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『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第2話

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「ボスさんかぁ?」

「・・・なんだ」

電話に出たXANXUSの声は、明らかに不機嫌そうだった。

しかし機嫌がいいときの方が珍しく、さらにそれを隠そうともしないのが彼だ。ほぼ直属といってもいい立場で任務をこなして三ヶ月、そのあたりはすでに心得ている。もともと鷹揚な性格のスクアーロは気にすることなく、歩きながら話す。

「任務完了だ」

「早いな」

「ターゲットが死んだ」

「・・・殺ったのか」

電話の向こうから、ため息まじりの声で言われる。

「オレじゃねぇ。とんだ見込み違いだぜ、諜報部もヤキが回ったなぁ?」

「どういう意味だ」

「お笑い草だ。野郎、ガキに殺られやがった」

「ガキ?」

怪訝そうな声。気配で、XANXUSが受話器を持ち替えたのが分かった。

「ああ。七歳か八歳か、そんくらいのチビガキだ。オレが着いたときにはもう死んでた」

「・・・・・・」

「ってことで、明日の朝戻るぜぇ」

言って、通話を終えようとしたとき。

「待て」

「あぁ?」

XANXUSの声が割り込んでくる。

「任務変更だ。そのガキをターゲットにしろ」

「はぁ!?」

スクアーロは思わず大声を出した。
突然なにを言い出すのだこの男は。

「見込みがあるようなら連れて来い。入隊させる」

「ちょっと待て、ボスさん正気かぁ?」

「てめぇよりはな。どうせ読んでねぇんだろうが、諜報部の資料ではあの候補者は南イタリアではちょっとした有名人だ」

「有名人?」

「そうだ。二年前の刑務所内大量殺害事件の容疑者で指名手配中。ボンゴレ諜報部がカラビニエリを出し抜いてようやく居所をつかんだ大物だった。明日の新聞が楽しみだな」

絶句するスクアーロとは対照的に、XANXUSは電話越しに低く笑った。

「そいつを倒すとは将来有望なお子様だ。カスてめぇ、まだ帰ってくるなよ」

「な、ちょっ!」

通話が切れた。

スクアーロは携帯電話をにぎりしめて呆然とする。しかしすぐに身をひるがえし、もと来た道を駆け戻った。

ガキの観察なんて正直まっぴらだが、スクアーロにとってXANXUSの望みは至上の命題。彼に対して、いくら不遜な態度や乱暴な言葉遣いをとっていたとしても、そうなのだ。

となると、まずするべきはあの死体を処理することだ。自身も世間的には決して褒められた職業ではないわけで、この界隈を警察やらマスコミやらにうろつかれてはこの先の任務がやりにくくなる。

状況が百八十度変わったとはいえ、自ら通報してやろうなどとしていた十分前の自分の頭をはたいてやりたい。柄にもないサービス精神なんて、やはり起こすものではない。

自慢の俊足で駆け戻り、路地に足を踏み入れたスクアーロは、しかしその場に立ち尽くした。

(な・・・)

そこに確かにうつぶせに倒れていたはずの、男の死体が消えていた。

死体はなくとも、赤黒い血だまりが残っている。場所は間違っていない。

(誰かが隠しやがった、のかぁ?)

布でも掛けて運んでいったのか、血痕など手がかりになりそうなものは何も残っていなかった。足元の血だまりから目を逸らせば、そこはただの平凡で薄暗い路地でしかない。

(・・・・・・)

腑に落ちない思いを抱えたまま、スクアーロはとりあえず地面に残った血だまりを靴の底でこすって完全に消し去った。

スクアーロが初めてXANXUSを見たのは、ほかでもないヴァリアーのボス就任パーティーでのことだった。
自分の立つはずだった場所に威風堂々と立つその男の姿を一目見たとき、スクアーロは敵愾心などというものを少しでも感じていた自分を恥じた。畏怖、という感情の意味を初めて知った。

十六歳にして、九代目直属の暗殺部隊の長という次期ボンゴレボスに相応しい地位に就いたそのXANXUSは。
表には出さないがその実、自分の子飼いの組織・ヴァリアーを強化することに熱心だ。

見込みのない者は容赦なく粛清の対象にするし、見込みのある者は引き立てて、ヴァリアーはいっそうの少数精鋭化が進んでいる。

就任して三ヶ月、XANXUSはボスとしてそのたぐいまれな手腕をいかんなく発揮している・・・まるでなにかに強く突き動かされるかのように。

その衝動の理由、XANXUSの暗い計画をスクアーロが知るのは、もう少し先のことになる。

翌朝。
市内にとった安宿を出て、スクアーロはまた路地に向かう。

任務の内容がガキ探しというのはいささか不満だが、XANXUSの命であれば仕方ない。こんな朝から働き者だなぁ、と前向きに自分を評価するスクアーロの右腕の包帯の下には、昨日つけられたばかりの新しい切り傷が残っている。

銃使いではなく剣士としての道を選んでからというもの、肉を切らせて骨を断つような自らを省みない戦い方のクセのおかげで。包帯の巻き方は上手くなるばかりだ。

路地に入る。血の染み込んだ地面を踏み、とりあえず少年が窓枠に腰掛けていた建物の前に立った。
建物は、一応のかたちは四階建てのアパートメントだが、まともな住居としては使えない廃墟だ。一階の入り口に立って通路を見通すと、すべての窓ガラスは割られ、すべてのドアは取り外されている有様。

(それにしても)

律儀に一つ一つの部屋の中を調べて回りながら、スクアーロは心中でつぶやく。

(ガキが多いなぁ)

時間をかけて建物内を見て回ったが、足の折れた椅子が転がっていたりボロ布が落ちていたりするだけですっかり荒廃している。電気も通っていないようで、人が生活している気配はなかった。

それにも関わらず、建物の中では始終、子どもの姿を見かけた。よそ者を警戒しているのか、二・三人で固まって遠くから見ているだけで近づいては来ない。目が合うと、さっと逃げていく。

すぐに姿を隠してしまうので正確ではないが、一階から四階まで歩く間に、様々な髪や肌の色をした幼い子どもたちを、十四、五人は見かけただろうか。
しかしどの子どもも着古したシャツにジーンズと小汚い服装をしており、肝心のナイフ小僧らしき姿を見つけることはできなかった。

(どこにいるんだぁ、って、おい、これじゃまるで・・・)

ナイフ小僧の姿を求めてさまよっていると、だんだん迷子を探す親のような心境になってくる。オレはいったい何をしているんだか、とスクアーロは自分にげんなりした。

(あのクソガキを入隊させる・・・?ったく冗談キツいぜボスさんよぉ・・・)

まだ引き攣れるように痛む右腕の傷を感じながら、言っとくがオレは反対だからなぁ、とぶつぶつとぼやきながら廃墟をうろつく。窓ガラスのない窓からじかに差し込む午前中のやわらかな日の光を浴びて、あくびをしながら三階の通路を歩いていたスクアーロの視界に、ふと動くものが見えた。

(またガキかぁ)

残念ながら金髪ではない。しかも少年ではなく少女だった。

昨日の少年よりもさらに幼い少女が、椅子を二つ重ねた上に立ち、窓から身を乗り出して、外にある何かを取ろうと懸命に腕を伸ばしていた。窓の外の何かに夢中で、スクアーロには気づいていない。

気にせず通り過ぎようとしたとき、割れ残っていたガラスにこちらの姿が映りこんだようだった。少女がスクアーロに気づく。

「あ」

少女は、驚いたのか小さく声を上げて、その拍子に椅子の上でバランスを崩した。もとより危なげだった椅子の塔が大きく揺らぐ。

「おっと」

スクアーロは、とっさに少女の襟首をつかんで引っ張りあげた。次の瞬間、派手な音を立てて椅子が倒れる。
連日、ガキの襟首をつかみ上げているような気がするのは気のせいだろうか。

「あ、ありがと、・・・ございま、す」

つかみあげた少女を通路に下ろしてやると、蚊の鳴くような声で礼を言われた。
スクアーロは唇を曲げて、そのまま行き過ぎようとする。

「あの」

「あぁ?」

呼び止められて振り返ると。少女が小さな声をさらに小さくして、ぽつりとつぶやいた。

「ぼうし、が」

うつむいたまま、窓の外を指差している。目線を送ると、張り出した木の枝に引っかかった黄色い帽子が風に揺れていた。

(めんどくせぇ・・・)

スクアーロは舌打ちする。しかし、もしかしたらこの少女から、あのナイフ小僧のことを聞き出せるかもしれないと思い直した。ため息をついて、大股で窓に近づく。長い腕を伸ばして帽子を軽々と取ってやると、少女の今にも泣き出しそうだった顔がぱっと明るくなった。

どこかで拾ってきたような古ぼけた帽子だが、少女にとっては宝物なのだろう。スクアーロは少女に近づき、乱暴に頭にかぶせてやる。

「ありがとうございます!」

また礼を言われた。もちろん悪い気はしないが、ここからが本題。腰を落として少女に目線を合わせ、スクアーロは可能なかぎり声のトーンを落として優しい声を絞り出す。慣れないことをするものだから、思わず声が裏返りそうになった。

「金髪でナイフ持った奴を知らないかぁ?」

問われた少女は、きょとんとしてスクアーロの顔を見た。

「・・・おにーちゃん、ベル様のおともだち?」

「・・・ああ」

(ベル様?)

なんだそりゃ。スクアーロは内心あきれたが、ここは頷いておく。

「ベル様、お屋根のうえにいるよ」

少女は無邪気に笑った。ベル、という名前を口に出すだけでも嬉しそうだ。

「お屋根?」

「そう。ここの・・・」

「おい!」

不意に、スクアーロの背後から第三者の声が割って入った。少女は顔を上げ、スクアーロはしゃがんだまま首だけで振り向く。
見ると、通路の奥に少女よりも少し年かさの少年が腕組みをして立っていた。その後ろには同じ年頃の少年が二人立っている。

「お兄ちゃん」

「なによそ者とペラペラしゃべってんだよ、おしゃべり!」

お兄ちゃん、と呼ばれた腕組み少年が少女に大声で言う。そして、スクアーロに向かって怒鳴った。

「大人は出てけよ」

後ろの二人の少年も、声をそろえて言う。

「出てけよ」

(大人、ねぇ・・・)

スクアーロは苦笑した。十歳に満たないだろう子ども達から見れば、十四歳になったばかりの自分も「大人」の部類に入るのだろうか。
年齢のわりに背が高く、鍛えているおかげで身体つきもよく、因果な仕事のせいで同世代の中では格段に落ち着いているせいで、実年齢よりも年上に見られているのかもしれない。常々、早く成長したいと願っている自分からすれば嬉しいかぎりだと思う。

黄色い帽子の少女は、スクアーロに律儀に頭を下げると、兄と思しき少年の元に駆け寄っていった。

「おまえ何か言ったのかよ」

「え、ううん、なにも」

少年は、スクアーロを見てフンと鼻を鳴らすと、背を向けてさっさと歩き出した。二人の少年も後に続く。
少女も兄の手をつかんで一緒に歩き出したが、階段を降りて見えなくなるまで、スクアーロを何度も振り返っていた。

(さてさて、と)

黄色い帽子が視界から消えたところで、膝についた砂ぼこりを払って立ち上がる。手に入れた情報は、少年の名前が『ベル』だということと『お屋根の上』にいるらしいということ。

(お屋根、お屋根っと)

スクアーロは通路の端まで歩き、崩れかけた階段を上がった。

四階建てのアパートメントの最上階。先ほど回ったときには気づかなかったが、通路の最端の古ぼけたベランダに出て首を伸ばしてみると、すぐ脇の壁に作業用か非常用か、鉄製のはしごが備え付けられていた。

表面はぼろぼろに腐食し赤錆が浮いているが、叩いてみたところ芯はまだしっかりしているようだ。スクアーロはその鉄はしごに軽く足をかけると、そのまま腕を伸ばして屋上に右手をついた。片手懸垂の要領で、一息に身体を引き上げる。

軽々と屋上に上がると、そこにはだだっ広い平面が広がっていた。さえぎる物のない暖かな日差しが降り注いでいる。
色気のないコンクリートの打ちっぱなし、そのほぼ中央に垂直に立った二本のポールと、その間に吊られたなんとも場違いなハンモック。ぜいたくにも日よけのパラソルまで立っている。そしてハンモックの上には小さな人影。

(いやがった)

探しものが見つかるというのは嬉しいものだ。たとえ相手が小生意気なガキ一匹だとしても。

ぶらぶらと近づくと、はたしてそれは昨日の金髪の少年で。ハンモックの中で横向きに身体を丸めて、すうすうと気持ち良さそうな寝息を立てていた。

スクアーロは無言でそばに寄る。ポケットに手をつっこんだまま足を振り上げ、ハンモックの片端を結んでいるポールを思い切り蹴飛ばした。

「ふわぁっ!?」

やわなポールはしなるように揺れて、ハンモックが反転する。少年は頭から落ちそうになって、しかしかろうじて半身を落とすにとどまった。

下半身だけをハンモックに引っ掛けて、あおむけに逆さまになった状態で。少年はスクアーロの存在に気づいたようだった。

「お目覚めかぁ?」

「うーん・・・」

逆さまの状態のまま、太陽がまぶしいのか両手で目をごしごしとこすった。相変わらず、厚い前髪が瞳を隠している。

「・・・だれだっけ」

「・・・よっぽどアドリア海に行きてぇらしいなぁ」

「ああ、昨日の」

ぼんやりとした声で言われる。

「ごめんねぇ。王子寝起き悪いの」

(また『王子』かよ)

なんの『ごっこ』だか知らないが、徹底している。しかも、まんざら似合わなくもないから困る。

口は悪いし手癖は悪いしで最悪なのに、どことなく漂う高貴な雰囲気は。

(あいつに似てんのかもなぁ)

スクアーロ自身もマフィア関係の家の生まれだが、学校の同級生に、マフィアの旧家とも言うべき名門の嫡子がいたことを思い出す。
この少年のように傍若無人な性格ではなく、むしろ正反対でどうしようもないへなちょこ泣き虫野郎だったが。それでも先祖から受け継いだ血とかいうもののなせる業なのか、どこか凡人とは違う空気をかもし出していた。

本人にその自覚があったかどうかは怪しいけれど。そういえば、日の光を浴びて、きらきらと輝く髪の色も同じだ。

「で、なにか用?」

人を食ったような笑顔で、少年はきれいな歯並びを見せる。

「・・・頭に血が上るんじゃねぇか?」

逆さまになって見上げる、という器用な体勢を取る少年を見下ろして、一応言ってみる。

「ちょっとクラクラすんのが、きもちいんだよね」

また笑った。

「名前は、ベル、でいいのかぁ?」

「んー、まぁいいよそれで」

曖昧な返事。なんだそりゃ、と思ったが深く追及はしない。所詮はお尋ね者の集まりだ、本名を求めているわけでもない。
とりあえず、寝起きが悪いのは暗殺部隊の適性としてはマイナス1。

「年はいくつだ?」

「八歳。ねぇこれなんのアンケート?」

少年は・・・ベルは笑いながら答える。アンケートも何も、スクアーロは報告書に書き込む項目を頭の中で埋めているだけだ。名前はベル、年は八歳、と。
そうしているうちに、ベルは一人で勝手にしゃべりだす。

「好きな食べ物はお菓子。好きな飲み物はミルク。好きな動物はふかふかしたやつ」

「それは聞いてねぇ」

そう?などと言いながら、小さな手を打ち合わせて笑っている。
スラムのガキにしてはよく笑うな、とスクアーロはある意味感心した。

「お菓子で一番好きなのはチョコレート。チョコレートで一番好きなのはミルクタイプ」

「好きなものが多いな」

「うん」

相変わらず逆さまになって両手をばんざいして、ベルはこくりと頷いた。

「なら殺しは好きか?」

スクアーロの唐突な質問に、ベルは歯を見せていた口をぴたりと閉じる。

しばしの沈黙。

「・・・なんで?」

「いや、なんでっていうか・・・」

暗殺を生業にする気があるのかどうか。せっかちな性格が災いしてつい言ってしまったが、まだボンゴレの名を出すのは早いと思い直す。
スクアーロが黙っていると、ベルはまた口の端をあげて笑った。

「いーこと教えてあげよっか」

「は?」

手招きされて、スクアーロは身をかがめてベルの口に耳を近づける。
まるで大切な打ち明け話をするように口の横に両手を当てて、ベルはスクアーロの耳にそっとささやいた。

「王子ね、人殺し、だーいすき」

To Be Continued...
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後書き(文字反転)

さくっと二話目です。

長編ということで必要最低限のみ、舞台装置としてのオリジナルキャラをお許しくださいませ(深々)

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