« 『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第3話 | トップページ | REBORN(リボーン)標的244の感想(ジャンプ(WJ)2009年28号) »

『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第4話

<<第1話に戻る
<<第2話に戻る
<<第3話に戻る

ブラックジャック、ジン・ラミー、ツーテンジャック、ポーカー。ベルはどのゲームにも強かった。それなりに自信があったスクアーロともいい勝負になることが多く、スクアーロは賭け事でもないのにいつの間にか夢中になってカードを出していた。

外の見えない地下室は時間の経過が分かりづらい。渾身のフルハウスを余裕のストレートフラッシュでひっくり返されたところでスクアーロはふと部屋を見回し、壁に掛けられた洒落た鳩時計を見つけた。

「・・・もう六時かぁ」

はぁ、とため息をつく。トランプ・ゲームにいったい何時間かけているんだ。というかいったい自分はここで何をしているんだ。XANXUSの蔑むような笑みが脳裏に浮かんで、頭を振ってそのイメージを追い出す。

「飯でも食いにいくか?」

まだゲームを続ける気なのか、山札を崩して切ろうとしているベルに声をかける。ラグマットの上でうつぶせになり、折った足を揺らしている少年は、首をふった。

「もうすぐ来るし」

「来る?夕飯がかぁ?」

「そう」

こくりと頷き、薄い身体をラグマットにうずめているベルがまたカードを切り始めたちょうどそのとき。ドアがノックされて、少女が二人、いい香りのするトレイを手に入ってきた。

トレイの上には、パン、サラダ、ソーセージの煮込み、ミルク、フルーツの皿が並び、さらにスクアーロは名前を知らなかったが、ベルいわくマカロンというらしい小さな菓子まで載っている。

食事は二人分あった。昼食を食べそこねていたスクアーロは、ありがたくいただくことにする。

二人の少女は、食事が終わるまでじっとドアの前に立って待っていた。ベルがパンの最後のひとかけらを口に入れて、ミルクの最後の一滴まで飲み干したところで、二人はさっと近づいてきてすばやく皿を重ねてトレイに載せ、静かに部屋を出て行った。

ドアが閉まる。

「・・・あれがおまえの『国民』かぁ?」

スクアーロは半ば驚きの、半ば呆れの思いで言う。言いながら、ベルの口元についたパンくずが気になったので指で払ってやった。

「うん」

腹が満たされて眠くなったのか、ベルはまたラグマットの上にうつぶせになって頬杖をつき、あくびをする。

「いつも、掃除やら食事の支度やら、させてんのかぁ?」

「させてないよ。あいつらが勝手にしてんの。あいつらオレのこと大好きだもん」

(・・・確かになぁ)

ベルの居場所を教えてくれた黄色い帽子の少女が、ベルの名を出したときに見せた嬉しそうな表情を思い出す。

思えばゲームの最中にも、二人組の少年が部屋の掃除をしに入ってきた。ホウキや布巾を器用に使って熱心に手を動かしながら、ベルの方をちらちらと気にしていて。
たまに振り返ったベルと目が合うと、心底嬉しそうに笑って、掃除をする手にいっそう力をこめる。

脱ぎ散らかされた服を集めてたたみ、ベッドを整え、部屋中の整理整頓まで終えると、少年たちはゲームの邪魔をしないようにとでもいうのか、そっと、静かに、部屋から出て行った。
その間、スクアーロはなんだか落ち着かなかったが、当のベルは特に彼らに声をかけることもなく。それが当然といった風にゲームに熱中していた。

「あいつら、親は」

「知らね。いるんじゃねーの?一応」

ベルは興味なさそうに言う。
つまり日中だけ、ベルの世話をしに来ているということだろうか。

家具類などの大きなものは、あるいはどこからか拾ってきて手入れをしたものかもしれない。しかし、白磁のティーカップや高級らしい紅茶葉や暖かく豊富な食事は、貧しい子どもたちに到底買えるものではない。

(大方、店からかっぱらってきてんだろうなぁ)

ここの子どもたちは、盗んだ珍しい品物や新鮮な食材や高級なお菓子を、自分たちで使ったり食べたり売ったりすることなく、ベルに捧げているのだ。

まるで、壮大なおままごとのように。

この分だと、もともとの入隊候補者の死体を片付けたのも、子どもたちである可能性が高い。死体の処理も厭わせないとは大したカリスマ性だ。

誰かのために身を削って働く、というのは一見負担のようでいて、しかしその気持ちが逆に自分を満たし支えることがある。それは理解できる。なぜならそれはスクアーロがXANXUSに誓った忠誠と根を同じくする、見返りを求めない献身だから。

しかしそれが、傍から見るととても脆いもののように・・・ほんのわずかな歯車の狂いで儚く崩れ去りそうに見えることに、スクアーロはふと戦慄を覚えた。

(オレは・・・)

自分は、自分だけは違う、と言えるのだろうか。
XANXUSと自分の主従関係は、このまま永遠に続くのだろうか。

スラムの地下に垣間見た不可解な世界にふと自分を重ね合わせて、スクアーロは珍しく混乱する。あぐらを解き、無言で立ち上がったスクアーロに気づいて、カードを切っていたベルが顔を上げた。

「どこ行くの?」

「『行く』んじゃねぇ。『帰る』んだよ」

ぶっきらぼうに言う。すると、聞き直される。

「どこ帰るの?」

「・・・ホテル」

ソファの背にかけていた上着を取ると、ベルが話しかけてくる。

「お菓子いる?」

「いらねぇ。もう帰んだって」

菓子なんて、おまえがオレの分まで食ってたろうが、と思う。少年に背を向けて上着の袖に腕を通そうとすると、なんとなく背中に感じる視線。

(・・・・・・)

たまらず振り返ると、そこには広いラグマットの上にぽつんと座ったベルがいて。

「帰んないでよ。もーちょっと、王子と遊んで」

小さな身体を縮めて、寂しそうな声で言われる。白昼夢の中でベルをXANXUSに、子どもたちを自分に投影していたスクアーロは、鼻から盛大な息を吸い・・・そして嘆息した。

結局その晩、スクアーロはホテルに戻ることなくトランプに付き合った。しかしさすがに十二時を過ぎたところで、うとうとと舟をこぎながらも意地になってカードをめくろうとするベルの襟首をつかみあげ、そのままベッドに放り込んだ。するとすぐに小さな寝息が聞こえ始める。

ベッドは子ども用のもの一つしかないので、スクアーロはベルの毛布を一枚借りてソファの上で横になる。そのまま眠りに落ちたのだが。

数時間後。

「・・・?」

もともと浅い眠りが、暗殺部隊に入隊してからさらに浅くなった。少しの物音、気配でも意識が現実に引き戻される。逆にそうできるという自信があるからこそ寝つくことができる。

今も、起きていても聞こえないかもしれないほどの小さな息遣いに気づいて目を覚ました。意識は覚醒しても、すぐに目は開けない。まぶたの外の暗闇に潜む気配をそっと探っていると。

「っ!」

突如、鋭い殺気に襲われる。予想していたよりも0.5秒、早かった。とっさに身をかわすと、今まで寝ていた場所に深々と突き立てられたナイフ。

「なにすんだてめぇ!」

身体を反転させてソファの上に片膝をつき、小柄な人影に向かって怒鳴る。人影は、ちっ、と舌打ちした・・・それが誰かなどとは確認する間でもない。

「んだよ、寝てると思ったのにさ」

そんな言葉を発するのは、小さな悪魔のシルエット。セリフに悔しそうな色が少しでもあればまだぎりぎり可愛げがあるのに、悪びれた様子はまったくない。

「・・・てめぇ、そのつもりでオレをひきとめたな?」

「とーぜん」

暗順応し始めた目で捉えたのは無邪気な満面の笑み。ししし、と特徴的な笑い声が上がる。

「コロっと騙されちゃって、おっかしーの」

「・・・殺す」

顔を真っ赤にしたスクアーロは、言うや否やベルに飛びかかる。が、素早く逃げられて、ぷちぷちと音を立てて額の青筋が切れた。

「待ちやがれクソガキ!北極海直行便で空輸してやる!!」

「やってみー」

暗闇の中を追いかけっこする、大小二つの影。時折聞こえるのはスクアーロの義手がナイフを弾く剣戟にも似た音とスクアーロの怒声とベルの楽しそうな笑い声。追いかけっこは地下室の入口からささやかな朝日が差し込む、明け方まで続いた。

To Be Continued...
************************************************************

<<第3話に戻る
第5話に進む>>

後書き(文字反転)

第4話です。少し短いですが、次の第5話から、終盤に向けて物語が動きますので、ここでいったん切りました。

全6話もしくは7話で完結する予定です。もう少しだけおつきあいいただけると嬉しいです(深々)

●小説部屋の目次へ

|

« 『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第3話 | トップページ | REBORN(リボーン)標的244の感想(ジャンプ(WJ)2009年28号) »

●03-2.小説部屋」カテゴリの記事