『十分に幸せ -Gluckes genug-』
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フロントからのモーニングコールに起こされたのは朝の9時だった。
少し遅いけど、寝たのは朝の6時だから見逃してほしい。もう1時間早く起きられたらホテルのジムに行きたかったけど、それは潔く諦めることにした。顔を洗ってヒゲを剃って、ルームサービスで頼んだトーストをかじりながらホテルの部屋に届けさせた新聞5紙を斜め読みする。熱いコーヒーを胃に流し込んだところでパソコンの電源を入れ、メールボックスを開いたら、新着メールの中に日本にいるツナからのメールがあった。
昨日、「来月日本に行く」ってメールをしておいたから、その返信だ。
簡単な近況報告と、最後に「楽しみにしています!!!」って書かれてて思わず口元がほころんだ。うちの弟分はいつも素直で、微笑ましい。
ツナはパソコンも携帯も持っていないから、メールを送るときはリボーンのパソコンを借りているようだ。いつでも携帯にかけろよって言ってあるけど、気を遣っているのか、携帯に電話を寄越したことはまだ一度もない。いつもパソコンへのメールだ。
逆にいつも携帯に連絡を入れてくる人間もいて、オレは別にどっちでも構わない。仕事用の携帯、プライベート携帯、そして日本語対応の携帯、の3つを順にチェックすると、日本語対応の携帯に、同じく昨日連絡を入れておいた携帯派の恭弥からメールが届いていた。こちらは短く1行、「7/4夜 、7/5午後、7/7午後」とだけ書いてある。
これはつまり「この時間帯なら空けられる」という意味だ。説明されたことは一度もないから最初は何事かと思ったけど、こっちが慣れてしまえば何の問題もない。むしろ簡潔でいい。長々と返信しても読んでもらえる気もしないから、「了解。5日の14時に応接室に行く。何かあれば携帯に」とだけ返信した。日本に行ったときは、師匠のリボーンと弟分のツナに会って飯を奢ること、あと教え子の恭弥と手合わせすること、はできるだけ欠かさないようにしている。
あいつらもあいつらなりに忙しいだろうに、いつもオレのわがままに付き合ってもらってるようなものだ。内心で改めて感謝しながらクローゼットからスーツを出して袖を通し、歯を磨いて髪を整えて気合い系の香水を振り掛ける。ロマーリオが車の手配ができたことを告げに来る頃には部下が荷造りを終えてくれていて、出発準備完了。
今日は午前中に商談が2件、そのまま仕事相手とランチを取って、夕方までファミリー内の会議が3件。来客が1件。夜は関係ファミリーのパーティがある。主催はボスのドン・アントニオ、パーティの名目は一人息子のデビュー、と頭の中で復習。移動中に仮眠が取れたらラッキーだけど、車の中でメールを書いてニュースをチェックしていれば大体目的地に着いてしまうから期待はしていない。
「どうしたボス、ニヤニヤして」
ホテルをチェックアウトしてエントランスを出ると、斜め後ろを歩くロマーリオが声をかけてきた。
「いや、なんか、オレって幸せ者だよなーって」
「なんだそりゃ」
ははは、と気安い声でロマーリオが笑う。周囲を囲んでさりげなく周りに目を光らせている部下たちも、つられるようにして笑った。
初夏の太陽が目にまぶしい。今日もいい天気だ。
遠く海の向こう、でも同じ空の下を生きている、構い構われてくれる中学生たちのことを思って。
さあ今日も一日頑張っていくか、と両腕を蒼天に突き上げて大きく伸びをした。
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THE END
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