« 『鬼ごっこ -Hasche-Mann-』 2 | トップページ | REBORN(リボーン)標的297の感想(ジャンプ(WJ)2010年32号) »

『鬼ごっこ -Hasche-Mann-』 3

<<1に戻る
<<2に戻る

目を覚ましたとき、最初に感じたのは背中にあたる断続的な緩い振動。耳に響くエンジン音。

車の後部座席で、毛布に包まれて額に保冷シートを貼り付けられて横たわっていたらしいミーは、重いまぶたをあげて顔をひねり、運転席を見た。

窓の外は雨らしい。行く手をまぶしく照らすライトと水滴を散らして細かく動くワイパー。ハンドルを握っているのは、銀髪ロン毛の雨の幹部の人。ミーをさらってきた張本人だけど、実はまだほとんど話したことがなかったりする。
その隣で助手席にふんぞり返って、行儀悪く足を組んで座っているのは、相変わらずの堕王子。

ミーが目を覚ましたことに気づいて、堕王子の方が振り返って話しかけてきた。

「起きたー?」

「・・・はい・・・」

発した自分の声は思いのほか掠れていた。軽く咳き込むと、それを見たセンパイがミネラルウォーターのボトルを投げてくる。喉が乾燥していたのは確かだったから、ありがたく受け取ってキャップをひねった。身体を起こしてボトルを傾けて一気に半分ほど飲むと、喉を滑り落ちる冷たい水が美味しかった。

お礼を言ってボトルを返したら、センパイが身体ごとこちらに向けてきて、ついでにレバーを引いてシートを思い切り倒して、座席にうつぶせになって後部座席に座るミーに顔を近づけてくる。

あ、ロクなこと言わないときのニヤニヤ顔だ。
眉間にシワを寄せていると、案の定、おかしくてたまらない、という顔で話しかけてくる。

「やっぱ風邪ひいてたんじゃん」

「・・・いけませんかー」

「素直に言えよ。代わってやったかもしれねーのに」

「・・・自分でできると思ったんですよー」

「ガキ」

ムッとしたけど、結局助けられてしまった手前、言い返せない。黙るミーを見て調子に乗って、堕王子がまた口を開く。

「だいたい、ちょっとヘマしたくらいでいちいちヘコんでんじゃねーよ。打たれ弱すぎ」

「・・・ません」

「あ?」

「・・・失敗したことなんてありませんー。今回が初めてですー」

「は?マジで!?」

いきなりセンパイが大声を出すから、こっちがびっくりした。

「え?なんですか?」

「八割五分」

黙って運転していた銀髪の人(名前なんでしたっけ?)が急に言葉を発した。

「ウチで超優秀って言われるラインだ。初回成功率八割五分」

「え」

聞いてた話と違う。ちょっと混乱して、落ち着いたと思った熱がまた上がった気がした。

「だって・・・ヴァリアークオリティーって」

「あれは作戦決行の基準だろ。決行した作戦全部成功するとでも思ってんの?成功予測九割で決行、でもって結果は」

銀髪ロン毛と堕王子が声をそろえて言った。

「八割五分で、ばんばんざい」

「そんなに低いんですかー・・・」

呆気にとられて、気の抜けたような声が出る。
何かと比べたわけじゃないけど、一発で成功して当たり前なんだと思いこんでいた。

「全っ然!低くねーっての。初回でダメならリトライすんの。つかおまえ十割だったの?今まで失敗ナシ?マジで?」

「・・・はい」

「信じらんねー、運良すぎ」

本気で驚いた、という顔でセンパイが言ってくる。運じゃないです実力です、と主張したかったけど、声を上げるとまた熱が上がりそうだったから言い返さなかった。
今日助けてもらったのは確かだし。運が全然なかったとも言い切れないし。

「でもそんなんだから風邪ひいたときとか言えねーんだろ。真っ赤な顔して、バレバレなのにさ」

言いながら人差し指を伸ばして、保冷シートの上からミーの額をぐりぐり押してくる。痛い。

「なんでも一人でやろうとすんな。周りの奴らもっと利用しろよ。疲れたんならサボれ。仮病使え。誰かに仕事押し付けて寝ろ」

匣を持って屋敷を脱出した部下からの連絡を受けて救援に来たのだろうこの二人が、保冷シートなんてものを持参していたのは、もしかしなくても堕王子がミーの不調に気づいていたからなんだろう。額を冷やすシートは本当に神の手にも思えるほどの心地よさだったから、ミーも少しだけ素直になって、頷いた。

「・・・ですねー・・・」

「テメーはサボりすぎだぁ」

呆れた声で合いの手を入れてくるドライバーを無視してミーの額をつついてくるセンパイの指。それから逃れて、また後部座席に横になった。

「少し・・・寝ます。いいですかー?」

「おー、寝ろ寝ろ。着いたら起こしてやっから」

最後に見たのは、倒しきっていたシートを元に戻して、また前を向くセンパイの悪戯に跳ねた髪の先。そのまま目を閉じた。

これが、ミーの初めての失敗の話。
はっきり言って、消したい記憶。なんですけど。

人を頼るのが苦手なミーが、人を利用することを覚えて。
少しだけ成長したとか、しなかったとか。

あの後は、アジトに戻るなり強制的に医務室に放り込まれて、投薬されて点滴を打たれて、自分の部屋のベッドで寝ることができたのはそれから三日後だった。

その間、なんやかやと世話を焼いてくれて、実は一番使える人だということが分かった、意外と話好きの隊長とか(でも病人にお酒を勧めるのはやめてください)

最初の二日間は本気で看護師だと思い込まされていた、気持ち悪いくらいに完璧な看護っぷりを見せてくれた変態オカマとか(新参者をダマすのもいい加減にしろ)

なーんか入り口からチラチラ視線を感じて、だいぶ回復した三日目に罠を張ってみたら、かかってたのがお見舞いの品を抱えた変態オヤジだったとか(貰える物は貰いますけど)

当然ながら医務室には一度も顔を見せなかったけど、回復してから報告に行ったら状況もしっかり把握してて、ねぎらいの言葉を掛けてくれたボスとか(何を言われたかは秘密)

本当にいったいいつ仕事をしているのかと思うほどにしょっちゅう医務室に出入りしては、
本当にくだらない話をして満足して帰ってく堕王子とか(もう言うことは何もありません)

このとき、イカれ集団ことヴァリアーに入隊させられてちょうど三ヶ月目。

別に馴れ合いたいわけじゃない。永久就職するつもりもない。だけど。
もう少しここでやってみるのも悪くないかも。そう思った。

THE END
************************************************************

<<2に戻る

●小説部屋の目次へ

|

« 『鬼ごっこ -Hasche-Mann-』 2 | トップページ | REBORN(リボーン)標的297の感想(ジャンプ(WJ)2010年32号) »

●03-2.小説部屋」カテゴリの記事