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『夢 -Traumerei-』

夢は、巨大ロボになることだった。

当時、身長が平均より大分低かったことも、少なからず影響していたのかもしれない。

巨大ロボになって何をしたいか、なんて一歩踏み込んだところまで考えを及ばせることはなくて、とにかく、巨大ロボになりたかった。けれど、今にして思う。きっと巨大ロボになった自分は、テレビに出てきたヒーローのように、誰かを守りたかったんじゃないかと。

たとえば、自分の住む街を。たとえば、自分の家族を。たとえば、好きな女の子を。
宇宙から来襲してくる敵の攻撃から、命がけで守る。
そんなヒーローになる夢を、本気で思い描いていた。

夜、ベッドに入って目を閉じて、お祈りしてみたこともあった。明日こそ、目が覚めたら巨大ロボになっていますように。一生懸命神様にお願いしたけれど、朝の光の中、目を覚ました自分はやっぱり小さくて鈍くさくて気弱な少年のままだった。きっとお祈りの途中で眠ってしまったからバチがあたったんだ、と落ち込んだことを嫌に鮮明に覚えている。

残念ながら巨大ロボにはなれなかったけれど、大切な人たちを守る、という目的だけを掬い上げてみれば、その夢は叶ったことになる。ような気がする。

ふと手のひらを持ち上げて、肌の向こうに通う血のことを思う。その内にかすかに流れるイタリアの血のことを思う。

自分の身にこの初代ボンゴレの血が流れている以上、いくら泣き喚いても逃げ回っても、平均的な日本人に許された退屈で平和な日常が戻ってくることはないのだと。うすうす感づいてはいたけれど認めたくなかった現実を、あるとき、悟って。

(オレのそばにいると、幸せになれないかもしれない)

そんな言葉を、周囲の優しい人たち一人一人に、そっと、投げかけてみたことがある。

本当に心から彼ら彼女らの生活の平穏を願うなら、そんな中途半端な言い方をするべきではないと知っていたのに。
もっとずっと激しく心無い言葉をぶつけて彼ら彼女らを切り捨て遠ざけることができなかったのは、明らかに自分の弱さ。

それなのに、そんなセリフをおずおずと言い出した自分に返ってきたのは、言い回しは違えど、一つ残らず同じ意味の言葉で。

ある者は呆れ顔で、ある者は怒りながら、またある者は本当に泣きそうな顔で。

(あなたのそばにいたいから)
(それが自分の幸せだから)
(だからオレはここに)
(だから僕はここに)
(だから私はここに)

―――――――いるのです。

心の奥で切望していた言葉をもらえた。

離されることを恐れて震えていた自分の手をしっかりと包んでくれた、柔らかな温度。
取り残されることに怯えて泣いていた自分の心をまっすぐに受け止めてくれた、強い瞳。

だから、そう。

オレも、きみたちのそばにいることが、
なによりの幸せなんだ。

だから、オレは、
命にかえても、
きみたちを守るから。だから。

どうか。
ひとつだけわがままを聞いてほしい。

「オレのそばにいて」

巨大ロボにはなれなかったけれど。
強く深く、叶えられた夢の中を生きている。

THE END
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