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『バースデー・ストーリー』(ツナ&ベル小説)

十月十四日。イタリア某所。
ボンゴレ本部、と呼ばれる巨大な建物。五階の南端部分。バルコニー。

遅い昼食をとったあと一人バルコニーに出たツナは、手すりにひじを乗せて頬杖をついた。頬をなでる秋風が少し冷たくて、琥珀色の瞳を細める。

眼下に広がる庭園。ぼんやりと見下ろすツナの目に、立ち並ぶ樹木がわずかに葉を色づかせているのが見える。枯れ木になるにはまだ早いが、地上には少しずつ落ち葉が舞い落ち始めていた。

(・・・あ)

背後に誰かいるな、と感じる。気配を消しているようだが、類稀な直感力を持つツナには意味がない。それと知っていても常に気配を消す習慣のある人物ということなら、逆に可能性は絞られる。

敵意を感じなかったのでそのまま背を向けていると、気配はだんだんと近づいてきた。すぐ斜め後ろにまで来たかと思うと、頬杖をついた顔のすぐ横、手すりの上に、ブーツを履いたかかとがガッ、と音を立てて勢いよく置かれた。
歴史あるがゆえに古い、金属製の手すりが切ない音を立ててわずかに揺れる。

硬い質感を感じさせる、黒革のブーツ。脚を包むグリーンのパンツの裾。そのまま目線で足首、膝、とたどって振り返ると、パンツの両ポケットに手をつっこみ、バルコニーの手すりに横柄に片足を乗せた、金髪の青年の顔が見えた。

相変わらず、その瞳は髪に厚く覆われていて見ることはできない。しかし小さな白い顔にのぞく口元は、歯を見せて笑っていた。

「こんにちは」

軽い会釈をしたツナに、ベルは片手をポケットから出して少し挙げてみせる。

「なにしてんの。ヒマなの」

「あ、いえ」

暇ではなかった。仕事の合間に少し外の空気を吸いに抜け出してきた、というのが正しい。

「あっそ。オレはヒマ」

「・・・そうですか」

気の抜けたような返事を返すツナを見て、ベルはバルコニーの手すりから足を下ろす。ヴァリアーの黒い制服ではなく、シャツにルーズなパンツというラフな服装をしていた。今日はオフなのだろうか、と思うツナは、仕事中なので濃紺のジャケット姿だった。

「本部に来てたんですか」

「昨日からな。週末がさ、ボスの誕生日だったじゃん」

「ああ、そうですね」

XANXUSの誕生日が十月十日、というのは聞いたことがあった。ツナはまだ直接関与していないが、きっと自分の名前で贈り物がされているのだろうな、と思う。
これまでも幾度かそういうことがあった。次にXANXUSに会ったときのために、何を贈ったのか聞いておかなくてはいけない。頭の中の仕事メモにまた一行書き足して、ツナは人知れずため息をつく。もう書くスペースが見つからないくらい、満杯なのに。

「それで、ここに?」

「パーティはアジトでもやったけど。ボスが九代目に呼ばれたからオレも来たんだよね。マーモンとスクアーロも一緒。ルッスとレヴィは任務だけど夜には来るぜ」

「そうなんですか。あとで行きます」

「いーっていーって。ほっとけば」

顔の前でひらひらと手を振るベルは、ふと思い出したように言う。

「おまえは?」

「え?」

「誕生日いつ?」

ベルの無邪気な問いに、ツナは目を少し細めて笑う。

「実は、今日なんです」

ベルは少し首をかしげて、楽しそうな声を出した。

「へぇ?まじで?」

「はい」

「そりゃ、おめでとー」

「・・・ありがとうございます」

バルコニーの手すりに乗せていた足の分だけ、ツナの後方に立っていたベルは、すっと前に出てツナの隣に並び、手すりにあごを乗せる。背中を丸めて両腕をだらりと下げた姿勢でそのまま横を向き、ツナに話しかけた。

「パーティは?あんだろ?」

「はい。一応、今夜」

ツナが頷くと、相変わらず笑顔のままでベルが言う。

「オレ呼ばれてないんだけど」

「ただのセレモニーです。仕事ですよ。関連ファミリーの人がたくさん来るそうです。守護者は獄寺君しか来ないしディーノさんも今日は来れないって言ってたし」

ツナは、ベルの方を見ず、眼下の庭に目線を送りながらため息まじりに言う。

「知らない大人ばかりだしオレ酒強くないし。じろじろ見られて緊張するだけで全然楽しくないけど・・・仕方ありません」

「ごちそー食えんじゃん」

ベルの問いに、ツナは苦笑する。

「食べる時間なんてないですよ。いろんな人がかわるがわる話しかけてくるから。いつも終わってからパンとかかじってるんです」

「おまえじゃなくて。オレがごちそー食えんじゃん」

ベルの言葉に、ツナは少し驚いて顔を上げた。

「本当に来たいんですか?招待状なら余分にありますけど」

「いいや」

手すりに前のめりにもたれかけていたベルは、よっ、と身体を起こす。頭の後ろで手を組んで、笑みを浮かべた。

「誘われたい。そんで断りたいの」

なんですかそれ、とツナはまた困ったように笑う。パーティに出るのがよほど気が進まないのだろう、一応の笑みを浮かべながらもいっこうに晴れないその表情を見て、ベルは唇を曲げた。肩をすくめてきびすを返す。

「ちょっと待ってろ」

「え?」

目を丸くするツナを振り返らず、バルコニーと建物とをつなぐ扉を抜けて、階段を降りていくベル。ツナは首をかしげたが、言われたとおり、手すりに背を預けてそのまま待った。

五分ほど経っただろうか。バルコニーから見える階段に、金色の頭が覗く。弱い秋の陽光を反射してきらりと光るティアラが眩しかった。
昇り階段の途中で立ち止まっているのか、首から上だけを見せたベルが声を上げる。

「目、つぶって手ー出せ」

それを聞いたツナはいぶかしげに眉をひそめる。しかしため息をついて瞳を閉じ、胸の前にそろえた手のひらを出した。

「ため息とかほんと失礼」

遠慮のない台詞と共に、静かな靴音と人の気配が顔の前まで近づいてくる。広げた手のひらの上に、わずかな重みを感じた。

「開けていいですか」

「おー」

返事を受けて、ツナはそっと瞳を開く。手のひらの上に乗せられたものが目に入った。

「・・・これ」

ツナは、白い一輪の花を手に取った。おおぶりのカサブランカが花弁を揺らし、赤い花粉をわずかにこぼす。

そしてもう一つ。手のひらに少し余るほどの大きさの、いかにも高級そうな赤い化粧箱。蓋を開けなくとも、ツナが鼻腔を近づけると、甘く濃いチョコレートの香りが漂った。

手の中の花と箱を見つめたきり無言になるツナを見て、ベルは満足げに笑う。

「なに?嬉しくて泣きそう?」

「いや、そうじゃなくて」

ツナは顔を上げてベルを見る。右手に持った白い花を見て、眉をへの字にして言った。

「これ、そこの廊下の花瓶に差してあった花ですよね。いま抜いてきましたね」

「・・・・・・」

「こっちのお菓子は、なんかお慕いするXANXUS様へって書いてあるし。XANXUS宛てのプレゼント、もらってきたんですね」

「・・・・・・」

「オレのことどれだけどーでもいいと思ってんですか」

「いちいちうるせーな。王子の手を通った瞬間に石ころだってトクベツなモノになんだよ。黙って受けとっとけよ」

プレゼントの正体をあっさり看破されて、しかし悪びれた様子もなく、ベルは傲慢に言い放つ。ツナはしばらく途方に暮れたような顔をしていたが、やがて口元に笑みを浮かべてぽつりと言った。

「童話みたいです」

「は?」

「触れたものがぜんぶ黄金になる王様の話」

「あー、そうそう。そんな感じ」

ツナはもう一度チョコレートの箱に鼻を近づけ、目を閉じてその香りを吸いこんだ。カサブランカの香りと交互にかいで、ようやく目元をほころばせる。

「ありがとう。嬉しいです」

若干のムリヤリ感はあるもののようやく笑顔で礼を言われて、ベルの機嫌も多少良くなった。

「満足したかよ。誕生日に辛気臭い顔してんじゃねーよ」

「うーん、じゃあ、仕上げに歌ってください」

いたずらっぽく言われて、ベルは思わず間抜けな声を出す。

「は?」

「ハッピーバースデートゥーユーって。準備いらないでしょ?」

なに言ってんだこいつ。ベルは顔をしかめた。

「ざっけんな、王子になにやらそうとしてんの」

「だめですか?」

「だめ。やだ」

言い放つと、ツナは首をかしげる。

「歌は苦手?音痴?」

「挑発すんのやめろ」

言ってきびすを返したベルだったが、数歩歩いたところで背中になんだかむずむずするような視線を感じて、たまらず一言追加する。

「覚えてたら、来年な」

「あの、明日の夜」

扉をくぐりかけていたベルは、ツナの声に足を止める。

「今夜みたいな派手なのじゃなくて、もっとずっと小さく、親しい人だけで、パーティやるんです。リボーンの誕生日が昨日だったから、一緒に。母さんや京子ちゃんやハルも日本から来てくれて」

一気に言って、少し息を切らせるツナの声に、ベルは顔だけで振り返る。

「ふーん、よかったじゃん」

「よかったら、来てくれませんか」

ツナの申し出に、ベルは首をかしげた。

「親しい奴らでやんだろ?オレ別におまえと親しくないよ」

「主役は一応、オレとリボーンだから・・・誘いたい人を誘えるんです。お礼、させてください」

「やだ」

「だめですか」

拒絶の言葉に、ツナは残念そうな顔を見せる。その表情が見れたことで、ベルは少しの満足感を覚えた。

「ま、気が向いたら顔出してやるよ。どこでやんの」

郊外にあるというリストランテの場所を聞き出すと、ベルはひらりと片手を振った。そのまま下り階段を降りていき、すぐに見えなくなる。
その後ろ姿を見送ると、ツナは胸ポケットから携帯電話を取り出し短縮ボタンを押した。無機質な数回のコール音の後、慣れ親しんだ友人の声。

「もしもし、獄寺君?うん、オレ・・・いまいい?」

電話の向こうから聞こえる声に、ツナは目を細めて笑う。

「明日のパーティなんだけど。うんそう。今日のじゃなくて明日。今から人数増えても大丈夫?・・・そっか、ありがとう。じゃあ一人・・・じゃなくて」

手すりに背を預けて話しながら、ツナはあごを上げて秋晴れの空を見上げた。
高い高い真っ青な空の下、燕の小さな影が幾重にも飛び交っている。雲ひとつ見えない。

「六人、かな。期待をこめて」

芋づる、という言葉が頭をよぎって、ツナは一人、くすくすと笑った。

「マーモンマーモンマーモン!いまどこ?あっそ!じゃーそこいて!ぜってー動くなよ!は?任務?だめ!王子優先だから!」

携帯電話に向かってまくしたてながら階段を五段飛ばしで駆けおりたベルは部屋に飛び込む。宿泊二日目にしてすでに散らかり放題の個室を、引っ掻き回したりクローゼットを勢い良く開けて中身を放り出したりしてひとしきり荒らしたあと、また風のように部屋を飛び出し、弾丸のように廊下を駆け抜けて談話室の扉を開け放った。

「じゃーん!」

談話室の中央。背の低いテーブルを挟んで、向かい合わせのソファに座っていたマーモンとスクアーロは。
華々しい効果音を口にしながら颯爽と登場したベルを呆気にとられて見上げた。

テーブルの上には、所狭しと広げられた書類。次の任務の打ち合わせか完了した任務の報告かは定かでないが、ベルは構うことなく、両手いっぱいに抱えてきた包みをテーブルの上にぶちまける。包み同士がぶつかり合う金属質の音が響いた。

「ああっ!なにしてんだてめぇは!」

書きかけの書類の上に物を落とされたスクアーロは、当然ながら激昂した。しかしベルは聞く耳を持たず、逆に言い返す。

「テーブルいっぱいにモノ広げないでよね」

自分の書類だけ素早く手元に引き寄せていたマーモンも、鼻で笑う。

「ベルが何か抱えて来たらこうなるのは見えてるでしょ。何年付き合ってんの」

(悪いのはオレなのか!?)

二対一でまさかの敗北。げっそりと肩を落とすスクアーロだが、仕方なく尋ねてやる。

「で、なんなんだその包みはぁ?」

言いながら伸ばした手は、まるでお菓子に手を出した子どものように、ベルによってぴしゃりとはたかれた。

「何すんだ!」

「じゃーん!」

怒鳴るスクアーロを無視して、またしても口で効果音を添えながら、ベルは包みを解く。
中から現れたのは、まばゆい意匠を施され、燦然と輝く大小のティアラ。

「・・・どうりで荷物多いと思ったんだよね」

「・・・出かけるたびに持ち歩いてんのかよ」

呆れたような口調でつぶやくマーモンとスクアーロに構わず、ベルは上機嫌で包みから次々にティアラを取り出してはテーブルの上に並べていく。

金細工に銀細工、たくさんの宝石に縁取られた煌びやかなものから細かい装飾を施された繊細なものまで、どこかの美術館に展示されていてもおかしくないようなティアラの群れ。それらに無造作に侵食されていくテーブルの上から、スクアーロは慌てて大事な書類をかき集めて退避させ、束ねて膝の上に乗せた。

「王子のティアラ!どれが一番似合う?」

「あーあーどれも似合う似合う」

ろくに見もせずにおざなりな返事をしたスクアーロは、眉間めがけて飛んできたナイフを首をひねってかわした。

「舞踏会にでも行くのか、王子様」

「ブー!」

不正解、と言わんばかりにスクアーロを指差して、ベルは満面の笑みを浮かべて言った。

「お誕生日会だよ!」

THE END
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「ねー、なんでお呼ばれしたの王子だけなのにぞろぞろ付いてくんのー?」

「あぁら、パーティには華が必要でしょぉ?」

「パーティは嫌いじゃないよ。夕食代が浮くからね」

「うまい肉料理を出す店というのは本当だろうな」

「ボスが行くならオレも行く」

「てめーらを野放しにできねぇだろぉ!後始末に呼ばれる前に阻止するんだからなぁ!」

「はぁ~あ・・・結局いつもと一緒じゃん・・・」

THE REAL END
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後書き(文字反転)

10/14、今日はツナの誕生日!ということで、即席お誕生日小説でした。
読んでくださり、ありがとうございました(深々

マフィアのボスという重い運命を背負って少しずつ何かを我慢していくだろうツナと、相変わらずのベル。でもそんなベルの存在で少しでもツナが笑顔になってくれたらいいな、と思います。守護者にはいないキャラだし(笑

ツナの渡伊のタイミングが分からないので、何回目の誕生日とはっきり言えないのですが・・・イメージは17歳~19歳くらいです。

ツナ、HAPPY BIRTHDAY!生まれてきてくれて、ありがとう!

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