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『グリーン・アイズ』(フラン&ベル小説) 前編

遠くから鐘の音が聞こえる。
真っ白な雪に覆われた大地。地平線のように広がる雪景色の果てに、小さな教会が見える。

雪はもうやんでいる。青空はまだ見えない。
曇天の下、さく、さく、と足元の雪を踏みながら歩く。ガラン、ガラン、と鳴り響く鐘の音が大きくなっていく。

雪に吸い込まれながらも、奇妙に反響する硬質な音。

あれ、でもなにかヘン。
雪原にいるのに寒くないし。

違和感に気づいた瞬間から、途切れていた意識が急速に現実に引き戻される。

目を覚ます。

暗殺部隊に入隊してからも、寝起きの悪さはあまり治らない。しばらくぼんやりと夢うつつを漂って、ここがヴァリアー本部にある自分の部屋で。二日間の徹夜仕事を片付けて今朝早くに戻ってきて、重くて憎たらしいカエルを床に投げ捨ててベッドにうつぶせに倒れこんで、そのまま眠りについた。そこまでを思い出す。

着替えもシャワーも省略したせいで、黒い隊服のままだった。部屋に入ったときにコートだけは脱いだから、ベッドが汚れることはないけれど。

でもまだ眠い。
今日がお休みでよかった。そういえば、ちゃんと一日お休みになるのって一ヶ月ぶりくらいかも。

そんなことを思いながら温かいシーツに頬ずりしていると、夢の中から追いかけてきたように、また鐘の音が鳴る。
いや、それは正確には鐘ではなくて。

ああ。
ドアベルが鳴ってるのか。
誰か来たんだ。

片手を伸ばして、ベッドサイドに据え置かれている端末を引き寄せて監視カメラに接続し、外の廊下に立つ来訪者の姿を確かめる。

・・・・・・。

はい。無視決定。

端末を枕元に放り出して、うつぶせの体勢に逆戻り。シーツに顔をうずめてそのまま目を閉じようとしたとき、カチ、という不吉な音が耳に届いた。

あ。やばい。
インターホンの音声、寝る前にオフにするの忘れてた。

『カエルてめ、居留守使ってんじゃねーよ!開けろ!』

引き寄せた毛布に潜り込んでも、両手で耳をふさいでも、侵入してくる大音量の声。

ああうるさい。

ミーのスケジュールをチェックしてきた周到さは評価します。でもね。
ドアを開けなければこっちのものです。

徹底無視することに決めて、音量をオフにするべく再び端末に手を伸ばしたとたん。

『これ何だか分かるかよ』

こちらの行動が見えているかのようなセンパイの声。片目をこじ開けて端末のディスプレイを見る。
カメラに向かって突き出されている白い物体。

あ。

共用スペースの棚に置いている、ミーのお気に入りのデミタスカップ。
しかも結構高かった。

『あと十秒で開けなかったら、これ叩き割るぜ。十、九・・・』

元気にカウントダウンを始めるセンパイの声。

ああもう。
いますぐ死ねばいいのに。

「王子が来てやってんのに居留守とか、ほんとありえないね」

いやだから呼んでないし。望んでないし。

ヒトの部屋に上がりこんでソファに座って足を組み、背もたれにふんぞりかえるセンパイ。
ミーの素敵な休日に、そこはかとない暗雲がたちこめてきたような気がします。

「だから寝てて気づかなかったんですってばー」

言いながら、向かいのソファに座るミー。
意地でもお茶なんて出してやらない。さっさと帰れ。

「うっわー、おまえそれでも暗殺部隊?」

「この部屋は特別ですーミーのプライベート空間なんで。だから誰も入れたくないんですー」

皮肉を込めて言い返してやるも、まったく効いてないアホ王子。

「で、なんですか」

「カフェラテ」

「いやオーダーじゃなくて。ミーに何の用ですか」

「安いミルク入れやがったら殺すから」

だめだ。
言葉が通じない。

作戦変更。
さっさと満足してもらって、さっさとお引き取り願おう。

「どーぞ」

センパイの目の前にカフェラテのカップを置いてやるミー。
なんて優しい後輩なんだろう。

「おまえ泡の立て方ヘタな」

なのに、いきなり否定から入る堕王子。

「ミーはエスプレッソ派なんですー」

「派とか関係ねーよ。センスセンス」

「・・・・・・」

本当に、なんなんだこのバカ王子は。
人が寝てるのに勝手に部屋に上がりこんでやりたい放題か。

「で、もう一度聞きますけど、なんの用ですか」

早く出ていけオーラを遠慮なく出しながら言うと、涼しい顔でカップに口をつけていたセンパイが口の端を曲げてこっちを見てくる。

「頼みあんだけど」

「は?」

思わず耳を疑った。

「センパイが?ミーに?頼み?」

「そう言っただろ」

カップを持ったまま、センパイが憮然として言う。

「・・・一応聞きます」

人にものを頼みに来た態度には見えなかったから、ちょっとびっくりしましたけどね。

センパイはカップをソーサーに戻して、少し前かがみになって真剣な顔をする。
もしかして本当にマジメな話なんだろうか。なんとなくつられて前かがみになりそうになったけど、なんだか悔しいからわざと身体を後ろに引いてやった。

そんなミーに構わず、センパイはぼそっと一言。

「粘写。して」

「ネンシャ?」

眉をひそめて聞き返すと、センパイはちょっといらいらしたように言う。

「昔、マーモンがやってたんだよ。紙に鼻水つけて、探し物を見つけるってやつ」

「さがしもの・・・」

「そのときは、ボンゴレの守護者を探したりしてたぜ」

ちょっと考えて、思い至った。

「ああ、サーチングですか」

「サーチング?そう言うの?」

カップの持ち手に指を掛けて、くるくる回して遊びながらセンパイが聞いてくる。
その仕草は、カップの中身がテーブルにこぼれそうでひやひやするんで、やめてほしいんですが。

「呼び方もやり方もいろいろです。ミーはそう習いましたー」

「まぎらわしいな」

「そのへんは結構ぐちゃぐちゃです。教科書が売ってるわけじゃないんでー」

「まーなんでもいいや。やって。それ」

簡単に言ってくれちゃうセンパイ。ミーは少し呆れて言う。

「できません」

「は?」

「だから、できません」

とたんに頬を膨らませるセンパイ。

「なんでだよ」

「同じ霧の術士でも、できることとできないことがあるんですー。当たり前じゃないですかー」

「やる前から諦めんなよ。やってみろよ」

「無茶言わないでくださいよー。センパイだって、いきなりロン毛の人のロングブレード渡されたとして使いこなせますかー?」

言うと、センパイはみるみる不機嫌そうな顔になる。
そうそう自分の思い通りにコトが運ぶと思ったら大間違いです。ざまーみろ、と思ったのに、

「んだよ、使えねーの」

その言葉にはさすがにムッとした。

「ミーはセンパイに使われるために術を学んだんじゃありませーん」

言ってやると、センパイは黙って席を立つ。
せっかくミーが手ずから淹れてやったカフェラテを、一口飲んだだけで残してそのままドアに向かう、その背中に声を投げる。

「あれ最高に難しいんで。いまいる霧属性の隊員にできる人なんていませんよー」

聞こえてるに決まってるのに、センパイは何も言わずに部屋を出て行った。
ありがとうもごちそうさまも邪魔して悪かったも、何もなし。

なんなんですか、本当に。

壁に掛けた小さな時計を見ると、朝の八時。寝直すにも中途半端な時間。
とりあえずシャワーを浴びることにして、ソファから立ち上がる。

『探し物を見つけるってやつ』

出て行ってくれたのはいいけど、センパイの言葉が耳に残ってなんだか気になる。

何を探していたんだろう。

シャワーを浴びて着替えて、タオルで濡れた髪を拭いていると、端末が鳴った。
軽やかなワルツのメロディ。これは内部の誰かからの通信が入っているということ。

タオルをかぶったまま腰をかがめてディスプレイをのぞくと、点滅する『変態(オカマ)』の文字。ハンズフリーモードに切り替えて、両手で髪を拭きながら応答することにする。

「フランですけどー」

『あ、フランちゃん?いたいた、良かったわぁ!』

地声はかなり野太いのに、甲高く甘ったるい発声をするおかげで、結果、典型的なオカマボイスになっている。そして朝っぱらから高すぎるテンションには引かざるをえない。

「なんでしょうかー」

『あのねぇ、クッキーをねぇ、焼いたのよ!』

「・・・それはおめでとうございますー」

言いながら端末のボタンを操作し、音声のボリュームを落とす。
本当は声で『小さく』と言えば反応する端末だけど、一応相手に聞こえないように気を遣うあたり、ミーも大人になりました。

『そうなのよ!それでねぇ、たくさんあるから食べにいらっしゃいよ!』

「遠慮しときますー。甘い物苦手なんでー」

言うと、ボリュームを下げたにも関わらず盛大な高笑いが響いてきて。

『そう来ると思ったわ!甘くないのもちゃんと作ったのよ!お塩の味とかセサミの味とかね!』

「あ、でもミー、朝は食べないんでー」

『大丈夫、心配しないで!美味しいお紅茶もあるのよ!』

・・・・・・。

オカマは打たれ強い、という都市伝説は本当だったらしいです。
断るのも面倒になりました。行けばいいんでしょ、行けば。

神様。
ミーの貴重な休日が、アホどもによって潰されようとしています。

呼び出された先はオカマの部屋ではなく、共用スペースの一つであるキッチン。
共用スペースといってもかなり立派で、大きな冷蔵庫や業務用のオーブン、その他かなり専門的な調理器具も揃っているらしい。おおかた、この料理好きの幹部が特権を行使して入れた設備なんだろう。

オカマと二人、テーブルに向かい合って座る。テーブルの上には、六、七種類のクッキーがてんこ盛りになった白磁の皿がひとつ。ティーカップとソーサーが二組。

カップを持ち上げて紅茶をすすると、オカマが推薦するだけあって、透き通るような上品な香りが漂う。

「クッキーも食べてね」

両手で頬杖をつき、目の前で小首をかしげてくるオカマとはあまり目を合わせないようにしながら、一番甘くなさそうなベージュ色のクッキーを手に取って一口かじると、確かに砂糖の味はしなかった。
かわりにチーズの味と香りがして、悔しいけど、美味しい。

「チーズですねー」

「そうよ。お酒のおつまみなんかにもいいから、ボスにはこれね」

チーズ味のクッキーをぽりぽりとかじりながらあらためて皿に目を向けると、赤や緑のカラフルな物体が乗ったクッキーや、チョコレート色のクッキーが目に付く。

「甘そうなのが多いですねー」

「そうなのよ。甘いの作るとベルちゃんが喜ぶでしょう?」

でしょう?って言われても、知りませんが・・・。
オカマの姐さんがそう言うなら、きっとそうなんでしょう。

ミーには果てしなくどうでもいい情報ですけど。

「センパイはまだ食べてないんですか?」

聞くと、うーん、とさらに首を曲げる角度を深くするオカマ。

「それがね、ベルちゃんいま落ち込んでるのよ」

心配そうな顔をするオカマ。

「・・・一時間前はばりばり元気でしたけど」

ぼそっとつぶやくと、オカマは苦笑いする。

「そう見えてもそんなことないはずよ。おととい、大事な指輪を無くしちゃったんですって」

両手で包んだカップを回して、中で揺れる液体を見ていたけれど、その言葉にふと目を上げる。

「指輪?」

「そうらしいわ。戦闘に使うリングじゃなくて、普通のアクセサリらしいんだけど。それでクッキーも食べたくないんですって。かわいそうに」

「それは心配ですねー」

間延びした声で言うと、オカマがサングラスの奥からウィンクしてきた。

「思ってもないこと言わないの」

「ばれましたかー」

隠す気もないですけど。そんなミーを見てオカマはにっこり笑って、キッチン台を振り返る。

「そんなこと言っても後で食べるかもしれないから、取ってあるんだけど」

シンクの脇に置いてある大きな皿。今はかぶせ物をしてあるけれど、きっとクッキーが積まれているのだろう。それも、ずいぶんたくさん。

大人しく鎮座しているクッキー皿の向こうには大きな窓があって、午前中特有の少しふわふわした日差しが明るく差し込んでくる。窓枠に反射して跳ねるきらきらした光の粒を見ながらぼんやり考えた。

クッキーを食べたら、どうしようか。
読みかけの本がたまってるから、庭に出て読書でもしようかな。
幻術の勉強もしないといけないし。

柄にもなく落ち込んでいるらしいセンパイについては、オカマの話を聞いて思いついたことがあったけど、ミーには関係ないから黙っていよう。
ミーの眠りを妨げた罰です。

「指輪ですかー。高いんですかねー」

センパイのことを考えた拍子に口に出すと、正面に座るオカマがまた小首をかしげた。

「どうかしらね。あの子が気に入るものは大体いいお値段するけど、でも今回はちょっと違うみたい」

そして、口元に微笑を浮かべる。

「死んだお兄さんの形見なんですって」

ドアベルを押す。

反応はない。

もう一度押す。

「センパイ。フランですー」

センパイの部屋のドア。その上に隠されているはずの監視カメラに向かって手を振って、話しかける。

「探し物、見つけに来ましたよー」

言ったとたん、部屋の中でどすんばたん、という物音。
開錠の電子音と共に、扉が開く。

「・・・・・・」

見上げると、息せき切ったようなセンパイの顔があった。
センパイが焦った表情を見せるなんて、なんだか珍しい。金色の髪もくしゃくしゃになってるし。

「まじで?」

「まじですー」

うなずくと、センパイは怒ったような声で言う。

「おまえ、できないって言ったじゃん。ウソついたのかよ」

「ウソついてません。センパイの言い方が悪かったんですー」

ウソつき呼ばわりされるのは心外なので、目を細めて説明する。

「その場にいる誰も、実物を見たり触ったりしたことがない物を探すのは、サーチング、つまり粘写でしかできません。名前や特徴しか分からない物も探すことができて、これは相当高度な術です」

ミーのレクチャーを黙って聞いているセンパイ。

「でも、その場にいる誰かが、見たり触ったり、身につけたりしたことがある物のありかを探す、いわゆる失せ物探しは、トレースバッキングっていう中級の術です。粘写とは全然違うんです」

わかりますか、と問いかけたけど、返事はなくて。
しばしの沈黙のあと、センパイが小さな声で言う。

「その、トレースバッキングって」

「はい」

「おまえできんの」

「できます。むしろ得意です」

言ったとたん、センパイの顔が歪んだ。

「わっ」

がし、と両肩をつかまれて、思わず身体を引く。
握力強すぎで痛いですから。バカ王子。

「いきなり何す・・・」

「お願い。見つけて」

文句を言おうとしたけど、ミーの肩を両手でつかんで、ミーの肩に額を当てて、搾り出されたセンパイの小さな声が、なんだか必死だったから。
ミーはため息をついて、天井を仰いで、いいですよ、って言いました。

だって、そんな泣きそうな顔されたら。
そう言うしかないじゃないですか。

To Be Continued...
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