« REBORN(リボーン)標的243の感想(ジャンプ(WJ)2009年27号) | トップページ | 『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第4話 »

『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第3話

<<第1話に戻る
<<第2話に戻る

「国籍は」

「ひみつ」

「家族は」

「しらない」

「経歴を教えろ」

「やだ」

「・・・いいかげんにしやがれ、このクソガキぃ!!」

声を荒げて怒鳴りつけても、ベルはまったく動じない。
大人をもすくませるスクアーロの腹からの怒声も、どうやら効果がないようで。

「だって聞く理由教えてくんねーし」

途中まで調子よく質問に答えていたベルが、急にはぐらかし始めた。
いわゆる『飽きた』という状態になったらしい。ハンモックによじ登って、横になることはないが腰掛けてそっぽを向いている。

「だからそれは」

「それは、なに?」

「う・・・」

おいそれとボンゴレの名前を出すわけにはいかない。まだ早い。
気の利いた嘘をつければいいのだが、嘘が苦手なスクアーロは黙ってしまう。

そんな彼を見てベルは鼻を鳴らした。反動をつけてハンモックから飛び降り、スクアーロの脇を行き過ぎる。

「どこ行くんだぁ?」

「帰る」

「どこにだぁ?」

「おまえにカンケーない」

それはそうだが、ここで見失ったらまた探し回ることになる。それは困る。
しかし子どもの気をひく方法など知らないし分からない。

「なぁ、一戦やろうぜぇ」

考えた末に出した答えがこれ。

ベルの後姿がぴたりと止まる。一瞬期待したスクアーロだったが。

「気分じゃない。めんどくさい」

ぼそっとつぶやいてまた歩き出され、スクアーロはがっくりと肩を落とした。

機嫌が良いと見えたかと思えば、すぐにへそを曲げる。気分の変化が激しい。激しすぎて読めない。

そもそもは、この少年が暗殺部隊の一員として使えるかどうかを判断しにきたのだ。そのためにはやはり手合わせ願いたいところだが、相手にはまったくその気がないときた。

戦う気のない相手、しかも年端もいかない子どもに襲い掛かるのは気が引ける。相手にやる気があるならまだしも、やる気ゼロでは手の出しようがない。なによりスクアーロ自身のプライドが許さず、どうしてもブレーキがかかる。

無論、それが任務であれば遂行するだけだが、今回にかぎっては目的は殺しではなくスカウトだ。戦うことは手段であって目的ではない。

適当な理由をつけてXANXUSに不適格の報告をする、という選択肢はスクアーロの中ではありえない。一度受けた任務はきっちり遂行するのがポリシーだ。とにかく、なんとかしてこの少年の適性を見定めなくては。

「・・・なら、オレを攻撃してみろ」

「は?」

「オレは手を出さねぇ。自慢のナイフを好きに投げてみな」

それを聞いたベルは顔をしかめた。

「いーこと教えてあげよっか」

「またかぁ?」

「王子、命令されんの大っ嫌い」

言い捨てると、ぷい、と顔をそむけて、そのまま立ち去ろうとする。スクアーロは焦った。

「待て。待て待て待て」

「なに」

うるさそうに振り向かれる。あからさまに軽くあしらうような態度。スクアーロの中で、己のプライドと任務遂行使命という二つの重りを掛けた天秤が、嵐の中の船のようにぐらぐらと揺れた。

歯噛みしながら苦悩するスクアーロを見て、ベルはため息をつく。
そして、言った。

「もしかしてさ、遊んでほしいの」

「はぁ?」

「寂しいんでしょ。王子にかまってほしいんでしょ。素直にそう言えばいいのに」

「なっ」

(なにフザけたことぬかしてんだこのクソガキがぁ!!)

年下の少年に哀れむように言われて、スクアーロは心の中で激高する。
しかしよくよく考えてみれば、勝手に目をつけて勝手に付きまとっているのはこちらなわけで。相手にしてみればいい迷惑かもしれない、ということに今さらながら気づく。気づいてしまう。

腹に力を入れて気高いプライドを一時封印し、スクアーロは差し伸べられた救いの手につかまることにした。

「そ・・・そう、だぁ」

かみ締めた奥歯が、ぎり、と音を立てた。

スクアーロは花びらのように繊細なティーカップを持ち上げ、中の紅茶を口に含んだ。

「おいし?」

「・・・・・・」

眉間に深いしわを刻んだまま、口の中で紅茶をひとまわりさせて飲み込む。

「・・・・・・」

「おいしいでしょ?」

まったく分からなかった。

スクアーロにとって飲み物とは、単に乾いた喉を潤すためのもので。香りを楽しむとか味の深みを感じるとか、そういったことにはまるで疎い。
しばらく悩んだ末に、正直な感想を言う。

「・・・熱い、な」

一応、熱いか冷たいかは分かる。
あと、毒が盛られていないことも分かる。以上。

それを聞いたベルはつまらなそうに口をとがらせ、わざとらしくため息をつく。しかし紅茶を淹れたのはもちろん彼ではない。

「・・・悪くないぜぇ。ありがとな」

スクアーロが言ったのはベルにではなく。
先ほど緊張した手つきで紅茶を淹れ、今は少し離れた位置に無言で立っている少年に対してだ。それを聞いた彼はぱっと顔を赤らめ、慌てたように急いで部屋から出て行った。

部屋に二人だけになる。

スクアーロが座っているのは、腰が沈むほどにふかふかとしたソファ。目の前のローテーブルには琥珀色の液体をたたえた白磁のティーカップ。正面には例の小生意気な少年・ベルが同じデザインのソファに腰掛けて床に届かない足を揺らしている。

ほぼ正方形の部屋に、このソファセットと、背の低いチェストと、子どもサイズのベッドがある。ベッドにはなぜか天蓋まで付いている。
家具は新しいものではない。しかし家具類も床も壁もぴかぴかに磨きこまれていて、スラム街の真ん中とは思えないほど快適な空間が作り出されていた。

ここが、彼・・・ベルの住まいなのだ。

この小ぎれいな部屋には窓がない。この部屋が地下にあるからだ。

第二次世界大戦中に作られたものか、巧妙に隠された地上の入口から階段を下ると、そこには地下室があった。入口は狭いが中は広い。電気も通っている。片隅に置かれた音楽プレーヤーから、静かなクラシック音楽まで流れている。聞いたことのある旋律だが、芸術に疎いスクアーロには曲名は分からない。

「おまえ、ここに住んでるのかぁ」

「そ、だよ」

カップに優雅に口をつけて、ベルはうなずく。紅茶を飲む姿がなんともサマになっているのが憎らしい。

「このあたりにうじゃうじゃいるガキどもはなんだ?友達か?」

「ううん。国民」

「こく・・・」

スクアーロは絶句した。本気で言っているのだろうか、と軽くめまいまで覚えたので、話題を変えることにする。

「・・・ナイフ、見せてくれるか」

「いーよ」

ベルはあっさりうなずき、身体のどこからか一本のナイフを取り出した。

やっぱり持っていやがったか、と思いながらスクアーロはそのシンプルな形状のナイフを受け取る。武器を肌身離さず身につける習慣は、悪くない。暗殺部隊の適性としてはプラス1。寝起きの悪さと合わせて、現在ドロー。

手に取ったナイフをしげしげと眺める。柄の部分に施された細工はまるで飾り物のように繊細で、しかし人の手にしっとりと馴染む感触は、それが決してただの装飾品ではないことを示していた。

(・・・ん?)

柄を見ていたスクアーロは、そこに透かし彫りのように刻まれた紋章に気づき、思わず眼をすがめる。

「おまえ、このナイフどうした?」

問うと、ベルはカップから顔をあげる。

「どうしたって何?昔から使ってる王子専用だけど」

「・・・・・・」

そこに彫りこまれていたのは、誇らしげに主張する、某王家の紋章。

(・・・まさかな)

スクアーロは刃先に目を移す。材質の良さもさることながら、丁寧に磨かれた直刃は、照明にかざすと光を反射してまぶしい光輪を放った。

その輝きに剣士としてしばらく見とれていたが、紅茶を飲み終わったべルの声に我に返る。

「ね、遊んであげるから遊ぼうよ」

「おまえ、何ヶ国語話せる?」

ベルの部屋には、いわゆるゲーム機器の類はなかった。そもそもテレビがない。床に敷かれた毛足の長いラグマットの上にあぐらをかいてトランプのカードを切りながら、スクアーロは聞いた。

ヴァリアーに入隊するには七ヶ国語を話せなければならない。この条件を満たせないのであれば即不適格となる。つまり任務完了。期待を込めて聞いたスクアーロだったが。

「えー、数えたことないけど・・・」

ラグマットの上にぺたんと腰を下ろしたベルは、配られた手札を膝の上に置いて、いち、にい、と考えながら指折り数えていく。やがて片手では足りなくなって両手を使い始めたのを見て、スクアーロは唖然とした。

「・・・本当かぁ?」

隣接した国の言葉など二、三ヶ国語を話す人間は珍しくない。しかしこの年で七ヶ国語は無理だろうとふんでいたのに。

「王子だもん、これくらい当然。あと、あいつら色んな言葉しゃべるから。話聞いてやってたら覚えた」

あいつら、というのは、この廃墟に出入りしている子どもたちのことだろう。確かに、移民が多いのか様々な髪や目の色をしていたように思う。

結局、折られた指は六本。試しに話させると、面倒くさそうにしながらもしゃべり出す。

「Este un caine in camera. Ce prostie. ・・・これ何語?」

「ルーマニア語だなぁ」

「ふーん」

言語の名前も知らずに話しているらしい。

正統な文法の言語と、俗語混じりの言語に完全に分かれている。前者はきちんとした教育を受けて身につけたもの、後者は子どもたちから覚えたものだろう。

手札を取ってブラックジャックを進めながら、確かに六ヶ国語の会話ができることを確認して、スクアーロは内心舌を巻いた。厳密に言えば六ヶ国語では不合格だが、この分ならあと一ヶ国語くらいは軽くマスターしてしまいそうだ。不適格の決定打にはならない。

「・・・おまえ、なんでこんなところに住んでる?」

高い教育を受けてきたんだろうに、と不思議に思ったスクアーロは基本的なことを聞いてみたが、その質問は聞こえないふりで流された。ベルはニッと笑って指を一本立てる。

「スタンドね」

「早っ!」

To Be Continued...
************************************************************

<<第2話に戻る
第4話に進む>>

後書き(文字反転)

さくさく第3話です。

スクアーロとベルがしゃべってるだけでうっかり幸せになってしまうので、油断するとすぐに長くなります。。。

ここまでお付き合いくださっている方、本当にありがとうございます。まだ続きます。

●小説部屋の目次へ

|

« REBORN(リボーン)標的243の感想(ジャンプ(WJ)2009年27号) | トップページ | 『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第4話 »

●03-2.小説部屋」カテゴリの記事