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『ブライト・ブライト』(山本&雲雀小説) 中編

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人に頼られるのが好き。
人を守るのが好き。人を守れる強い自分が好き。

人を頼るのが嫌い。
人に守られるのが嫌い。人に守られる弱い自分が嫌い。

野球というチームプレーをしていても、個人の努力と向上心はどうしたって不可欠なもの。
上手くなる奴は絶対、部活の時間だけじゃなくて家でもトレーニングしてるんだから。

寝ても覚めても、野球のことばかり考えて鍛えてきたから、きっと今の自分があって。
天才バッター、なんて言われると、嬉しいけど少しだけ違うかなって思ってた。

それでも人が好き。友だちが好き。
友だちをひっぱって、先頭に立って走る自分が好き。
決勝戦九回裏三点差二死満塁、大舞台ほど燃えられて、ホームランを打つ自分が好き。

だから。

誰にも依存できない。
依存したくない。

親父も友だちも、みんなオレが守るんだから。

「おい」

頭上から降ってきた声に、山本は腕の間から顔を上げる。
机にうつぶせて眠っている間に、午後の授業どころかホームルームまで終わっていたらしい。下校や部活の準備でざわつく教室の中、机の前に誰かが立っている。

最初に見えたのは、自分と同じ制服のシャツ。目を上げると、シャツの下に着込んだTシャツと重ねたシルバーアクセサリが目に入る。そのままあごを上げて上を見ると、この上ないくらいに眉間に深いしわを刻んでこちらを見下ろしてくるクラスメイトの顔があった。

獄寺隼人。

日本人にはない銀髪と抜群の成績で目立っていて、自分が親友だと思っているツナによく懐いている。言動がとにかく変わっていて、すごく面白い。

その獄寺が、不機嫌きわまりない顔で睨んでくるので、山本は寝起きでけだるい上半身を起こした。

「・・・おはよ」

寝ぼけまなこで挨拶する山本に、獄寺は無言で舌打ちを返してきた。

「ツナは?」

「10代目は委員会だ」

なんの委員会だっけ、と山本が考えている間に、獄寺が口を開く。

「ちょっと来い。話がある」

「え?オレ部活」

「てめーなんかとそんなに長く話すかよ。すぐ済むからさっさと来い」

それだけ言うと、獄寺はふいと横を向いて、そのまま教室から出て行く。山本は首をかしげながら、その後について教室を出た。

2-Aの教室と同じ階にある美術室。その隣の、美術準備室。前を歩く獄寺が、その部屋の戸を乱暴に引き開けて中に入っていったので、山本も後に続いた。

風景画の描かれたカンバスや、何体もの白い胸像や、古い額縁や、その他たくさんの画材や作品で散らかった準備室。山本はこの部屋を満たすシンナーじみた匂いがあまり好きではなかったが、我慢できないほどではない。

部屋の奥まで進んだ獄寺は、つきあたりの窓を背にして振り返る。西向きに開いた窓からは傾いた西日が直に差し込んでいて、山本はまぶしさに目をすがめた。

逆光に陰る獄寺の顔。色素の薄い髪が陽光を通して、まるで透き通るようだった。

「簡単に言うぜ」

「ああ」

なぜか自分に対しては怒鳴り声を聞くことが多い獄寺の、やけに静かな声。
こんな声してたんだっけ、と山本はぼんやりと思う。

「なにヘコんでんだか知らねーが、10代目にご心配おかけするような顔すんな」

「やっぱりツナのことか」

目を細めて笑う山本に、獄寺は心外そうな顔で言う。

「当たり前だろ。それ以外にオレとてめーに共通点があるかよ」

当てつけでもなんでもなく、迷わず言い切る獄寺。ここまで言われるといっそ清々しいな、と感心する山本。

「とにかく、その辛気くせー顔をどうにかしろ。どうにもできねーんなら学校来んな。休め」

「来んなとか、ひでーのな」

苦笑いする山本に、獄寺は眉間のしわを深くする。

「10代目がお気づきになるより前に、心配事を排除するのもオレの役目だ」

「え?」

その言葉に、山本は驚く。

黒曜ヘルシーランドでの事件から半月。雲雀と部室で話した日から一週間。その間、ときどきため息をつきかけたり、会話の最中に気が抜けてしまったりすることは自覚していたが、周りには気取られないように注意しているつもりだった。

それに気づかれたことにも驚いたが、気づいたのが獄寺だということがひどく意外だった。万一、気づく人間がいるとすればツナだと思っていた。だからてっきり、自分の不調に気づいたツナが獄寺に何か言ったのだと思っていた。

「ツナに言われたわけじゃないんだ?」

問うと、獄寺はフンと鼻を鳴らす。

「あの方は聡いお方だからな、それも時間の問題だ。だから今のうちになんとかしろ」

聡いお方、と自分で言って自分で誇らしげな顔をする獄寺。予想外の伏兵がいたことに、山本は少しの悔しさと、それよりも単純な嬉しさを感じる。

「とにかく、10代目のご迷惑になるようなことすんじゃねぇ。それだけだ」

「そっか。ありがとな」

うなずいて礼を言う山本に、獄寺が顔をしかめて聞き返してくる。

「は?なにが?」

「心配してくれたんだな」

「・・・てめーは日本人のくせに日本語が通じねーのか」

呆れたようにつぶやいて、獄寺は山本の横をすり抜け美術準備室から出て行く。山本も獄寺のあとに続いて部屋を後にした。肩をいからせて歩く獄寺の背中を見ながら教室に戻ると、他の生徒は誰もいなくなった教室の真ん中に、ぽつんと所在なげに立つツナの姿があった。

「あ、10代目!」

だらだら歩いていた獄寺が、飛び上がるようにしてツナのそばに駆け寄る。ターボでもついているかのようだ。

「お待たせして申し訳ありません!」

直立でお辞儀をする獄寺に、いいっていいって、と慌てたように顔の前で手を振るツナ。この光景もすっかり見慣れたな、と山本は思う。

「委員会、先生が休みで。プリントもらうだけで終わったんだ」

二人のカバンがまだあったから、と眉根を下げて笑うツナに、なら一緒に帰りましょう、と獄寺が満面の笑みを浮かべて嬉しそうに話しかけている。山本は自分の席に近づいて、机の上に広げたままだったノートと教科書を閉じてバッグに入れた。

「じゃーオレ、部活行くな」

投げ掛けた声に、獄寺は振り返りもしなかったが、ツナが顔を上げた。

「あ、山本」

「ん?」

教室を出かけていた山本は、肩越しに振り向く。視線がツナの琥珀色の瞳とぶつかった。

「最近元気ないよね?もしかして体調悪かったりしない?」

心配そうなツナの声。それを聞くなり、げ、という顔をする獄寺。

「あー・・・」

やっぱり見抜かれてた。山本は困ったように笑って頭をかく。獄寺の殺気を放つ視線が痛い。

「えーっと、ありがとな。大丈夫だから」

「本当に?」

「ん」

山本は広げた手のひらを振ってみせる。

「大丈夫。いま、大丈夫になった」

「え?なにそれ?」

きょとんとして瞳を瞬かせるツナと、毛を逆立てた猫のようにさっさと行きやがれオーラを全身から発する獄寺。その二人ともに感謝しながら、山本はひらひらと手を振って教室を出ると、部室に向かって廊下を駆け出した。

その日。練習メニューを全て消化して、夕闇の中、他の部員と共にクールダウンのため校庭を周回していた山本は、応接室の窓にまだ皓々と明かりがついていることに気づいた。
ほぼすべての教室の明かりが消えて、真っ黒なかたまりのように見える校舎の一角、その四角く切り取られたような窓の明かりは、ストレッチとミーティングを終えて解散したあとも、まだ消えることなくついていた。

「おつかれっス!」

練習用のユニフォームから手早く制服に着替えて、山本は大声で挨拶を投げるやいなや、バッグをつかんで部室を飛び出した。
なんだ山本、今日は早いな、と驚いたように掛けられる声を背中に受けながら、山本が向かった先は校門ではなく反対側の校舎。
階段を二段飛ばしで駆け上がって一度教室に戻り、目当てのものをつかむとまた全速力で廊下を駆け抜けて応接室の扉の前に立つ。

「・・・・・・」

息を乱したまま、勢いに任せてノックしようとしたこぶしが止まる。

ノックしてドアを開けたら、きっと中には雲雀がいる。やあどうしたの、なんて気安い言葉を掛けてくれる親切な相手でもなければ、要領を得ない話に付き合ってくれるほど気の長い相手でもない。

『僕を巻き込むな』

一週間前にこの上ない冷徹さをもって告げられた言葉は、山本の胸にいまだ刺さったままで。
でも、今日の自分にはちゃんと目的があるから。

意を決して握ったこぶしに力をこめ、ドアをノックしようとしたとき。

「邪魔だよ」

「うわっ」

不意に背後から声を投げられて、山本は飛び上がった。

驚きに跳ね上がる心臓を押さえて振り向くと、すぐ目の前に数冊のバインダーを抱えた雲雀が無表情で立っていた。突然のことに声を掛けあぐねている山本をそれきり無視して、雲雀は山本とドアの間に機敏にすべりこんでさっさとドアを引き、応接室の中に入る。そのまま容赦なく鼻先で閉じられようとするドアの隙間に、山本はとっさに上履きの先を突っ込んだ。

鈍い音がしてドアが止まる。

足の指を思いきり挟まれた痛みにうめき声が出そうになるが、無理やり飲み下した。

「あ、あの!」

靴先の分だけ開いたドア。その隙間に顔を押しつけて、山本は声を上げる。
ドアの内側から雲雀の冷たい目が覗いた。

「靴をどけなよ。ドアが閉まらない」

「いやだから、ちょっと待てって」

「待たない。足の指ごと粉々にされたいの」

真顔で恐ろしいことを言う雲雀に一瞬背すじが冷えたが、山本は気を取り直して言う。

「ヒバリ、頼みがあるんだ」

言い終わるや否や、鋼鉄のトンファーがドアの隙間から鋭い風切音とともに突き出されて、山本はとっさに上半身をのけ反らせて攻撃をかわす。しかし執念で足はドアと壁の間に残したまま。

と、急にドアが全開になって、足先を解放された山本は後方に数歩、よろけた。廊下に右手をついてなんとかしりもちをつかずに体勢を立て直すと、上げた目線の先には鈍銀に光るトンファーを両手に握った雲雀が仁王立ちになっていた。その痩身から放たれるのはまぎれもない殺意。唇が低い声をつむぐ。

「全身粉々にしてあげるよ」

「そう、それ!」

山本の言葉に、雲雀がわずかに眉根を寄せる。
山本は、肩にかついでいた袋を開けて、中から一本のバットを取り出した。

先ほど教室に寄ったときに、ロッカーから取り出してきた。一度強く振ると、バットが鋭い光を放つ刀身に変化する。

その直刃の輝きを見て、雲雀が片目を細める。その表情に向かって山本は笑顔で言った。

「手合わせ、お願いします」

To Be Continued...
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