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『アンバースデー・パーティ』(獄寺&ベル小説)

「あっれー、めっずらしー」

ボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーの本拠地。古い城を改装して建てられたこの屋敷は、長い回廊が特徴的な歴史ある建物だ。その石造りの廊下を一人歩いていた獄寺の背後から、からかうような声が飛んできた。足を止めないまま首だけで振り返ると、案の定、鮮やかな白金の髪を悪戯にハネさせた自称王子が、満面の笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「なにしてんの?」

「・・・仕事」

気安い言葉に短く答えて、獄寺はベルから離れるように歩みを早める。しかしベルは滑るように床を蹴って音もなく距離を縮め、獄寺の隣に並んできた。

「どこいくの?」

「てめーに関係ねーだろ」

「あるある。オレもそこ行く」

「はあ?ついて来んじゃねーよ」

「だってヒマだし」

「うっとうしい。あっち行け」

「やーだねー」

手を頭の後ろで組んで、歯を見せて笑いながらベルは本当に獄寺の後ろをついてきた。

このひねくれ者の王子様には、あからさまに嫌がるそぶりを見せたのが逆効果だったと気づいたがもう遅い。厄介な奴に目をつけられた、と獄寺はわざと聞こえるように舌打ちすると、それきりベルを無視して早足で廊下を進んでいく。

やがて着いたのは、重厚な扉の前。約束は取り付けてあるので遠慮の必要はない。獄寺は腕時計をちらりと見て時間通りであることを確めると、大きく二度、ノックをして目の前の扉を押し開けた。

天井の高い部屋、正面にはぶ厚い一枚板で作られた濃げ茶色のデスク。そこに鷹揚に肘をついて座るのは、この屋敷の、そしてヴァリアーの主。目にかかる漆黒の前髪の間から、鋭い紅玉の瞳がのぞいている。彼は扉を押して部屋に入ってきた獄寺の姿を認めると、無言のまま腕を伸ばし、部屋の奥にあるソファセットを手のひらで示した。座って待て、ということだろう。獄寺は頷いて古風なデザインのソファに腰掛けて足を組み、手に持ってきた資料の束をローテーブルの上に滑らせた。

ベルはといえば、獄寺の後ろについて躊躇なく部屋の中に入り込み、獄寺の座るソファセットからもXANXUSの座るデスクからも少し離れた猫足のロングソファに頭からダイブして、うつぶせになってごろごろし始めた。三人の位置を直線で結ぶと、ちょうど部屋の中に正三角形ができあがる具合だ。何やってんだあいつは、と獄寺はかすかに頭痛を覚えて、スーツの袖から伸びた手でこめかみを押さえた。

やがて、XANXUSが端末の蓋を閉じて立ち上がり、獄寺の方に向かって歩いてきた。相変わらず寡黙な野郎だ、と獄寺は内心思ったが、もちろん仕事の上では何の支障もない。無駄に口数が多いよりはずっといい。

XANXUSはローテーブルをはさんだ向かいのソファに腰掛けて足を組む。話を始めたいところだが、獄寺は寝転がるベルに目線を送り、次いでXANXUSの顔を見た。しかしベルの存在に気づいていないはずがないのに、まったく頓着していない様子のXANXUSの反応は、朱の双眸を浅くすがめただけだった。

「おい」

「聞かれて困る内容とは思わないが」

低い声で告げられて、獄寺は口元を歪める。今日の獄寺の身分は十代目沢田綱吉の代理で、用件も先日行われたボンゴレ本体とヴァリアーとの共同任務について補足的に情報交換をするだけのこと。だいたいの情報についてはすでに通信でやりとりしてあることもあり、機密レベルとしては話にならないほどに軽い。

しかしだからといって、用もない人間がそのへんに無遠慮に転がっているというのは状況としてどうなんだ、と思う獄寺だが、XANXUSは毛ほども気にしていない様子だし、自分が言ってベルが聞くはずもないし、と思うと、取れる手段はもう何もなかった。

(てめーらがそーやって甘やかすから、あーいう性格になっちまうんだろうが)

内心で悪態をつく。ロングソファにうつぶせに寝転がったまま、獄寺とXANXUSのためにコーヒーを淹れてきたメイドのエプロンの裾を引いて「オレにはミルクとケーキ」などと甘えた声で言っているベルの姿を視界に入れるのはやめることにして、獄寺は気を抜くと額に浮かびそうになる青筋を押さえながら、深呼吸をして頭を切り替え、仕事の話を始めた。

「言いたいことがあるならはっきり言え」

XANXUSの執務室の扉を閉めて、一足先に廊下に出ていたベルを獄寺は思いきり睨みつけた。すごまれたベルは、しかしまったく気にした様子もなく、壁に寄りかかって飄々と言い返す。

「言いたいことって?別にないけど。何か言ってほしい?」

「用もねーのにオレに付きまとってんのか」

「いまオレブームなの。付きまとい」

「はあ?」

「昨日はスクアーロにやった。面白かった」

ししし、と真っ白な歯並びを見せて笑う。いい年した大人がガキでもやらねーようなことを、と獄寺は呆れてため息をついた。

「帰る」

言って、歩き出した獄寺の後ろを、やはり足音もなくついてくる気配。獄寺はたまらず歩を止めて振り返る。

「おい」

「夕飯は?」

獄寺に合わせて足を止めたベルは、小さく首をかしげて言ってきた。

「は?」

「特別サービス。オレのとっておきの店、紹介してやるから来なよ」

ベルは軽い口調で言うと、獄寺を追い抜いて前に立って歩き出す。呆気にとられた獄寺は、しかしすぐに我に返ってその後姿を追いかけた。

「待てよ。勝手に・・・」

数歩で追いついて肩をつかみ、脇から文句を言おうとすると、うるさそうに顔を覗き込まれる。

「なに?予定あんの?」

「・・・ねーけど」

今日はもうボンゴレ本部には戻らない。仕事が長引く可能性もあったから、誰かと夕食を共にする約束もしていない。このまま屋敷を出たら、夕食は適当に外で済ませるか、抜いてしまうかだ。

「なら決まり」

勝手に決めると、ベルは早い足取りでさっさと歩いていく。獄寺は頭の中で思考を一通りめぐらせて、誘いを断る現実的な理由が見あたらないことを確認し、嘆息してベルの後を追った。

時刻は宵の口。サービス係が優雅な手つきでテーブルの蝋燭に火をつけて回っている。

適当なアラカルトを注文してメニューを下げさせ、獄寺はワイングラスに注がれた濃紫の液体を眺めた。目の前の金髪ナイフ野郎は、乾杯もいただきますもなにもなく、勝手にグラスの中身を空け始めている。獄寺は、なんでこいつと差し向かいで飯を食う羽目になってるんだと、もう何度目かの反芻を頭の隅でしながらも、万に一つもないようなレアなシチュエーションなのだから、何か面白い話でも聞けたら十代目に土産話にしよう、などと比較的ポジティブな思考を巡らせていた。

「話は、ないんだな」

悪戯な仕草でワイングラスの中身を揺らしているベルに、念押しするように言う。

「ないよ。あった方が良かった?」

「良いも悪いもあるかよ」

こいつとの会話はいつもこうだ、と少ない記憶を引き出しながら獄寺は呆れの色をにじませて言う。言葉遊びのように軽く、しかしうっかりすると何か言質を取られるような気がして油断できない。
罠と疑うほど信用していないわけではないが、安心して酔えるほど信頼しているわけでもない。口付けたワインは思わず息を呑むほどに美味かったが、獄寺はグラスに手を伸ばす回数を意識してセーブしていた。

流れていることを感じさせないほどに上品で慎ましやかな音楽、まるでここはそういうルールなのだとでもいうように揃って囁くような声音で話す他の客、サービス係たちの小気味いい足音、ほどよく暖められた空気の中を柔らかに漂う料理の香り。文句のつけようもない雰囲気の中、正面に座るベルを観察しながら会話ともいえないような会話を言葉少なに交わし、次々に運ばれてくる料理を食べていると、不意に話しかけられた。

「ね」

「なんだよ」

「おまえなんでマフィアやってんの」

「は?」

脈絡のない問いかけに、思わず声が出る。

「ね、なんでやってんの」

「・・・オレんちは元々マフィアだ」

「へえ。そう」

くすくす笑いながらベルは言う。こいつ相当酔ってやがるな、と獄寺は眉間にしわを寄せて思った。

「おまえこそ、家はマフィアでもなんでもないんだろ?なんでやってんだよ」

話していれば、こいつのイカれた頭も多少は回るようになるだろうか。取り留めのない会話に付き合うつもりで、獄寺は同じ質問を返した。すると、また可笑しそうに笑い出す。

「そんなの決まってんじゃん?」

口の端を上げて浮かべられる笑み。

「弱っちい奴ら踏みつけにして金まきあげてさ、言うこときかない奴は殺して黙らしてさ。そういうのって」

ベルは不意に言葉を切り、揺らしていたワイングラスにおもむろに口付けると、白い喉を見せて一気に傾けた。中身を飲み干し、舌で唇を舐めて前髪に隠された瞳を獄寺の方に向けてニヤリと笑う。

「すっごく楽しいから」

言って、空になったグラスをテーブルにたたきつけるように置いた。客のまばらな店内に、グラスとテーブルがぶつかりあう鈍い音が響く。幾人かの客が驚いたような顔を向けてきたので、獄寺は片手を上げて目線で謝罪した。

「おまえ、そういうの気になるほうかよ」

「オレが?そう見える?」

「ぜんぜん見えねえ」

「正解」

言いながら、ベルは終始くすくすと笑っている。そろそろ限界なんじゃないか、と獄寺はテーブルの下で腕時計を確認した。食事を始めてから一時間、これまで、ベルは楽しそうにあれこれ注文したにも関わらず、料理にはほとんど手をつけなかった。その代わり、次から次へとワインを飲み干していく。

グラスが空になると不機嫌そうに頬を膨らませるため、ソムリエが自分たち二人のテーブルをことのほか気にしていることに気づいた獄寺は先ほど、あとは自分が注ぐからいい、と言ってボトルをテーブルに置かせていた。値段は気にしていないものの、ベルのアルコールの許容量をまったくと言っていいほど知らないため、注がれるままに飲んでいてはまずいと気を回したのだ。そのワインのボトルを、ベルがこれ以上勝手に飲まないように自分側に引き寄せる。

「おい」

「んー?」

「潰れるなよ。置いて帰るぞ」

「だいじょうぶー」

大丈夫ってテメ、すでに呂律回ってねーじゃねーか、と獄寺は舌打ちした。料理は半分近く残っていたが、サービス係を呼んで水をもらい、会計を頼む。運ばれてきた明細をろくに見ずに多めのチップ額を書き込んでカードを渡し、ついでに手洗いに立って戻ってきてみれば、ベルは指をワイングラスの細い足にからめたまま、テーブルに額をつけて静かに寝息を立てていた。

(ったく・・・)

戻ってきたカードを財布に乱暴に突っ込んで、タクシーを頼む。スーツの内ポケットから探り出したジッポをテーブルの上に出すと、サービス係が葉巻を勧めてきたが、手を振って断った。自前の煙草を取り出して火をつける。浅く吹き出した煙の向こう、目の前の金色の頭に引っかかっている髪と同じ色のティアラが少し傾いていることに気づいたので、手を伸ばしてまっすぐに直してやった。細い金髪がかかる華奢な肩が、呼吸と共に緩やかに上下している。

獄寺の煙草が短くなった頃を見計らってか、サービス係が近づいてきてタクシーが到着したことを告げた。頷いて立ち上がり、吸いさしの煙草を灰皿に押し付けてベルの肩を押す。

「おい、起きろ」

耳元で怒鳴ってやるが、ベルはごしごしと額をテーブルに擦り付けるだけで一向に起き上がろうとしない。声はかけたものの、もともと期待もしていなかった獄寺はテーブルにうつ伏せたベルの身体の下に腕を入れて起こしてやる。サービス係が、反対側から手伝った。

「わりーな」

小声で謝罪すると、壮年のサービス係は微笑んで首を振った。そこそこの体格の男にしては軽いベルの身体を支えて立ち上がる。

「こいつ、いつもこう?」

どうせそうなんだろう、と思いながら問うと、意外にもサービス係は首を振った。

「いいえ。何年も前から月に一度はお見えになりますが、ワインをお召し上がりになったのは今夜が初めてでございます」

「・・・マジか」

オレをナメてんのかこいつは、と鼻白む獄寺を見て、サービス係は少し逡巡するようなそぶりをしながらも再び口を開いた。

「実を申しますと、どなたかをお連れになられましたのも、今夜が初めてでございます」

「・・・へえ」

驚いて思わず声が出た。
しばらく考えたが、真意は分からない。一度頭を振って、獄寺はベルの体重を支えながら出口へと向かった。

「もしもし・・・ああ、そうだ。あんたらのとこの王子様が酔い潰れて寝てる。屋敷の前まで車で連れてくから引き取れよ・・・ちげーよ、うるせーな。勝手に飲んで勝手に潰れたんだよ。オレは被害者だからな・・・ああ、そうだ・・・うるせー。じゃーな」

タクシーの中、携帯電話から少し耳を離しながらの会話。相手は怒鳴るような大声でまだ何かわめいているようだったが、一方的に会話を打ち切って通話を終わらせる。
相手の声が大きすぎて、鼓膜が痺れるような錯覚を感じた。

ベル一人だけタクシーに放り込んで帰してしまわなかったのは、ヴァリアーの屋敷で本当にちゃんと出迎える奴はいるのかとか、このバカが寝ぼけて運転手を殺したりしないだろうかとか、こんな状態で帰って屋敷前あたりでどこかのチンピラにあっさり狙撃でもされたらこっちの夢見が悪いだとか、そもそもこいつは財布を持ってるのかとか、とにかく考えれば考えるほど心配の種が尽きないことに気づいてしまったからだ。後から気をもむくらいなら、と結局同乗することに決めてタクシーに乗り込み、時計を見ればまだ十時前だった。

助手席に座った獄寺は、街の明かりが火の粉を飛ばすように後ろに流れていくのを眺め、後部座席にひっくり返って幸せそうな寝息を立てているベルをフロントミラーごしに眺め、ふ、と息をつく。

(マヌケ面で寝やがって)

ベルとは過去に一度戦い、そのときはお互い傷つき死にかけた。しかしそれはもう十年近くも昔の出来事で、獄寺の決して長くはなかった学生生活と同様、どこか懐かしいものになりつつある。

その後、不本意ながら共同任務についたことも幾度かあったし、適当に助けたり助けられたりしたこともあった。出会った頃に感じていた確執は、今ではもうない。

獄寺は、心地よい車の揺れに重くなり始めたまぶたをこすりながら考える。眠っている今でこそおとなしく閉じられているが、いったん目覚めればその傲岸不遜な口から出るのは戯言か軽口か嘘ばかりで、しかしその代わりとでもいうかのように、ベルがとる「行動」が恐ろしく心のままであることはもう分かっていた。そして今日は、付きまとわれて食事に誘われてわけのわからない質問をされて一方的に寝られて、とりあえず迷惑をかけられて、それでも。

気まぐれがすぎるとはいえ、奴なりにこちらに歩み寄ろうとしているのだろうか、とも思う。
何か友好的な言葉をかけられたわけではないし、とても分かりにくいし、ただの思い込みにすぎないのかもしれないけれど。

とりあえず、破格に美味かった料理の礼に、次は自分から誘ってやろう、そして今夜の分に迷惑料を付けて奢らせてやろう、と心に決めて、獄寺は車がヴァリアーの屋敷に着くまでのしばしの間、瞳を閉じて眠った。

THE END
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後書き(文字反転)

小説お休み期間は続行中なのですが、発作的に書いてしまいました。
獄寺とベル。大好きな二人が一緒にいるのは、とても幸せです。

読んでくださり、ありがとうございました(深々

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