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『シンフォニエッタ』(スクアーロ&スパナ小説)

「邪魔するぜぇ、っと」

おざなりな声掛けとともに金属製の扉を開錠したスクアーロは、一歩踏み出す間もなくいきなり何かに足を取られそうになって不覚にも一瞬身構えた。

眉間にしわを寄せながら視線を下ろしてみれば、黒いブーツの硬いつま先に当たっていたのは雑多な工具がめちゃくちゃに放り込まれた四角い箱。ドライバー、ペンチ、針金、その他スクアーロが名前を知らない不可思議な形のアイテムたち。みな一様に使い込まれた様子で先端をオイル色に光らせている。箱を持ち上げればきっとがちゃがちゃと騒々しい音を奏でるのだろう。

その邪魔な箱を足で乱暴に脇に押しやり(がちゃがちゃ)、部屋の中に踏み込む。中規模な会議室程度の広さの長方形の室内は、扉の真正面に置かれた障害物が悪意によるものではないと理解できるほどには、隅々まで、至極平等に、散らかっていた。

コンクリートの打ち放しになっている床の上には小さな部品が散らばり、なにか液体の入った大きなタンクがいくつも置かれ、作りつけらしい棚には意味の分からない番号や記号の書かれた箱や機材がぎっしりと押し込まれ、低い天井からは幾本ものコードが垂れ下がり、壁に向かって置かれた作業台の上には広げられた設計図らしきものやパソコンが無秩序に置かれ、といった具合で、大きなものから小さなものまで、デジタルなものからアナログなものまで、とにかく物が多かった。ガレージ、作業場、または工場といった言葉が似合う独特の空間。そして部屋に漂うシンナーにも似た鼻につく匂い。そこまで観察して、スクアーロは目的の人物が部屋の中にいないことに内心舌打ちする。

来ることを伝えていたわけではない。人遣いの荒いボスからの突発の仕事でボンゴレ本部に立ち寄ってみれば、更に突発でもうひとつ用事を押し付けられた。

「入江はいないのか?」

仕方なく、いくつかある作業台のひとつに向かって無心になにかに取り組んでいる背中に声を投げる。部屋に入ったときからずっといたのだが、扉の開けられる電子音にも、足音荒く入室してきた人間が箱に足をぶつけて蹴飛ばしても、まるで関心がないといった風情で顔を上げもしなかったのでスクアーロもいないものと見なしていたのだ。しかし部屋の中に入江正一の姿が見えないとなれば、聞いてみるしかない。

しかし、返されたのは相変わらずの、無言。

スクアーロは銀灰色の瞳を細めて、大またで作業台に近づく。口に煙草のようなものをくわえたその人物は、くすんだ青色のツナギの背中を丸めて足元の電源から太いコードでつながれた工具を手になにやら手元の作業に熱中していた。緑色の小さな基盤の上で火花が細かく散っているのが見える。

「おい」

腰を曲げて耳元で声をかけると、ようやく手を止めて工具を置き、身体を起こしてゴーグルを上げる。色つき眼鏡の下から現れたのは気だるげなグリーンの瞳。細い金色の髪がほつれて、ゴーグルのバンドにからまっている。

「え?」

眠たそうな目で寝ぼけた返答をされて、もともとが気の短いスクアーロは瞬間頭に血が上りかけたが、まったく知らない顔でもなかったので、喉元まで出かけた激昂を一呼吸して飲み下す。

「入江は?」

腕を組んで、もう一度同じ質問。もしかしてイタリア語がよく分からないのだろうかと思いかけたが、相手は相変わらず柳のような仕草で腰掛けている椅子を回した。ゆっくりと部屋の中を見渡したあと、彼は色素の薄い瞳でスクアーロの顔を見上げる。くわえ煙草のように見えていたのは実は飴の細い棒で、青年はその飴を口から取り出して慇懃にうなずいた。

「本当だ。正一がいない」

「さっきまでいたのか?」

「いや、」

首を振りながら壁の時計に目をやったあと、まるで猫のように中空を見上げながら指を折る。

「三時間前はいた。ウチはそのあと今まで作業してたから、わからないな」

(だめだこりゃあ)

お互いの行動を把握しあうような関係ではないのか、そもそもそういう習慣がないのか。スクアーロは間の悪さに軽い苛立ちを感じながらも思いついて口を開く。

「ヴァリアーのXANXUSの銃のメンテを入江に依頼してたんだが」

作業の続きにかかろうとしていたのか、すでに向けられていた背中がその言葉に反応した。丸めた肩越しに、碧緑の視線が投げられる。

「それなら知ってる」

椅子を軽く蹴って立ち上がり、青年は飴をまた口の中に戻すとエンジニアブーツの足先を部屋の反対側にある別の作業台に向けた。思いのほか上背はあるものの汚れたツナギの背中はひょろりとして細く、肉体派の多いヴァリアー隊員の体格を見慣れているスクアーロにはどこかアンバランスに感じられた。その彼はゆっくりと作業台に近づき、長い身体を折るようにしてしゃがみこむと足元に置かれていた箱を開ける。中から現れた黒く透かし彫りの入ったケースは、スクアーロもよく知るXANXUSの銃を入れているケースだった。青年はスクアーロに向かって確かめるように持ち上げてみせる。

「ああ、それだ」

うなずくと、彼は軍手に包まれた手で注意深くふたを開き、中を確認してまたパチンと重い音を立ててロックした。メンテナンスが終わっているなら受け取ろうと近づいたスクアーロに、しかし青年は首を振る。

「これは正一の仕事だ。正一がOK出さないと、勝手に渡すことはできない」

「もうできてんだろぉ?」

「わからない。言伝てがあるかもしれないから、正一が戻るのを待ってほしい」

穏やかな口調で、それでも譲る気のまったくない頑固さが感じられた。エンジニアの掟というやつなんだろうか。せっかちな性格から多少面倒だと思うものの、主君の命を預かる武器が良心に従って扱われていることを知るのは少し嬉しかった。

「入江が戻る時間は分からないのかぁ?」

「んー」

XANXUSの銃を収めたケースを台の上に置き、彼は指先だけが黒ずんだ軍手を外すと胸ポケットから取り出した薄い端末の画面をたたく。

「いまボンゴレと会議中。予定だとあと三十分」

「オレは入江のコードを知らねえ。終わったら一度ここに来るように伝えてくれるか」

「大丈夫。もう伝えた」

メッセージを飛ばしたのか、爪先で画面を弾いてまた端末をポケットに入れると、青年はスクアーロの方に向き直る。

「正一はメッセージは必ず見る。茶を入れるからここで待ってたらいい」

「これはなんだぁ?」

「フライス盤。金属を削る」

「これは?」

「ラチェットレンチ。ナットを締める」

作業台の椅子に横座りに腰掛けて足を組み、湯のみというらしい持ち手のないカップに入った茶をすすりながら目についた物たちについて適当に聞くと、青年は短い答えを、それでも丁寧に返してきた。日々使っている仕事道具なのだから詳しいのは当然としても、意外と人懐こいその人格にスクアーロは珍しく興味を覚える。

「頭がいいんだな」

スクアーロの座る椅子の足元の床にあぐらをかいて座っている青年は、スクアーロが何気なく漏らした言葉に小さく首をかしげた。短い襟足から覗く、首の特徴的な形のタトゥが目に入る。

「物の名前を、知ってるか知らないかだけだろう」

熱い茶を出し、たわいない会話につきあうことで同僚が来るまでの場つなぎをする気持ちはある様子だが、その間も傍らに小さなナット類が大量に入った箱を置いて中身を次から次へと取り出しては、ナットの先を細いヤスリで削ったり長い指先で金属粉を払ったりしている。ひとつヤスリをかけては照明にすかすようにしてにらみ、もうひとつの箱に放り込む作業の繰り返し。手慰みがクセなのかもしれない。

動きに無駄がないせいで落ち着きのない印象を与えることはないが、その碧緑の瞳がスクアーロに合わせられることはあまりなかった。大体が、指先でつまんだ小さな部品をどこかいとおしそうに眺めている。変わった男だ、とスクアーロは内心つぶやきながら熱い茶をまた一口すすった。香りが濃く、美味い。

「いや、こういうやつを作れるのがな。おまえも入江も」

机の上に転がっていた、手のひらサイズの丸いフォルムのロボットを摘み上げて、背中に突き出たゼンマイを巻く。机に戻してやると、ジイジイカタカタと頼りなげな音を立てながらもゆっくりと歩き出す様子が愛らしかった。顔を上げて机の上を進むおもちゃを見た青年は、薄い肩を軽くすくめる。

「正一は天才。科学も生物もなんでもいける。ウチは整備屋だ」

「オレにはおまえらどっちもすげぇと思うけどな」

剣の道に生きると決めてから、学業は早々に手放した。学校を卒業したかどうかも覚えていない。そう言うと、青年は部品を触る手を止めないままうなずいた。

「ウチも院は出てない」

「大学院、ってやつか?」

「そう。行ってたんだけど」

言いながら腕を伸ばして工具箱の中を手探りでかき回し、目当てらしい丈の短いペンチを手にしながら彼は言う。

「忘れられない日がある。大学の書庫で見つけた古い本。『死ぬ気の炎』。聞いたことないエネルギー。でも大学の誰も知らない。ネットにも情報がない。誰も研究してない。マフィアの秘伝らしい。すごく興味がわいた。だから院を辞めてジッリョネロに入った」

「そりゃあ・・・反対されたんじゃねぇのか」

スクアーロ自身は生まれも育ちもマフィアの一族なので、それ以外の道など考えたこともない。だがそれでも、普通の一般市民が就職先にマフィアを選んだときの周囲の反応が想像できないわけではなかった。案の定、青年は小さくうなずく。

「うんみんな怒った。家族も教授も友達も、頭がおかしくなったのかって。見損なったって」

顔を伏せて手の中の部品を見ている彼の表情はスクアーロのいる位置から読み取ることはできない。しかしすぐに頭を上げて、青年は唇の端を曲げて小さく微笑んだ。

「でもウチはしたいときにしたいことをする。それに、」

淡々と話していた声が不意に途切れる。

ゼンマイエネルギーが切れかけてゆっくりとその動きを止めようとしている机上のロボットを爪の先でつついていたスクアーロが向けた、訝しげな視線を避けるように彼はふと目線をそらす。

「いや。一番信じてほしかった人が信じてくれたからいいんだ。だからボンゴレも、正一も、あんたも、死ぬ気の炎を出せる人間はウチにとってはみんな特別。興味深い」

「・・・そうか」

ただ一人の主君に惚れこんで実直に仕えてきたスクアーロは、まるで共通する点などないと思っていたこの技術者に思いのほか共感する自分が意外だった。ただ華奢なばかりに見えていた手も、よく見れば暗殺部隊の面々ほどではないにしてもやはり細かな傷跡が刻まれていて、彼の仕事の年輪が感じられた。あからさまではなくても、信念のある人間ってのはいいもんだな、とふと思う。

「そういえば、さっきから気になってたんだが」

茶を入れ替えようとしたのか、脇卓の上の小さな湯沸かしポットに手を伸ばしていた青年は独白のようにつぶやかれた言葉に片眉を上げる。

「この機械、さっきからがしゃがしゃ動いてやがるけどよ・・・」

椅子から立ち上がり、作業台の数歩先で微かな蒸気を吹かしながら無数の歯車を休みなく動かしている不思議な機械を覗き込もうとしたスクアーロは、不意に強い力で肩をつかまれた。反射的に背後をにらみ返す。

「なんだぁ?」

「かみ」

「あ?」

「髪の毛」

言いながら、青年は躊躇なくスクアーロの広い背を覆う長い銀髪の一房に触れた。

「巻き込まれると危ない。見るなら結べ」

「・・・おお」

小さいながらも健気に動く機械は、歯車式という機構のせいかどこか懐かしい雰囲気で、幼い頃に少しだけ、しかしその期間はおそろしく夢中になったプラモデルを思い出すスクアーロである。すぐに剣を振る楽しさに目覚めてその手のおもちゃには興味をなくしてしまったが、やはり小さなメカは男心をそそられる存在。しかし、まさか機械に巻き取られて長年の誓いの証を切るわけにはいかない。

「なにかあるかぁ?」

自身の長い髪を片手で束ねてみせて、髪を留められるもの、とジェスチャーで示すと、青年は思案顔になる。

「テグスかワイヤーか、普通のゴム」

「テグス?」

「釣り糸のこと」

「・・・普通のにしろ」

つうか普通のがあるなら普通のでいいだろ、とスクアーロは内心ツッコミを入れる。常識はずれというほどでもないが、ボンゴレに関わり合う連中はやはりどこかズレている、とスクアーロは自分を棚に上げて思った。

「はい」

差し出された小さな箱には輪状のゴムがいくつか入っていて、本来髪を結ぶためのものではないのかもしれないが、スクアーロは構わず一番上の黒いひとつを手にとった。一度口にくわえ、両手で髪をまとめて高い位置で手早く結ぶ。長い髪を結わく機会は多く、もちろん手慣れている。立ったままその様子を興味深そうに眺めていた青年は、不意にひらめいたように口を開いた。

「・・・やってみたい」

見ると、ナットを見つめていたときよりももっと輝いた目でスクアーロの長い銀髪を見ている。上げられた瞳と目があった。

「やってみたい。もう一度結わいていい?」

「好きにすりゃあいいが・・・変な奴だなぁ」

スクアーロは苦笑しながら言って、腕を上げて結んだばかりのゴムを引き再び髪を下ろした。読めない男だ、と思う。他人との距離感を遠く持つタイプかと思っていたら、そうでもないようだ。スクアーロ自身は大してこだわらないが、他人の髪に迷いなく触れるというのはむしろ心理的な距離の近さを感じさせる。

まるで呼吸する生き物のように動く蒸気マシン、そのそばにしゃがみこんで観察するスクアーロの後ろで、手袋を外した彼は膝立ちの姿勢になって背中に散った銀髪を集め出した。伸ばし続けている髪、美容師に整えさせたのはもう二十年近くも前のことで、どちらかといえば靴職人に足を触らせて靴を作らせるときにも似た、手練れの職人に身体を触られる心地よさをスクアーロはふと感じた。

「おまえ、酒は飲めるか?」

「ん?」

歯車の嚙み合わせを覗き込みながら思いついて尋ねると、頭の上からのんびりした声が返ってくる。

「誘ったら来るかと聞いてるんだぁ」

なんの気無しにかけた言葉に、自分で補足。返事はなかったが、気にせず目の前の機械を観察するうちに目の前に二つ折りにされた紙が差し出された。紙をつまむ白い指。

「ウチのコード。メッセージくれたら返す」

「・・・おお」

背を向けていて表情が見えないのをいいことに、スクアーロは唇を曲げて少しだけ微笑みながら紙を受け取った。どうしても思い出せない彼の名前は、そのときまでに誰かに聞いておくか、と似合わない算段をしながら。

「ごめん遅くなった!ごめん!」

焦った声と共に電子扉を開錠してドックに走りこんできた正一は、思わず手の中の大事なパソコンを取り落としそうになった。

「おう、例のモノ引き取りに来たぜぇ」

待たせたせいで怒っているかも、と冷や汗をかきながら飛んできたが、当の人物は同僚が入れたのだろう茶を湯のみですすりながら床にあぐらをかいて座り、意外にも機嫌が良さそうだった。しかしそれにホッとするどころではなく。

「え、あの、どうしたんですか?」

「あぁ?どうもこうもてめえを待ってたんじゃねぇか。寝ぼけたこと言ってねぇで早くしろ、持っていっていいのかぁ?」

指差す先を見れば、メインで使っている作業台の上にXANXUSの銃の入った黒いケースが出されていた。正一は慌ててうなずく。

「ああ、うん、そう、そうだね。うん、大丈夫」

それだけ聞くと満足そうな顔をして、ヴァリアーの隊長は湯のみを置いて機敏に立ち上がると作業台に近づき、黒いケースを手に取った。振り返って、じゃあな、邪魔したな、と言ってさっさと部屋から出て行く。電子音と共にドアが閉じ長身の後姿が見えなくなった。

「・・・スパナ」

「なに?」

「来たときから、『ああ』だったの?」

「違う。ウチがやった。似合ってるだろ」

自分専用の湯のみを傾けながら事も無げに言う同僚に、正一は頭を抱えた。

「あ、隊長帰ってたんだあー・・・って」

どかどかと足音を立てながら忙しそうに廊下を歩いていくスクアーロと行き会ったのは、ベルとその腕の中に収まったマーモンの二人組。気楽に声を掛けかけたベルは、その姿を見て不覚にも絶句した。そうとは知らずに、おう、と簡単な返答だけして、黒いケースを手にしたスクアーロは早足ですれ違い角を曲がって二人の視界から消える。その後姿を呆然と見送って、ベルとマーモンは顔を見合わせた。

「・・・今日の隊長、攻めてんな」

ぽつりとつぶやくベル。

「・・・あれでボスに会うつもりなら相当の命知らずだね」

シニカルに鼻を鳴らすマーモン。

「僕、仕事のしすぎで壊れた、に1ユーロ」

「オレもそれに1ユーロ」

「それじゃ賭けにならないよ、ベル」

マーモンは呆れたように小さな肩をそびやかした。

「ボスさん、あんたのエモノ回収してきてやったぜぇ・・・ってふごおっ!」

荒いノックをして重い扉を押し開けたスクアーロは、顔を覗かせた瞬間に頭めがけて一直線に飛んできた陶器の花瓶に額を直撃された。派手な音と共に砕け散る花瓶の欠片と水、一瞬前まで執務室で春らしさを演出していただろうラナンキュラスの黄色い花を浴びながら、額を襲った痛みにたまらずその場にしゃがみこむ。

「ってえ・・・いきなりなにしやがる!」

この程度の攻撃では脳震盪を起こさないのは暗殺部隊幹部の誇りだが、やはり痛いものは痛い。額に手を当てて割れていないことだけ確かめると、スクアーロは顔を上げて主君をにらみ遠慮のない激昂をぶつけた。理由なき暴力はいつものことだが、それでも毎度きっちり抗議だけはするスクアーロである。しかし返されたのは氷よりもさらに冷ややかな紅いまなざし。

「気でも狂ったか。水かぶって出直して来いドカスが」

「はあ?」

水ならすでに全身したたかに浴びている。一抱えもある巨大な花瓶をぶつけられて、特に頭はシャワーを浴びたあとのようにびしょぬれだ。顔についた水滴を払うついでに、無意識に一本に結わいた銀髪に触れたスクアーロは指先に感じた違和感に眉をひそめる。

(ん?)

一本に結ばれて、ただするりと指が通るだけのはずの髪に、なにかが引っかかっている。

(んんん?)

まさか、とスクアーロはがばっと身を起こす。暖炉を覆うマントルピースに駆け寄り、その上に取り付けられた装飾用の豪華な鏡を覗き込んで己の姿を確認したスクアーロは思わず言葉を失った。

愕然と目を見開く顔さえ隠せば、黄色の花びらをはらはらといくつもまとわせて、長い銀髪をきっちり編みこみ可憐にまとめた少女と見えなくもない・・・かもしれない。いややはり無理があった。相当に、無理があった。

「なっ・・・んだこりゃああああ!!!」

ただでさえ大きな声がヴァリアーの屋敷中に響き渡る。「うるせえ」の一言と共に再度後頭部に分厚い本を投げつけられたスクアーロだったが、その痛みにうずくまる余裕もなく鏡に映る自分の髪型――三つ編みに真っ赤なリボン――にあごを落とすことしかできなかった。

(スパナ・・・さっきからコールが鳴り続けてるみたいだけど ・・・)

(ああ、さっき飲みに誘われてコード教えたから。気が早いな)

(いや、たぶんだけどさ、違うと思うよ)

THE END
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(おじいちゃんが信じてくれたから、踏み出せたんだ)

200万ヒット記念企画で黒猫シッポさまにリクエストいただいた「登場キャラ『スパナとスクアーロ、ヴァリアーの人々』で、『スクアーロの髪をいじってほしい』」でした(^^)

黒猫シッポさま、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!(深々)

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