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『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第6話

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「おまえ変わってるよね」

ししし、と笑いながら、目の前を行く少年が言う。

「踊りまわってると転ぶぞぉ」

歩くというよりは、ぴょんぴょん飛び跳ねながら前進しているといった方が近い。ときどき手を広げて回ったり、スクアーロの方に身体を向けて後ろ歩きをしたりする。バネ仕掛けの人形のようだ。

「王子の騎士にしてやってもいいよ。三食おやつ付きだし」

「そいつぁ光栄だが、先約があるなぁ」

大股で歩きながら言うと、ベルは振り向いて口を曲げる。

「そうなんだ?そいつも王子?」

「・・・御曹司」

「オンゾーシ?」

「いいとこのお坊ちゃん」

「なら王子のが上じゃん」

「どうだかなぁ」

「ねぇどんな奴?」

(どんな奴・・・?)

改めて問われると返答に困る。

「・・・悪魔?」

ぼそっと呟くと、ベルはおかしそうに笑った。

「おもしろそう」

「てめぇみたいな生意気なガキ、頭からかじられるぜぇ」

「おもしろそう」

スラム街のさらに裏通り、月の見えない薄闇の中を金髪の王子と銀髪の騎士が行く。
目指すは黒髪紅眼の大魔王・・・ではなく、ザコモンスターの巣食う穴ぐらのような酒場。

悪魔的な夜。

「たーのーもー」

素っ頓狂な声を上げて、うらぶれた地下酒場の扉を両手で押し開けるベル。

地上の入口に座り込んでいた見張りらしい下っ端、その腕に彫られた刺青を見て、二人はとりとめのない会話をしているうちに目的地に着いたことを知った。いい目印になってくれただけの見張りは、武器を抜くまでもなく足蹴りで打ち倒してきた。

店内には三十人程の人間がいたが、ベルの背後に立ったスクアーロは素早く店内を見渡して、中に問題の一味しかいないことを確かめる。

XANXUSの父親である大ボンゴレの温厚なボスは、任務に一般人を巻き込むことを好まない。XANXUSの顔を立てる意味でも、一般人は可能な範囲で見逃してやろうと思っていたスクアーロだが、今回は余計な心配だったようだ。

酒場女の姿もなく、酒盛りというよりは何かの会合をしていたようだった。なんの悪巧みだかなぁ、と自分を棚に上げて思うスクアーロ。

なんだ店を間違えてねぇか、だのガキの来る所じゃねぇ、だのといった、捻りのない罵声が浴びせられるが、目の前の小さな少年はもちろん聞いていない。

「ミルクとお菓子とった奴、だれ」

単刀直入な問いかけに、場が静まり返る。

「王子がサボテンにしてやるから出てこいよ」

朗々と宣言する声が響いた次の瞬間、地下酒場を揺るがすほどの下品な笑いの渦が巻き起こった。
打ち鳴らされる拍手と口笛の音に耳が痛くなる。

やがて、笑いすぎて涙を流しながら、一人の大柄な男が手を挙げた。

「オレらだが。何か用かい、おチビちゃん」

「うん。出てきてくれてありがとう」

ベルはにっこりと笑った。

店に入った瞬間からいくつもの顔を注意深く観察し、早々にターゲットを見つけ出していたスクアーロは、これまた早々に始末を終えた。一つ目の任務はあっさり完了。

ベルはといえば、『国民』の仇をナイフの一打であっさり血祭りに上げてみせた。呆気にとられた周囲の男たちが慌てて銃を取り出し構えようとしたときには、すでに彼らの首と胴体は無数のナイフによってちぎり離されている有様だった。

悲鳴、怒号、銃声、床を踏み鳴らす足音、テーブルや椅子の倒れる音、何かが割れる音。阿鼻叫喚の騒ぎの中、スクアーロはぶらぶらと歩いてカウンターの中に入り、適当な酒瓶を開けて中身をグラスに注ぐ。入隊してからたしなみ始めたアルコール、氷のないそれを地味にすすりながら、カウンターの中から暴れまわるベルを眺めた。

(たいしたもんだぜぇ)

ナイフの洗礼を受けて、面白いように倒れ伏していく屈強な男たちを見て、内心、感嘆のつぶやきがもれる。

敵の動きも含めて、その光景から目を離さないまま。また酒を求めてカウンターの下を手探りしていると、空中で身軽に一回転したベルが靴音を立ててカウンターの上に乗ってきた。その背中に話しかける。

「派手だなぁ」

「なにしてんのおまえ?王子が全部もらっちゃったけどいーの?」

「オレの任務は終わりだぁ」

見れば、すでに無傷なのはスクアーロとベルだけで。酒場には、すでに命を失った死人か、命はあるものの傷口を押さえて床をのた打ち回る怪我人しかいない。

「まだやんのかぁ?」

「んー、もういいかも」

カウンターの上にしゃがみこんだまま、口を尖らせるベル。

「こいつら、全然弱っちくてつまんねーし。王子の勝ちー」

ベルが肩越しにスクアーロを振り向いて笑った、そのとき。

「馬鹿・・・!」

視界の端に捉えた映像。とっさに華奢な腕をつかみカウンター下に引き込むのよりも一瞬早く、弾けるような音と共にベルの服の袖が焼き切れた。
火薬と血と肉の焦げる匂い。ベルは驚いたのか、カウンターの下で腕を押さえて背中を丸め、縮こまる。

「いったぁ・・・」

「馬鹿が、調子乗って油断してんじゃねぇ。死ぬぞ」

腕の中に抱え込んだベルを怒鳴りつける。足を刺されてうつぶせに倒れていたわずかな生き残りの一人が、服の下から探り出した銃でベルを狙撃したのだ。幸い最後の一弾だったらしく、二・三度、空撃ちの音がして静かになった。

殺しは、自分や、おそらくこの少年にとっては日常的なこと。しかし追い詰められて命を奪われる側からすれば、自分の人生が終わるか終わらないか、という最重要局面には違いない。

この仕事を続けていると、その温度差を見誤って失敗することがあると聞く。窮鼠猫をかむ、というやつだ。

わずかな硝煙の匂いと、服の焼け焦げた線の下から滲み出す血。服の上から傷に触れて確かめてやったところ、弾がかすっただけで大した傷ではなさそうでスクアーロは安堵の息をつく。止血はここを出てからで充分だろう。

「立て。もう出るぞ」

短く言って、スクアーロは身を起こす。しかし、ベルはしゃがみこんだまま動かない。自分の腕を上げて傷口を凝視している。

「おい」

白いシャツを染めていく血からじっと目を離さないベルを見下ろして、乱暴に呼びかける。まさか貧血でも起こしやがったか、とスクアーロは舌打ちした。自分の血を見て貧血とはやはり買いかぶりすぎたか、と嘆息して腕を伸ばす。

「立てるか?」

その時。ゆらり、と蜃気楼のようにベルの姿がぶれた。いや、ぶれたとしか視認できない速さで、動いた。

「っつ!」

反射的に引っ込めた腕に走る鋭い痛み。見ると、右腕に斜めの切り傷。
初めて会った一昨日の日、付けられた傷とちょうど交差するように切り裂かれた二つ目の傷。

「てめぇ、なにしやが・・・」

『遊び』もいい加減にしろと声を荒げたスクアーロは、次の句を継ぐことができなかった。

ふ、とベルの姿が消える。
次の瞬間、カウンターの向こうで男たちの断末魔の悲鳴がとどろいた。

スクアーロの手からグラスが滑り落ち、床の上で音を立てて割れる。

カウンターごしに見たものは、人間離れした獣のような動きで男たちの命の最後の灯を容赦なく奪い去っていくベルの姿。

やがて動くものはおろか、人の形をしたものもなくなった酒場の中央で。
死屍累々の血の海の中、鮮血を飲み込んだナイフを手に一人立つ少年の小さな後姿に向かって。
スクアーロは、記憶こそしていたものの一度も口に出すことのなかったその名を、呼ぶ。

「・・・ベル」

自分の耳で聞いた自分の声が、不覚にもわずかに震えていることに気づく。

「なーに?」

少しだけ音程のずれた声。少年はゆっくりと振り返る。
全身に返り血を浴びて、上半身はすでに滴るほどに紅く染まっていた。

「おまえ」

言葉が出てこない。スクアーロの頭の中で、けたたましい警鐘が鳴り響く。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、と明滅する本能の叫び。しかしその場から動くことができない。指先ひとつ、動かすことができない。

身をすくませるスクアーロとは対照的に、ただ佇むだけのベル。
だらりと下げた腕、わずかに微笑みを浮かべた顔。それなのにまるで魔物ににらまれたような。

(人間じゃねぇ)

(人間じゃねぇよ)

打ち震える右手を叱咤して、スクアーロは唇を動かす。

「おまえ誰だ」

「おまえこそ」

にぃ、と口の端を上げて笑うベルは、いつの間にか抜かれた新たなナイフを手にしている。
壁に天井に飛び散る血飛沫を背景に光る、その白く清廉な刃の輝き。

「王族の血」

ベルはふと目をそらし、腕の銃痕を見る。いまだ止まらない血が自らの腕を伝って滴り落ち、床に広がった有象無象の血と混ざり合って流れていく。

「兄様の血だよ」

錯乱している。不可解な言葉がその唇から漏れ聞こえるが、スクアーロには意味が分からない。

「おまえのも見たいな」

「!」

反射的に頭をかばって上げた左腕の義手。瞬間、高い金属音を立ててそのつなぎ目に深く突き刺さる直刃。

(来やがった)

理由は分からないが、いまのベルには敵も味方も見えていない。スクアーロはとっさにカウンターの下に身を隠す。

下げた頭の上、わずか数センチの距離を次々にナイフが通過し、背後の棚に並んでいた酒瓶が耳をつんざくような音を立てて割れ落ちた。しかしその音に、本能的な恐怖に呑まれかけていた自己が冷静さを取り戻す。

(悪いが手加減できねぇ)

弾切れを待とうにも底が見えない。ならば、と床を蹴ってカウンターの要塞を出て姿をさらす。己の反射神経を武器にスクアーロは自分で自分を囮に使う。間髪入れずに、ひゅ、と空気を切り裂く音と共に肩越しに迫る強烈な殺気。

振り向きざまに左手の剣で空間を大きくなぎ払うと、投げるのではなく、自らの手にナイフを握りこんで接近していたベルが敏捷な動きでかわした。予想はしていなかったはずだが、むしろ予想しての反応よりも数段早い、動物的な反射神経。

しかしスクアーロもかわされるのは想定内、大きく払ったのは次の攻撃に移るまでの間合いを確保するためと、自分の広いリーチを相手に知らせて警戒心をあおるため。しかし狂乱状態のベルには、後者の威嚇は通用しないかもしれないな、と頭のすみで考える。その間にも、矢のように降り注ぐナイフの雨。

(ったく、どこに隠してやがるんだか)

相手が飛び道具で多角攻撃を仕掛けてくるならば、むやみに足を動かして避けるよりは弾くのが得策だ。スクアーロはおそろしく高い精度で急所ばかりを狙い打ってくるナイフを、義手で器用に弾き飛ばす。ナイフの雨が一瞬途絶えた隙を見逃さず、脚のギアを最速に入れてベルの背後に回りこみ、手刀で容赦なくこめかみを打った。

「あ」

小さくうめき声を上げてベルが膝を落とし、そのままうつぶせに倒れる。
スクアーロは上がった息を整えて額に滲んだ汗をぬぐい、嘆息して左手の義手から剣を外した。

「んー・・・」

「起きたかぁ」

スクアーロの上着をすっぽりとかぶせて、血塗れの服を隠した軽い身体。背負ってホテルに連れ帰る途中、意識を取り戻したらしいベルが身じろぎする。

咳き込み、発された声はひどくかすれていた。

「・・・ここどこ」

「一番通り」

「どこ行くの」

「ホテル」

「奴らは」

「覚えてねーのかぁ?」

「オレ・・・」

ベルは何か言いかけるが、数多の人の血を吸い込んで糊がきいたようになっている自分の服を見て黙る。
すでに赤黒く乾き始めている殺戮の証。

「どこまで覚えてる」

「・・・わかんない。たぶん、おまえに腕引っ張られたとこまで」

「よくあるのか。記憶なくすこと」

「わかんない」

「初めてか」

「たぶん」

「・・・そうか」

スクアーロは息をついた。高い靴音を響かせながら、荒い石畳を踏みしめて歩く。

「まだ掛かる。寝てろ」

「・・・ん」

血の色と匂いをまとわせていてはタクシーにも乗れない。スクアーロの首に腕を回して、おとなしく背中に顔をうずめる少年、その温かな体温と柔らかな呼吸音を背に感じながら、スクアーロは夜空を見上げた。

月も星も見えない、塗り潰されたように黒い空を。


To Be Continued...
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後書き(文字反転)

第6話です。
ここまでお付き合いいただいている方、本当にありがとうございます。もう少し続きます。

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