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『重大事件 -Wichtige Begebenheit-』

イタリア某所

ボンゴレ・カウントダウン・パーティ会場

12月31日 PM.22:55

乾杯が終わってパーティが始まって、約4時間。ボスは乾杯のときだけ苦虫を噛み潰したような顔で同席して、パーティが始まると同時に食事には手も触れずにさっさと帰っていった。クールだ。車を出したスクアーロとレヴィも一緒に出ていったけど、オレはマーモンとルッスと会場に残った。一応、ゲストにまぎれて会場内を警備するという役どころだけど、実際は適当に料理をつまみながらぶらぶらしてるだけ。

片手のワインを試しながら歩いていると、外のバルコニーに知った気配を感じた。ちょうどヒマだったし相手も一人のようだったから、そちらへ近づいて扉を押し開け、バルコニーに顔を出す。カーテンをひるがえす冷たい風が頬をなでた。

「よお」

声を掛けると、休憩用に出された椅子に座ってぼんやりしていたらしいそいつが目を上げる。

「外でボヤっとしてんなよ」

狙撃される危険のことを忠告してやったつもりだったけど、相手は口元に笑みを浮かべて、ゆっくりと首を振る。

「ありがとう。でも大丈夫」

超直感とかいうアレか。オレは肩をすくめて足を踏み出しバルコニーに出る。アルコールで火照った肌に冷えた夜風が心地いい。

「なにしてんの」

「あ、ちょっと・・・酔いざまし」

ファミリーの後継者にとっては、パーティも立派な仕事だ。9代目と共に主催者側の人間であるこいつは、かわるがわる挨拶に寄ってくる関係ファミリーの幹部連中に酒を勧められて愛想笑いして気疲れしたんだろう。なんでもない風を装いながらも、その顔にはわずかに疲労のあとが見えた。毎度ご苦労なことだ。

「一人なんだ」

「え?」

意味を図りかねたように、目線を上に上げてくる。

「キョーコチャン?だっけ?来てねーの?」

「あ、うん」

言葉の意味を理解したようで、勢い込んだようにうなずいた。放蕩な家庭教師に師事しているにも関わらず、ボンゴレの次期ボスが愛人のひとりも作らずにいる理由が、日本にいる女であることは周知の事実だ。純なことに名前を口に出されただけで頬を上気させて咳き込んだ。

「年が明けたら、すぐ卒論の口頭試問があって」

「学生なんだっけ」

奴はうなずいて、少し笑った。

「それに公の場は危ないから」

「そりゃ、さびしーな」

「仕方ないよ」

さびしいな、と言ってみたオレの言葉をそれでも否定はせずに、奴は肩をすくめる。オレはといえば、ボンゴレの跡取りがどんな女とくっつこうが、正直あまり興味はなかった。どうせなら美人がいいよな、くらいのものだ。

「そういえば、おめでとう」

「あ?」

唐突な言葉に、傾けていたグラスを戻す。

「誕生日」

「・・・ああ」

オレの誕生日が一週間と少し前だった。

「覚えやすくていいね。クリスマス前」

「良かねーよ。ケーキもプレゼントもまとめられちまうんだぜ」

言いながら、ずっと、そのどちらも二倍を要求してきたことを思い出す。
さすがに最近はおざなりになってきてるけど、子どもの頃は大問題だった。

「言ったからにはなんかくれんだろーな」

「え」

奴は困った顔をして眉間にしわを寄せた。当たり前だけど、考えての発言じゃなかったんだろう。黙って待ってみると。

「えーと・・・あ、じゃあこれ」

奴は、スーツの袖をまくって、手首にはまった華奢なブレスレットを見せた。

「今日はじめて付けたんだけど、ずいぶんいいものみたいだし、良かったら」

「お、いーじゃんいーじゃん」

差し出された腕に顔を近づけて、オレはにんまりする。
求めよ、さらば与えられん。銀細工の上品なブレスレットはオレの趣味にストライクだった。

「いーのかよ?」

うなずいて、奴はブレスレットの留め金を外してオレに差し出す。なんでも言ってみるもんだ。

「ひとつだけお願いが」

「は?」

受け取ったブレスレットをさっそく手首に巻きつけながら、オレは奴が胸ポケットから出した手帳になにかを書き付けてちぎりとるのを見ていた。その紙片を爪の先で丁寧に折りたたんで、オレに渡してくる。

「もうすぐ獄寺君がここに来ると思うから。これ渡してほしいんだ」

「えーめんどくせー」

「お願い」

頭を下げて、奴は椅子から立ち上がった。

「じゃあ、オレはこれで」

「花火、見てかねーの」

カウントダウンまであと1時間ほどだ。聞くと、奴は琥珀色の瞳を細めて笑った。

「運がよければ、空港から見えるかも」

空港?

怪訝な顔をするオレに、よいお年を、なんて日本語で言い残して、奴は室内に戻っていった。もうパーティは流れ解散みたいなものだからどこに行ったっていいんだろうけど、それにしても。

空港?

相変わらずヘンな奴、と思いながら、主を失った椅子に腰掛けて足を組む。手首を振って手に入れたばかりのブレスレットを機嫌良く鳴らしていると、眼下の門を一人でのんびり出て行く次期ボンゴレボスの姿が見えた。帰宅するゲストのために門の前にすずなりになって止められている車、そのうちの一台の運転手に話しかけて、そのまま乗り込む。

走り去っていく車のテールランプが、ホタルのようにわずかに赤い尾を引く。それを眺めながら夜風を楽しんでいると。

「10代目・・・って」

背後の扉が開いて、知った声がした。

「よお」

ワイングラスを傾けながら振り向かずに言ってやると、呆気に取られたような大声。

「なんでテメーがいんだ?」

「はあ?なにそれ文句ある?殺すよ?」

「あ!そのブレスレット!」

頭の上から降ってくる怒鳴り声がうっとうしくて振り返ると、案の定、スーツ姿の自称右腕が顔を真っ赤にしていきりたっている。

「なんでテメーが持ってんだよ!」

「もらったー」

「はああ!?」

「発信機つきとかおしゃれじゃーん」

触った瞬間に気づいていた、超小型発信機つきブレスレット。
デザインは最高にいいから、あとで本体を傷つけないように取り外すつもりだったけど。

「バッカおまえ、これはパーティの間だけでもって10代目を心配した9代目が・・・」

「お見通しだったみたいだけど。あ、あとこれね」

自分の失態だとばかりに顔を赤くしたり青くしたりしている右腕君の顔の前に、預かっていた手帳の切れ端を突き出すと、ひったくるようにして受け取って急いで紙を開いてる。横目で見ながらワインを一口。

「そ、そんな・・・お待ちください10代目!」

夜空に向かって一声吠えると、奴は飛ぶような勢いで走り出て行った。放り出された紙片を拾い上げて開くと、そこにはシンプルに並ぶ数行の文字。

『会いたくなったから日本に行ってくるね。心配いりません。獄寺君もたまにはゆっくり休んで。これは休暇命令です』

目をやると、ものの数十秒もたたないうちに、眼下の門を駆け出して運転手の胸倉をつかんで何事かをまくしたて、車に飛び乗る銀髪の後姿が見えた。つーか、速すぎだろ。

オレはグラスの底に残ったワインを一息に飲み干すと、澄んだ冬の星空に向かって特大のあくびを贈った。

THE END
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