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『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第5話

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耳元で鳴る電子音に覚醒する意識。
シーツの上、手さぐりで携帯電話をつかんで引き寄せる。

(誰だぁ・・・)

スクアーロは鉛のように重いまぶたを無理矢理引き上げてディスプレイを見る。表示された発信者名に少し驚き、二、三度咳払いをしてから、ベッドにうつぶせになったまま通話ボタンを押して耳に当てた。

「珍しいなぁ」

「寝ぼけた声さらしてんじゃねえ。カスが」

第一声からして攻撃的な上司は、いつも通り不機嫌そうだった。寝ぼけた声を出したつもりはない、そんな些細なことに気づくのは、それこそXANXUSくらいだとスクアーロは思う。

「スカウト任務は続行中だぜぇ。だが正直・・・」

「別件だ」

言いかけた言葉は無碍にさえぎられた。

「てめぇの好きな殺しの任務だ。詳細はメールで送らせる。すぐに確認しろ」

長時間の通話は盗聴の危険があるが、一応、スクアーロは聞く。

「スカウトは」

「続行しろ」

あっさりと指示された二本立ての任務。人遣いの荒さに一言文句を言おうとしたとたん、それを察したかのように通話が切れた。

「・・・・・・」

通話時間十五秒。石のように黙る携帯電話を恨めしそうに眺め、スクアーロはごろりと寝返りをうって仰向けになる。携帯電話のバックには狭い天井。ボタンを操作して暗号化されたメールを読み込みながらディスプレイの片隅に表示されたデジタル時計を確認すると、朝の十時だった。

(・・・ねみぃ)

昨夜は散々部屋の中で追いかけっこをした挙句、ベルが笑いながら部屋を飛び出していって。
すっかり頭に血が上っていたスクアーロも、後を追って階段を一足飛びに駆け上がったものの、朝日まぶしい地上に出たときにはすでにベルの姿はなかった。

またしても逃げられて、寝不足でぐらぐらする頭を抱えたまま深呼吸。上着と剣を入れた荷物を取り、タクシーでホテルに戻った。
とりっぱなしになっているこの部屋に入るなりベッドにうつぶせに倒れて、シャワーを浴びるのも忘れて目を閉じたのが、逆算すると約四時間前。

自称王子の妙な少年のせいで、さすがに少し疲れた。しかしXANXUSから容赦なく投下された別任務をメールで確認する。

情報によると、三年前、ボンゴレの隠し資金を使い込んだとかで消されそうになり、故意に微罪を犯して刑務所に逃げ込んだ小賢しい奴がいたらしい。そいつが、三年間の服役を終えて本日めでたく出所する。

しかし、残念ながら裏切りの業は三年では水に流れない。出所日がそのまま命日になるというのはありがちな話。奴のホームグラウンドがこの地域らしく、それでスクアーロにダブルヘッダーでお鉢が回ってきたということのようだった。

背景はケチだが、XANXUSの言うとおり、つまりは殺しの任務。俄然目が冴えてきたスクアーロは口元に笑みを浮かべて、シャワーを浴びるため勢いをつけて起き上がった。

殺しのターゲットを狙うにはやはり夜が適している。適当に調べ物をしたり暗殺のシミュレーションをしたりしながら宵を待った。

初夏の日没は遅い。本格的に暗くなるまでの時間つぶしに様子を見てやろうと、スクアーロは夕闇が忍び寄り始めた街を歩き、ベルの元に向かった。

地下室の階段を下りてドアの前に立つ。少し迷ったが、一応ノックをすることにした。
強めに二回。しかし返事はない。

ノブに手を掛けると、鍵がかかっておらず簡単に回った。無用心だな、と軽く舌打ち。

命がけの追いかけっこをしたのはつい先日のことだが、よくある暗殺者とターゲットのような緊張感はない。そもそも、八歳の子ども相手にそんな上等なもの、持つ気にもならない。

「いるのかぁ?」

ドアを押し開けて部屋を覗くと、中には二人の人間がいた。一人はもちろん部屋の主たるベルで、ソファに腰掛けて腕を組んでいる。ベルはドアの隙間から長身を半分だけ覗かせたスクアーロを横目で見るも、すぐに目の前に立った少年に目線を戻した。何やら雰囲気がおかしい。

ソファの前のローテーブルには、食事を載せたトレイ。しかしまったく手をつけられていなかった。

「ミルクがない」

ベルが言葉を発する。明らかな怒りの響きに、少年がびくりと身をすくませた。
見覚えのある顔。昨日の朝、アパートメントの廊下で会った黄色い帽子の少女の、兄だ。

「お菓子もない」

タダで食わせてもらっておいて、よく真剣に文句が言えるものだとスクアーロは逆に感心する。しかし部外者として口を挟む気はない。我関せず、とばかりに腕を組んで部屋の壁に背中をあずけ、見守る。

「それは・・・」

「なに」

鋭く詰問する声はなかなかの迫力で、こんな声も出せるのかと意外に思った。
どうやら夕食のメニューのことで叱られているらしい少年は、一度もスクアーロの方を見ない。ソファに座って唇を引き結んでいるベルに向かって、必死に弁明する。

「ミルクの係が、ケガをしたんです」

「お菓子は」

「お菓子の係も、です」

「どうして」

ベルの追及に少年は少し言いよどみながらも、観念したように言う。

「ミルクもお菓子も、用意してたんです。それが、最近、このあたりにいる奴らがミルクとお菓子を取ろうとして。渡さなかったら、殴られて。結局、取られてしまって」

「・・・・・・」

「ミルクの係は・・・妹は、顔を殴られました。一緒にいたお菓子の係も、腕を折られて。オレたちで取り返そうとしたんですけど、あいつら銃持ってて」

「追い返されてきたんだ」

「・・・はい」

悔しそうにこぶしを握り締めてうつむく少年を、ベルは無言でしばらく眺めていた。

「だから、今日はミルクとお菓子がないんです。ごめんなさい」

「そいつら、居場所わかってんの」

静かに言うベルに、少年は顔をあげる。

「五番通りの店に、三十人くらいでいつもたむろしてます。全員が腕に、羽根の生えた卵のマークを入れてます」

「羽根の生えた卵?」

声を上げたのは、ベルではなくスクアーロだった。

二人の少年は、急に言葉を発したスクアーロを見る。スクアーロは携帯電話を取り出し、今朝ダウンロードしたばかりの画像を表示した。

「これか」

少年に近づき、ディスプレイを見せる。スクアーロをうさんくさそうに見上げて、眉間にしわを寄せながら携帯電話を覗き込んだ少年は、目を見開いた。

「これ。このマーク。間違いない」

スクアーロはベルにも見せてやる。ちらりと横目で見て、ベルはつぶやいた。

「ダッセーの」

「なんでおまえが知ってんだよ」

少年に疑うような目でにらまれたが、スクアーロは肩をそびやかして携帯電話をしまう。

「たまたまだぁ」

その仕草を興味なさそうに見て、ベルは少年に向かって軽く手を振った。

「ごくろ、もーいいよ。あとは王子に任せといて」

少年は強張った表情のまま頷き、無言で部屋から出て行く。ベルはソファから飛び下りて、部屋の隅に置かれたチェストに向かった。スクアーロに背を向けてチェストの引き出しを開けたところで、思い出したように言う。

「今日は遊べないよ。用事できたから」

「おいおい、ミルクと菓子の敵討ちかぁ?食い物の恨みは怖ぇなぁ」

ソファに腰を下ろして足を組んだスクアーロがからかうように言うと、思いのほか真剣な声が返ってきた。

「最初に言ったと思うけどさ」

ベルは、引き出しから光沢のあるナイフを次々に取り出しながら言う。

「このへん一帯はオレの国なの。オレの国ではオレのモノに手ー出した奴は死刑ってきまりなの」

「あのガキどものことか?」

「ミルクも、お菓子も、それに国民も、ぜんぶ王子のモノだから」

「・・・敵討ちじゃなくて恩返しってわけか」

「恩?」

なにそれ、とベルは鼻で笑う。

「恩なんてない。あいつら国民は王子にモノ貢ぐためにいるんだ。毎日掃除して毎日洗濯して毎日食事の用意する、そのためにいるんだ」

傲慢なセリフを紡ぐ高い声。

「なーんにも考えないで、バカみたいに王子の世話して、バカみたいに王子のこと好きでいればいいんだ」

音も立てずにナイフを揃える白い手。

「その代わり王子は、あいつらバカな民草にもしなにかあったときは」

金色の髪に包まれた小さな顔。それがスクアーロを振り返り、言った。

「王族の威信と名誉を賭けて、まもるんだ」

「・・・・・・」

声を荒げるでもなく、啖呵を切るでもなく、大仰に宣言するでもなく。

ただ淡々と当たり前のように言うその言葉に、スクアーロは瞬間、背筋が震えるのを感じた。
気圧された、と言ってもいいかもしれない。

「ってことだから、またね」

手を振って出て行こうとする小さな背中に、スクアーロは声を掛ける。

「待て」

「うるさいよ」

「オレも行くぜぇ」

瞬間、ものすごく嫌そうな顔で振り向かれる。

「はぁ?何言ってんの邪魔なんだけど」

「てめぇらの王様ごっこには関係ねぇ話だ、こっちは仕事なんだよ」

本部から送られてきたメールには、いくつかの画像ファイルも添付されていた。もともとボンゴレに所属していたターゲットは、その姿をしっかり写真に残していた・・・腕の特徴的な刺青とともに。

それを聞いたベルは肩をすくめる。

「邪魔したら殺すよ」

「それはオレのセリフだぁ」

任務を遂行しつつ、ベルが本気で戦うところを見ることができる。まさに一石二鳥、それだけだ、とスクアーロは自分に言い聞かせ、義手用の剣の入った袋を担いで立ち上がった。

ドアの外に出ると、先ほどの少年がまだ立っていた。ベルは構わずにさっさと階段を上がっていったが、スクアーロは立ち止まって財布から数枚の紙幣を取り出す。少年の鼻先に突き出すと、鋭い目で睨まれた。

「なんのつもりだよ。ほどこしなんて受けない」

ここは本当にかわいくないガキの宝庫だな、とスクアーロは思った。舌打ちして言う。

「勘違いしてんじゃねぇ。こっちだってクソボスに安月給でこき使われてんだ。これは昨日の夕飯代だ」

「・・・・・・」

「医者、連れてってやれぇ」

言いながら気恥ずかしくなって、スクアーロは目をそらし、紙幣を少年の手に無理矢理にぎらせてベルの後を追った。背後で小さく、ありがとう、とつぶやく声が聞こえた。


To Be Continued...
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後書き(文字反転)

さくさく第5話です。次の6話もしくは7話で完結予定です。

ここまでお付き合いいただいている方、本当にありがとうございます。もう少し続きます。

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