感じ」

なぁにそれ、と電話ごしに笑う奈々の声を聞きながら、ツナも少しだけ笑った。

結局、ベルは奈々の作った夕食を食べ、ケーキもしっかり食べ、翌朝、迎えに来た部下と出て行った。まだ少し湿った白いブーツを履いて、黒いコートを羽織って。

沢田家の前に止めたタクシーに乗り込み、去り際に、見送りに出たツナの顔をちょっと見あげて言う。

「取り巻きどもによろしくな」

「あ・・・ハイ。そっちも、XANXUSたちによろしく」

よろしくってのもヘンな感じだな、と思いながらツナは言った。

扉が閉まる。若き殺し屋を乗せたタクシーは雪の残る道を走り出し、角を曲がってすぐに見えなくなった。
ツナは、昨日の吹雪がウソのような、晴れ渡った青空を見上げた。

THE END
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後書き(文字反転)

REBORN版「吹雪の山荘」(?)。王子に振り回されるツナを書きたかっただけ、という・・・。
でもベルは意外と警戒心強くて人見知りしそうと思うので、ワガママ言えるっていうのは彼なりの親しみなのかもとか思ってます。

読んでくださり、ありがとうございました。

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