『詩人は語る -Der Dichter spricht-』
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(stay or go ?)
とどまるか、踏み込むか。
ひどく原始的な問いだ。
(stay or go?)
とどまるか、それとも踏み込むか。
それはこの世に生を受けてより、自分で下した判断の数だけ。
(stay or go?)
川は流れてこその清流、波打ってこその青さ。
流れを、波を、止めたとき、水面は沼となり暗く淀みだす。
川下へと走る流れを阻害する石は打ち砕き排除して。
動きを止めた心が淀んで、そこに澱が沈まぬように。
ただ、淀まぬように。ただ、とどまらぬように。
それだけが、望み。
それだけが、答え。
(stay or go?)
踏み込め。
戦え。
走れ。
喉に血が滲むほどに叫んで。
肺が灼き切れるほどに呼吸を乱して。
まだ淀むには早すぎる。
現状に満足してとどまるなんてありえない。
そんな役目は、本部の安楽椅子の上。
ただ座して死を待つ老いぼれ共にでも任せておけばいい。
(stay or go?)
答えはひとつだけ。
主君たる大空に付き従うため。
彼の望む楽園を作るため。
とどまらない。ただ、踏み込むだけだ。
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虚空に描いた白昼夢。
まばたきひとつで区切りをつければ、雲のない夏空にあっけなく霧散する。
(オレって結構、詩人?)
自らの思考に自嘲の笑みで返して、獄寺は腕時計を見る。
時刻が迫っていた。
あいにく、流す涙は持ち合わせていない。
その甘いご褒美は、自分が死を迎えるそのときまでとっておくと決めているから。
そうすれば、いつか来るその日が少しだけ楽しみになって。
蝉の声と共に脳漿に響く、この喪を告げる鐘の音も、悪くないように思えて。
(また会おうな)
小さくつぶやく。短くなった煙草を灰皿に押し付けて膝を払い、立ち上がった。
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旅立ちの日。答えはひとつだけ。
(stay or go?)
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THE END
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