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『怖がらせる -Furchtenmachen-』 2

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あの引きこもり傾向のバカガエルをどうやって巣から引きずり出してやろうか、なんて考えながらぶらぶら廊下を歩いてたら、当の本人が、ちょうど両手で扉を押し開けて自分の部屋から出てくるところに行き当たった。お、これってラッキーじゃん、なんて思ってそのまま近づいていくと、気配と足音で気づいていないはずはないのに、こちらを見もせずにオレがいる方とは反対の方向に歩き出す。

とりあえず、袖口から取り出したナイフを挨拶代わりに投げてやった。もちろん狙い通りに両の肩甲骨の間に突き刺さったけど、ちょっと衝撃につんのめるような、小石につまずいたような、そんなわずかな反応を返しただけで、また何事もなかったように歩いていく。完全無視を決め込むつもりだ。王子相手に、ほんといい度胸してんなコイツ。

一足飛びに距離を縮めてフランの隣に並ぶ。背中に生えたナイフをわざとゆっくり抜いて、かぶりものに肘を置いて歩きながら話しかける。

「で、『X』て何よ」

「教えませんー」

相変わらずの無表情。目線は前に投げたまま、こちらを見上げてこようともしない。

「いーじゃん。どーせ大した用事じゃないんだろ?」

「会うなりナイフ刺してくるようなクレイジーバカには教えたくありませんー」

「クレイジーバカ?」

「ですねー」

「おまえさあ。あんまり、」

「はい?」

「王子のこと怒らせんな」

言って、オレは素早く腕を伸ばしてフランの首を右手でつかみ、その小さな身体を背中から廊下の壁に押し付けた。ドン、と鈍い衝撃。フランが痛そうに顔をしかめる。

「なにすんですかー」

「ん。生意気なカエルは解剖してやろうかなって」

背中から抜いたばかりのナイフを左手の指先でくるくると回す。オレの右手に首を押さえられたフランがそれを見てわずかに片目を細めた。窒息させる気はないから気道は確保してやってるけど、首を押さえ込まれた人間の常として、その碧緑の瞳に警戒の色が浮かぶ。眉を寄せて、オレが本気かどうかを測りかねてる、そんな顔。

「・・・仲間殺しはご法度ですよー」

考えた末に探りを入れることにしたのか、そんな小理屈を言ってくるカエル。

「へえ、オレらって仲間なの?」

「ミーはいま個人の関係性の認識のハナシじゃなくて、組織としての体制のハナシをしてるんですけどー」

堕王子、と小さくつぶやいたのが聞こえて、またイラッとした。てめ、少しは怖がれよ。王子のことナメてんの?

コイツの怖がる顔が見たい。
怖がらせてやりたい。

悦楽を伴う衝動がむくむくと湧き上がってくる。言うまでもなく、オレは他人の怖がる顔が大好きで。
任務でターゲットを追い詰めたとき。死そのものに、そしてそれに伴うだろう痛みに、恐怖する顔がたまらない。理由と言うほどの理由はないけどあえて言うなら、捕食する側として、生態系的に上位に立ったようで気分がいいから。そしてそれは錯覚じゃない。はず。

「殺さなくたって痛い目見せてやる方法なんていくらでも知ってるしさ」

首をつかんだ右手はそのままに、ナイフを持った左手でフランの冷たい手を取る。奴が護身用にはめているDランクのリングを、その細い指から抜いて足元に落とした。金属質の乾いた音が廊下に響く。

「なんなら死体さえ見つからなけりゃ、ただの逃亡兵扱いだっての」

強力な幻術を操る霧の術士。奴らの中に実戦レベルの格闘ができる奴はほとんどいなくて、コイツの師匠みたいな両用タイプは本当に希少な存在だ。コイツも例外ではないし、つまり一度こんな風に懐に入ってしまえばオレが負けることはありえない。

この白い頬にナイフの先で一筋の傷をつけて。
そのまま喉を裂いてやったら楽しいだろうか。

きっと楽しいだろうな。

「ミー、なにかセンパイに殺されなきゃなんないようなことしましたっけー」

ぼんやり夢想してたら、目の前のカエルが言葉を発した。オレは首をかしげて笑顔で返してやる。

「さあ?とりあえず今日は雨だしオレの機嫌が悪いってことじゃね?」

「サイテーですー」

感情の揺れというものが全く読み取れない、色の薄い瞳。緑の虹彩。そしてやっぱり、

(怖がらない)

不意に何もかもつまらなくなって、拘束していた右手を離した。
解放されたフランは、やっぱり少し苦しかったのか、自分の首を押さえて小さく咳き込む。白い首にしばらく痕が残るかもしれないけど、知ったことじゃなかった。

「・・・ときどきー」

「あ?」

足元に転がるリングを屈んで拾い上げ、指にはめ直しながらフランが口を開く。
少しだけ掠れた、小さな声。

「ときどきセンパイのことがカワイソーになりますー」

「はあ?」

「すごく、そう思うときがありますー」

「・・・・・・」

怖がらないどころか、これだ。
ちなみにオレは「かわいそう」という言葉が大嫌い。コイツがそれを知ってわざと言ってるとまでは思わないけど。

「それじゃ、行きましょうかー」

「ん?」

「『X』ですよー」

言って、フランはすたすたと廊下を歩き出す。一瞬呆気に取られたけど、気を取り直してその小さな後姿を追いかけた。

「教えてくれんの?」

「はいー」

感情に乏しい乾いた声で、でも肯定の頷きを返してくる。
隣に並んで、揺れるカエルのかぶりものを見ながら歩く。

「なーフラン」

「はい?」

「怒った?怒ってる?」

「ミー思うんですけどー」

オレの質問は無視して、フランが口を開く。

「センパイって病的な寂しがり屋みたいなんで、フツーに友達とか作った方がいいと思いますー」

ムッカ。
なんだか最大級にムカついて、オレはかぶりものに包まれたカエルの後頭部を思い切りグーで殴った。

To Be Continued...
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