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『咲かずの王国』(スクアーロ&ベル小説) 第8話 (完結)

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一週間後。

アジトの廊下を足音高く歩いてきたスクアーロは、XANXUSの執務室の扉を乱暴にノックした。

明け方に任務先から戻り、朝寝をしていたところを電話で呼び出されて機嫌は最悪。夜討ち朝駆け上等な仕事ではあるが、今日は一日オフのはずだ。一言文句を言ってやろうと、返事も待たずに扉を押し開ける。

「なんの嫌がらせ・・・」

その先の言葉が続かなかった。

「遅ぇよ」

部屋の中にいたのは、二人。
扉の正面に位置する執務机の椅子に、いつも通り眉間にしわを寄せて座っているXANXUS。そしてその前に立つ金髪の少年。

知らず笑みが浮かんだ。

「入隊希望者だ」

XANXUSが言う。スクアーロはゆっくりと部屋の中央まで歩き、ベルの前に立つ。

「来たか」

「うん」

笑顔で見上げてくる少年の頭を、スクアーロはぽんぽんと柔らかくたたいてやった。

「スペルビ・スクアーロだ」

それを聞いたベルは歯を見せて笑う。

「変な名前」

「うるせぇ」

「オレはベルフェゴール」

少し驚いた。

「ベル、じゃなかったんだなぁ」

「うん」

ベルは得意気に薄い胸をそらせる。スクアーロが苦笑してその頭に乗せた手で金色の髪をくしゃくしゃと掻き回してやっていると、XANXUSの声が割り込んできた。

「てめぇを呼んだのは挨拶させるためじゃねぇ」

「あ?」

スクアーロが目線を上げると、執務机に両肘をついて、口元を隠すように指を組んだXANXUSが続ける。

「手練の隊員と一戦やらせてみたが、腕は申し分ない。だが一つ問題がある」

「うん。そうなんだって」

XANXUSとベルの二人は、そろってスクアーロの顔を見た。
ベルは全開の、XANXUSは目元を歪めるだけの、しかし確かに、ニヤリ、と音が聞こえそうな笑みを浮かべて。

「命令だ」

「命令だって」

重なるユニゾン。いつの間にか意気投合していたらしい、悪魔(大・小)の不敵な微笑み。

「な・・・んだぁ?」

背筋を這う不吉な予感に、スクアーロは思わず一歩後ずさりしていた。

「おら」

ヴァリアーのアジト内にある資料室。棚から見繕った本を腕いっぱいに抱えてきたスクアーロは、ベルの前で腕を広げて、机の上に本をばらばらと落とす。

「好きな言葉、選べ」

ヴァリアーに入隊するには七ヶ国語を話せなければならないが、ベルは惜しくも六ヶ国語しか話せない。その事実を、スクアーロはXANXUSに言われて思い出した。

その他の能力には問題なしということで、XANXUSがスクアーロに下した命令は「一ヶ月以内にもう一ヶ国語をモノにさせろ」。

そしてさらに「それまで通常任務から離れること」。

(ったく、冗談じゃないぜぇ・・・)

理不尽としか思えない命令に、内心で毒づく。「専念」といえば聞こえはいいが、殺しの任務から強制的に引き離されたことが大いに不満なスクアーロは、ただいま躍起になってベルの家庭教師を勤めようとしているところだった。

ベルはといえば。もう一言語をマスターするまでは正式入隊とはならないものの、アジト内の隊員宿舎の一室を貸し与えられ、当面の生活を保障されるという厚遇ぶり。思えば、最初の報告電話のときから、XANXUSはベルのことを気に入っていた。鼻が利くというのか、ワガママ同士気が合うのかもなぁ、などと真面目に考えるスクアーロ。

机上に散らばった様々な言語の入門書。その色とりどりの表紙を眺めていたベルが、やがて顔を上げる。

「おまえの」

「あ?」

「オレができなくて、おまえができるやつがいい」

「なんでだぁ?」

スクアーロは首をかしげる。

「いいから好きなの選べぇ。オレにできなくても、できる奴を寄こしてちゃんと教えさせる」

「やだ」

ベルは勢いよく首を横に振った。金色の髪が揺れる。

「なんで」

「知らない奴に教わるとか、やだ」

ぼそっと呟く言葉に、スクアーロはあっけにとられる。

(もしかして、懐かれてるのかぁ・・・?)

自慢ではないが、子どもに懐かれた経験など過去一度もない。スクアーロ自身は子どもを好きでも嫌いでもないが、大概、子どもの方から怖いだの何だのと言って逃げていく。

複雑な気持ちになったが、断る理由もないので、スクアーロは散らばった教本の中から数冊を選び出した。

「これとこれと、これだなぁ」

「ん」

スクアーロが差し出した教本を受け取り、ようやく真剣に目を通し始めたベルは、やがて一冊の本に目を止めた。

「なにこれ」

「あぁ?」

「この本、向きが変」

「ああ」

スクアーロは手を伸ばして教本を取り、表紙をひっくり返してやる。

「これは、右側が表紙だぁ」

「はあ?なんで?」

「なんで、じゃねぇ。こういう言語なんだ」

「なにそれ意味わかんねー!おっかしーの」

ベルは笑ってスクアーロの手から本を取り返す。ページを右からペラペラとめくっていたかと思うと、ぱたん、と音を立てて閉じた。

「決めた。これにする」

「・・・日本語かぁ」

スクアーロは眉間にしわを寄せた。

「日本語はやりにくいぞぉ?イタリア語や英語とは系が違うからなぁ」

いさめるつもりで言ったスクアーロの一言、しかしそれが逆効果になった。ベルは口を尖らせて頬を膨らませる。

「うっさい。おまえにできるなら王子にもできる。これに決めた」

ベルは、きっとろくに見たこともないだろう日本語の教本を抱きしめて離さない。スクアーロはため息をついた。

(オレもそんなに得意じゃねぇんだけどなぁ・・・)

結局、仕方なくベルの勉強に付き合うことになったスクアーロ。しかし人に教えると上手くなる、というのは本当だったようで。

一ヶ月後にはスクアーロの日本語も以前にも増して上達し、異常に覚えの早いベルと日本語で冗談を言い合えるまでに成長して周囲を驚かせることになる。

そして、ベルが晴れてヴァリアーに入隊してから。
もうすぐ九回目の夏が来る。

「なー、スクアーロぉー」

資料室で本を探しているスクアーロにまとわりつく金髪の王子。

「王子ひまー」

今から九年前の出会い。あの直後に起こった大事件、そして去年起こった二つ目の大事件。それを経て、スクアーロもベルも当然ながら同じだけ年を取り、幸か不幸か、どちらもまだ命を落とすことなく生きている。気が合うことなどめったにないが、しぶといところだけは似ているようだ、とスクアーロは思う。

「ひまー。ひまひまひまひまひま!」

しかし、この王子様に関して言えば。出会った頃と比べて確かに背丈は伸びたが、中身はまったく変わっていないのではないか、とスクアーロは内心げんなりする。ようやく見つけた目当ての本を書架から取り出して閲覧机に向かうと、後ろから付いてくる気配。

閲覧机の椅子に座って、本を広げる。ノートパソコンを立ち上げて文書作成ソフトを呼び出していると、隣の席の椅子を引いたベルが、スクアーロの方に身体を向けて斜めに腰掛けた。

なにかを強く訴えかける視線を感じるが、気づかないふり。そうしている間に、頭皮にちくちくとした刺激が走り始める。

「ベル」

「・・・・・・」

「ベル。よせ」

腰の下まで伸びた銀色の髪。その一束をしつこく引っ張ってくる手がうっとうしくて勢いよく顔を逸らせば、予想に反してその手がまったく力を緩めなかったため、痛い目を見たのはスクアーロの方だった。

(ぐぅ・・・)

髪が抜けこそしなかったものの、目尻に思わず涙が浮かぶ。いくら鍛練を積もうと、毛根は鍛えようがないのだから仕方がない。

「いい加減にしろぉ」

声を低くして顔を向けると、これも九年前からまるで変わらない、むくれたような不満顔があった。

「んだよ、王子がひまって言ってんのに無視とかまじムカつく」

力は緩められたものの、スクアーロの髪の一房は相変わらずベルの手の中でいじられている。思いきり引っ張るのはやめてほしい、と思うと、なんだか人質をとられているようで落ち着かない。

「おまえは暇でもオレは報告書があるんだぁ」

資料の広げられた机を見れば一目瞭然なのだが、スクアーロは根気強く説明しようとする。

「そんなのいーじゃん。ボスに殴られてくれば?」

「おまえが殴られろ」

「やだ。つかオレ、ボスに殴られたことねーし」

ししし、と笑うベル。
この笑い方のクセときれいな歯並びも、昔から変わらない。

「久しぶりにポーカー勝負しよーぜ。マーモンも今日オフなんだって」

両腕を伸ばして机に突っ伏し、顔だけをこちらに向けて満面の笑みを浮かべるベル。

「おまえトランプ好きだなぁ」

「ゲームは何でも好き」

スクアーロはため息をついて、開いていた本を閉じた。ベルに諦める気がまったくないことがよく分かったからだ。

ベルに諦める気がない以上、こちらが折れる以外にこの状況を打破する手段はない。どうせ結果が変わらないなら早めに折れるのが利口だと、スクアーロは経験で知っていた。

資料を集めて重ね、ノートパソコンの電源を落とす。何も働かないままふたを閉じられたパソコンは、まるで今日の自分のようだとスクアーロは思った。その哀れなパソコンと重たい本を脇に抱えて資料室を出ると、ベルが少し駆け足になって後ろから追いついてくる。

「報告書っていつまで?」

「三日後」

「げ、まだまだじゃん!なにもうやろうとしてんの?王子、明日までのやつまだやってないし」

廊下を歩きながら大げさに驚くベルに、スクアーロは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「おまえがいつもギリギリまでやらねぇだけだろうが。オレは手伝わねぇぞ」

「うーん、今日の夜がんばる」

手を頭の後ろで組んで隣を歩くベルが、ニヤニヤ笑いながらスクアーロの顔を見上げてきた。

「でもスクアーロ、そう言っていつも手伝ってくれるよね」

「たまには自分一人でやれぇ」

「やだ」

九年前にうっかり拾ってしまった野良猫。そいつにいまだに悩まされ続けている自分に苦笑まじりのため息をつきながらも、スクアーロはときどき考える。

明日死ぬかもしれない、というのはどんな人間にも起こりうる未来だけれど。
こんな仕事をしていると、その「かもしれない」、が他の人間よりも少しだけ、近くにある。

神でもない自分が、人の命を手に掛けることに対する報いだと知っている。

それでも、ときどき、人と笑いたい日がある。
それでも、ときどき、人を感じたい日がある。

それはたとえば他愛ない会話の中に。
それはたとえばトランプ・ゲームの中に。

「スクアーロ、早く!」

軽快なステップでスクアーロを追い越し、談話室に続く廊下を走っていく後姿。
窓から差し込む陽光を浴びてきらきらと輝く金色の髪。

そんなベルの後ろをゆっくりと歩いていくスクアーロは。
誰にも気づかれないほどに小さな笑みを、口元に浮かべた。

THE END
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後書き(文字反転)

最終回でした。
キャラの行動に人として間違っている部分も多々ありましたが(窃盗だの過剰報復だの)、書き手としてはそれはもう楽しかったです!ヴァリアー大好き!

これで約3万6千字、400字詰原稿用紙で118枚くらい?みたいです。次はまた短いお話なんかも書きたいと思いますので、また覗いていただけたら嬉しいです。

ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございました(礼)

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