« 『rainy day, sunny day』(ツナ小説) 前編 | トップページ | 素敵なツナを描いていただきましたー! »

『rainy day, sunny day』(ツナ小説) 中編

<<前編に戻る

(来ちゃった・・・イタリア・・・)

真新しいスーツケースを引きずってなかば呆然としながら到着ゲートに立ち尽くしていたツナは、出迎えの人々でにぎわうターミナルに見知った顔を見つけてホッと息をついた。数便の到着でごったがえす人波の中で伸ばした手を大きく振りながら懸命にジャンプする。

「ロマーリオさん!ここです!」

「お、いたなー」

長身をクールな黒スーツに包んだキャバッローネファミリーのNo.2は、ツナの姿を見止めて大またに近づいてきた。眼鏡の奥の瞳に浮かぶのは柔和な笑み。

「大きくなったか?背は伸びたか?」

「え、いや、何ヶ月かじゃそんなには」

大きな手で頭をたたかれ、苦笑しながらもあたりをきょろきょろと見回すツナを見て、洒落た口髭をたくわえた彼は壮快に笑った。

「悪いな、ボスは来てないんだ。なにぶん急な話だったから、仕事が抜けられなかった。夜には時間を作ると言っていたから待っていてくれ。代わりと言ってはなんだが」

「沢田殿!」

言いながら背後を振り返る大柄な背広姿の影から顔を覗かせたのは、一点の曇りもない笑顔の小柄な少年。ツナは思わず声を上げる。

「バジル君!」

マフィアを感じさせない爽やかさにおいてはディーノと双璧を成す安心株の登場に、ツナは今からでも日本に逃げ帰りたいほどに緊張していた気分が一気にほぐれるのを感じた。自分でも単純だと思うが、来て良かったかも、と思う。その素直な気持ちが表情に出たのか、淡い栗色の髪をさらりと流した同い年の少年も空を映す瞳に穏やかな微笑みをたたえてうなずく。

「ディーノ殿は多忙なので、拙者が当座の案内役を務めます。分からないことはなんでも聞いてください」

「本当に?ありがとう!」

心強い言葉に、ツナは正直涙が出るほど嬉しかった。巨大ファミリーの舵を握る立場にあるディーノが連日自分につきっきりでいてくれるとはツナも期待しておらず、つまりは初めての海外のほとんどの時間を誰の手助けもなく一人で過ごさなくてはならないのかと不安な気持ちを抱いていたのだ。イタリア出身の獄寺や旅行の経験がある山本は『あいつらがいるとおまえが頼りきりになっちまうだろーが』というリボーンの一言で誘うこともできなかったので、バジルの登場はツナにとってまさに地獄に仏だった。

「まあまあ、積もる話もあるだろうが」

数ヶ月ぶりの再会を喜ぶ二人を父親のような目で優しく見ていたロマーリオは、車のキーを鳴らして立てた親指で移動を促した。

「あまり長くいると嗅ぎ付けられるかもしれないからな」

「そうですね」

うなずきあう二人を見てきょとんとしているツナに、バジルは眉根を寄せて囁くように言う。

「沢田殿は、以前の継承式から一部では顔を知られる存在になりました。神経質になりすぎることはありませんが、注意してくださいね」

「え、注意って、他の・・・マフィアとかに?」

不穏な言葉に思わず声をひそめてしまう。まったく意識していなかったが、そう言われると周囲の人間がみなこちらを見ているような気がして背中に変な汗が伝った。

「それもありますし、情報屋やマスコミや政府筋の人間や、いろいろです」

「まあ、今のところおまえがイタリアに来てることはトップシークレット扱いだからな。目立つ真似しなきゃ大丈夫だろ」

あっさりと言って、じゃあ行くか、と先導していくロマーリオの背中を唖然として見ていたツナは、バジルに笑顔で促されて慌てて後を追った。

(オレ・・・やっぱりとんでもないとこ来ちゃったかも・・・)

なんだかいろいろなことが、自分の想定よりも一回りも二回りも大ごとになっていっている気がする。先生に進路票を出すだけで良かったのにどうしてこんなことに、と後戻りできない雰囲気に押されながら空港の駐車場に向かう道すがら、ツナはふと思い出してバジルに聞いた。

「そういえば、父さんは?」

「親方様は仕事です・・・と言ってはいましたが」

本当は会うのが照れくさいようです。よろしく伝えてくれとだけ言われました。どこか申し訳なさそうに言うバジルに、ツナは慌てて顔の前で手を振る。

「いいよいいよ、大丈夫だからさ」

離れて暮らした時間が長すぎたせいか改まって顔を合わせるのが照れくさいのはツナも同じだったので、不器用な親子の間に立たされたバジルにこれ以上気を遣わせたくなかった。結局こういうところは似てるんだろうかと思うと情けないような可笑しいような恥ずかしいような複雑な気分になる。

亭主元気で留守がいい、というワードがなぜか頭をよぎった。親父元気で留守がいい。

「バジル君てさ、学校行ってないの?」

ロマーリオの運転する車の後部座席にバジルと並んで座りながら、ツナは気になっていたことを聞いた。イタリアに来ることになったそもそものきっかけである”進路”のことが頭に残っていたためかもしれない。

「拙者ですか?」

問われたバジルは首をかしげる。

「空いた時間に勉強はしていますが、学校には行っていません。仕事があるので」

「そっか、そうだよね」

(でもバジル君、絶対オレより頭いい・・・)

結局オレはどうすればいいのかなあ、と頭を悩ませながらため息をついて、ツナは後頭部をシートに沈ませた。あくびが出る。

「沢田殿、眠いですか?」

「うん・・・なんかぼーっとする。まぶしい」

「時差ボケだろ。今日はホテルでごろごろしてな」

ハンドルを握るロマーリオの言葉通り、ホテルに送り届けられたツナはその豪華さに圧倒されながらも、シャワーを浴びる気にもならないままベッドに沈み込み数秒後には泥のような眠りについていた。

(Perché?Si prega di spiegare・・・sì, sì・・・)

(・・・?)

浮上しかけの意識の中に人の声が滑り込んでくる。無意識にその意味を捉えようとするものの、それが叶わず抜け落ちてしまうのは話されている言葉が日本語ではないからだということに気づくまでに数秒のタイムラグがあった。

徐々に覚醒する意識。ず自分のベッドとは違うのりの利いたシーツの質感に戸惑った。ここはどこ、というフレーズが頭の中を一周したところでがばっと身を起こす。

寝ている間にすっかり暗くなった部屋の中、足元を照らすランプの淡い明かりを頼りにベッドサイドで小さな振り子を揺らしている置き時計を見ると、夜の十時を回ったところだった。少しだけ頭が痛んだものの強烈な眠気は治まっている。次いで耳に入るのは壁越しに聞こえる微かなドアベルの音。椅子の足が床を擦る音。人の気配と生活音。継ぎ目なく話されている異国の言葉。

(そうだイタリアに来てるんだった!あとあの声、

横に三回転しても足も落ちないほどに広いベッドを降りて靴を履き、寝室のドアをそっと押し開けると、果たして鮮やかな金髪の後姿があった。寝室と間続きの広いリビングルーム、デコラティブな暖炉のそばにセットされたソファに腰掛けて携帯電話を片手に外国語を話しながら、テーブルに置いた二台のパソコンを開いて忙しくキーを叩いている。しわひとつないシャツの背中。自分と話すときはいつも流暢な日本語を使う彼が、同じ声で外国語、おそらくイタリア語を話している姿を見るのは不思議な感覚だった。

寝室のドアの前で突っ立っているツナの気配に気づいたのか、肩越しに振り返った兄弟子は相変わらず口と指は休みなく動かしながらも見慣れた人懐こい笑顔を見せる。

「よっ」

早口で電話を切ったディーノは、パソコンのふたを閉めて立ち上がるとツナの方に近づいてきた。ロマーリオの言っていたとおり今日は仕事だったのだろう、シックなスーツに身を包んでいた。白シャツにえんじの柄ネクタイ、小さなタイピン。こげ茶色のジャケットが机の上に無造作に放り出されている。

「リボーンに言われて半信半疑だったが、本当に来たんだなー」

「はい、来ちゃいました・・・」

長身を少しかがめるようにしながらツナの顔を覗きこむディーノは、悪戯っぽい表情で歯を見せて笑った。仕事人らしい服装をしていても、そのいつもの表情にツナはまた少し安心する。香水だろうか、すっきりとした優しい香りが鼻をくすぐった。

「あの、バジル君は?」

「バジルは隣の部屋で休んでる。今回あいつはおまえのボディガードも兼ねてるが、オレがいる間は安心だからな」

「ボディガード・・・」

当たり前のように口にされる非現実的なワード。自分ごときにぼでぃがーど、と呆けた頭で思うものの、空港で聞いた話、そしてボンゴレファミリーがイタリア最大規模のマフィアで、認めたくはないが自身がそこの後継者に目されていることを考えればおかしくもないのかもしれない。いまだに自分ごととは思えないが、しかし今はリボーンもいないし、死ぬ気丸を飲んでいない自分はなんの防衛手段も持たないただの人なので、単純に心強いとも思った。

ただもし、もし本当にボスになったりしたら。この数日間だけでなく一生そういう危険と隣り合わせで生きていかなければならないのかと思うとまた気が滅入る。そしてすでにそういう生活をしている目の前のディーノについては、もうあらゆる意味ですごいとしか言いようがない。気さくに接してくれる兄弟子に憧れは抱いていても、やはり立場的には遠い人なんだよなあ、とツナは思った。

「ま、座れよ。なにか飲むか?コーヒーでいいか?」

「あ、はい、なんでも」

部屋の端の文机に座って仕事をしていた部下に二人分のコーヒーを依頼して、ディーノは閉じた端末や机の上に広がっていた書類を片付け始める。その背中を見ながら仕事はいいのかな、と頭の隅で気になったものの、自分がそんな心配をするのもおこがましい気がしたので、結局ツナは何も言わずにディーノの向かいのソファにそっと腰掛けた。

(それにしてもすごい部屋・・・)

あらためて見回してみても豪奢な部屋だった。来日した9代目を訪ねたときに見たスイートルームを思い出すが、街の規模自体が大きいためかあのときの部屋よりもさらに広い。このソファセットの置かれたリビングだけでも自宅がすっぽり入るのではないかと思えるほどで、また天井まで届く大きな窓からは街の夜景を遥かに見下ろすことができた。このメインルームに加えて先ほどまでいた寝室、さらに出入り口のほかにもドアがあるので、まだ別室がいくつもあるらしい。なんだろう、お風呂とかかなあ、とツナは回らない頭で考えた。

ただ立っているだけでも青年実業家といった風格を漂わせるディーノはともかく、自分のようなトレーナーにジーンズ姿のいち中学生が占拠できる部屋ではないことは一目瞭然だった。思わず目線を落とすと今まで気にも留めなかったスニーカーの汚れがいやに目に入って、なんとなくつま先をこすり合わせる。「場違い」という単語が脳内を駆け巡った。

舞い上がるどころか落ち着かなさすぎて、結局は自室のベッドよりも巨大なソファの端にちんまりと座って高い天井から吊るされたシャンデリアをぼんやり見上げることしかできない。無数のガラスに反射してきらめく豪華な灯り。ここはどこ、とまた思う。

「迎えに行けなくて悪かったな」

テーブルをはさんだ向かいのソファに腰掛けたディーノは、部下の男性が置いていったコーヒーに口をつけながら開口一番そう言った。ツナは慌てて首を振る。

「全然・・・またリボーンが変なこと言い出しちゃって。すみません」

「ま、リボーンだからな」

「ですよね」

因果な家庭教師の弟子二人は、そう言い合ったところで顔を見合わせ、吹き出すように笑った。リボーンだから。リボーンだから仕方がない。この共通項を持てるだけでなんだか連帯感が沸いてくるのが不思議だ。ひとしきり笑いあったところで、ディーノは少し真剣な顔になる。

「そのリボーンだが、オレはこう言われてる。『ツナにマフィアの仕事を見せてやれ』」

「う、あ、はい・・・」

本題に切り込まれて、ツナはごくりと唾を飲む。

「確認するが、今のところ、おまえは積極的にボスになりたいとは思ってないんだよな?」

「積極的にっていうか、その、なりたくない、です・・・」

本職のボスを前に言いづらさを感じながらも、ツナは正直に言った。そうか、とうなずきながらディーノは身を後ろに倒して背中をソファに沈ませ、思案顔で腕を組む。

「オレはおまえはボスに向いてると思うし、将来おまえと仕事ができたらいいと思う」

「え」

遠い存在、と先ほど自分の中で再認識したばかりだったので、そのディーノから向けられた思いがけないセリフにツナは言葉を返せなかった。

「率直に言えば、おまえ以外の奴がボンゴレを率いるところは見たくない。これは単なるオレのわがままだが」

「・・・そう言ってもらえるのは嬉しいです。けど」

いくら初代に遠い血縁があるとはいっても、自分に素質があるとは思えない。やりきる自信はもっとない。そう言うと、ディーノは足を組み替えて首をかしげた。

「十年後のおまえはよくやってたみたいだぜ?白蘭が現れる前は万事順調だったし、十年前のおまえたちを引っ張り出すことで結果的に世界を救ったんだ」

「・・・でも」

口ごもりながらうつむくツナを見て、ディーノはふっと表情を緩めた。

「いや悪い、そう困った顔するなよ。リボーンと二人がかりでおまえを説得しようってわけじゃねーんだ。リボーンもオレも、おまえに勝手なことばかり言ってると思うよ。だからおまえもおまえの勝手を通していいんだぜ」

「・・・ディーノさん」

「ん?」

「もしオレがボンゴレを継がなかったら、ディーノさんは、もう、オレと、」

ツナが次の句を継ごうとした瞬間、隣の部屋で巨大な爆発音が響いた。

To Be Continued...
************************************************************

<<前編に戻る
後編に進む>>

(★5/21追記:素敵な挿絵をいただきました!(こちらです♪ )★)

●小説部屋の目次へ

|

« 『rainy day, sunny day』(ツナ小説) 前編 | トップページ | 素敵なツナを描いていただきましたー! »

●03-2.小説部屋」カテゴリの記事