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『ベイビー・アフェア』 (ヴァリアー小説)

「だからてめぇの言い分がおかしいだろ明らかに!」

任務に関する一枚の書類を巡って、もう十数分にわたりXANXUSと泥沼の舌戦を繰り広げていたスクアーロは、執務机をはさんで向き合っていた主君が手にしていたコーヒーカップをソーサーに叩きつけ、ついで豪奢な椅子を蹴り倒すようにして立ち上がるのを見て反射的に身構えた。

「そんなに気にいらねえなら今すぐかっ消えろカスが」

「待て!城の中で物騒なもん出してんじゃねえ!」

額に青筋を浮かせながら右手にまばゆい光球を輝かせるXANXUSに、スクアーロは目を剥いて怒鳴る。

「るせえ」

「待てって!」

制止の声を上げながらとっさに顔を腕でかばい、炸裂する光と共に爆風を浴びる覚悟でいたスクアーロ。しかし予想していた衝撃がいつまで経っても来ないのでそっと腕の隙間から顔を覗かせて正面のデスクを窺い、そこに立つべき暴君の姿が跡形もなく消え去っていることに気づいて腕を解いた。

「ボスさん?XANXUS?」

「・・・なんだ、これは」

声だけが返る。姿は見えない。

軽く警戒しながらマホガニーのデスクに近づいたスクアーロは、足元に生き物の気配を感じて目線を下ろす。そこに小型犬か猫でもいればしっくりきたかもしれない、しかしそこにいたのは。

「・・・XANXUS、か?」

「てめえがでかくなった、わけじゃなさそうだな」

サイズでいえば、マーモンを筆頭とするアルコバレーノ、もしくは沢田のところに居ついている牛柄服の小僧。隊内屈指の長身をそれだけの背丈に縮めてしまった上司が、まさに苦虫を噛み潰したような顔で呆気に取られるスクアーロの顔を見上げていた。

艶のある短い黒髪も、張りのある低い声も、見慣れたそして聞き慣れた主君のものにほかならない。なのに、削ぎ落とされたように精悍だったあごのラインはふっくらとこぼれそうな頬の輪郭に取って代わられ、顔を薄く覆っていた傷跡も消えてただ赤みの差した肌の血色のよさが目立ち、袖から伸ばされた手のひらはまるでふくらみのあるもみじのように小さく、全体的にやわらかくどこか頼りなげな幼い子どもに姿を変えていた・・・髪、声、そしてその怒りに満ちた紅玉の瞳を除けば。

「どういうことだてめえ」

「オレが知るわけねえだろ!どういうことだいったい!」

原因が分からないまま突如子どもになってしまったXANXUSとテーブルを挟んで向かいのソファに座ったスクアーロは、目の前の人物が確かに主君その人であることを確認したもののそれでなにかが解決するはずもなく、ただ混乱する頭を抱えていた。

対するXANXUSはあからさまな動揺こそ見せないが、姿見で己の姿を確認してからというもの、もともと沸点の低い怒りがそろそろ限界に達そうとしているようだった。例えるなら煮えたぎるマグマを抱えた爆発寸前の火山のようなもの。しかも怒りのやり場がないせいで事態はまるで不発弾のような一触即発状態に陥っていた。

「夢、じゃねえんだよな・・・?」

「もしこれがてめえの夢なら」

今すぐてめえをぶっ殺して終わらせてやる、と本気とも嘘ともつかない言葉を吐き捨てるXANXUS、しかし悲しいことにその外見のせいで怒りの迫力も半減している。

「とりあえずあれだ、今日の仕事だが」

いろいろな判断をとりあえず棚上げにして、スクアーロは現実的な話をしようと口を開く。直前までしていた言い争いについては一時休戦、というかこの状態を考えればもう流してしまっていいと思えた。

「客は全部キャンセルする。元々めんどくせえと思ってたしな」

「ほかには」

「ねえ」

厳密に言えば、仕事が「無い」ことはありえない。ただ、彼自身の裁量で遅らせられない仕事もまた無いという意味だ。まだ猶予はある。ナントカバズーカのように頭まで幼児と入れ替わってしまわなくて良かった、不幸中の幸いとはこのことだとスクアーロは思った。

「隊員連中に見せるわけにはいかねえとして、あいつらにどうするかだなあ」

自分以外の幹部の濃いキャラクターを脳裏に浮かべてため息をつき、天井を仰ぐスクアーロ。顔を見なければまったく普段と変わらない調子のXANXUSの声が耳に届く。

「言えるか」

「だよなあ」

しかし精神は大人と変わらないとはいえ、命を狙われることも日常茶飯事なこの商売。非力な姿でなにか事件にでも巻き込まれたらと思うと一人にしておくこともできない。本来の彼にはまったく必要のないガード役もつけた方がいいだろう。XANXUSのプライドを尊重して真実は伝えないにしても、他の幹部に協力を求める必要はやはりありそうだった。

「あんたは気に入らねえかもしれないけどよ、」

小細工系に頭を使うのは性分的にも得意ではなかったが、もはや半分ふてくされている主君のために仕方なくひねり出したアイデアを、スクアーロはXANXUSに聞かせた。

「まあ、見てのとおりなわけだが」

見下ろされるよりはマシ、という後ろ向きな理由でしぶしぶスクアーロの左肩に乗ったXANXUS、その幼児らしからぬ眉間に深いしわを寄せた顔を逆の手のひらで示すスクアーロは、百聞は一見にしかず、見れば察するだろうと談話室に招集した幹部勢に言い放った。しかし居並ぶ四人の反応は、一様の無言、そして深いため息というもので。

「・・・いつかやるとは思ってたけどさあ」

「や、やはりそういうことか!貴様いつの間に!」

「慰謝料にしろ養育費にしろこれから大変だね。ご愁傷様」

「スク、正直に言いなさい!どこのお嬢さんを孕ませたの!認知はしたんでしょうね!」

「う゛おおおい!てめえらそこに並べ!一列に並べ!まとめて叩き切ってやる!」

まさかの勘違いに頭から湯気の立つ勢いで怒鳴り散らすとスクアーロはばしんと机を叩いて大声を出す。

「見りゃ分かんだろぉ!この黒髪!赤目!ふてぶてしい面構え!こいつはボスさんの、し、親戚の子どもだあ!訳あってうちで預かることになったがボスさんは今日から出張だ、てめえらもオレがいないときはしっかり世話しろ!」

「えーやだ。オレパス。ガキ嫌いだし」

渾身の作り話を披露するスクアーロにあっさりと言って、さっさと部屋から出ていこうとするのはボーダーの腕にマーモンを抱いたベル。ガキはてめえだ協調性なさすぎだろ、と内心で罵声を飛ばしながらも、スクアーロは皮肉な笑みを浮かべながら言う。

「ああいいぜ。こいつになにかあったらボスに真っ先にかっ消されるのはおまえで決まりだな」

普段は使うことのない威を借るような言葉、そのいわば切り札を臆面もなく使ってしまう程度にはスクアーロもこの状況に疲れていた。しかしさすがにその効果はてきめんで、ベルは華奢な肩をぴくりと震わせて肩越しに振り返る。

「え、マジで?そのガキとボス、そーいう感じなの?」

そーいう感じ、というのは、XANXUSにとってその子そんなに大事なの、という問いかけ。嘘の上塗りってのはこういうことを言うんだろうなあ、とどこか遠い目をしながらスクアーロは黙って頷く。

「こう見えて風呂もメシ食うのも自分でできる。おまえらは適当に遊んでやればいい」

「アタシはいいわよお。だってこの子よく見たらやっぱりボスに似てるじゃない!チビちゃんかわいいわあ!」

ねえねえ抱っこさせて、と両手を伸ばして近づいてくるルッスーリアに、肩の上のXANXUSは思い切り怒声を浴びせようとしてすんでのところで思いとどまったようだった。声を出したら一発でバレるからしゃべるな、というスクアーロの言葉を守って、代わりに、小さな手でスクアーロのうなじ近くの銀髪を一房つかみ全体重をかけて引っ張る。

「いっでええええ!」

根元から抜かれそうな勢いに思わず叫ぶスクアーロの声の大きさに、にじり寄っていたルッスーリアも思わず手を引いて耳をふさいだ。

「もうなによ、うるさいわねえ!チビちゃんがびっくりしちゃうじゃない!・・・って、そういえば、ボク、お名前は?」

いつまでもチビちゃん呼びじゃ悪いわよね、と気を回したらしいルッスーリアが小首をかしげながらXANXUSの顔を覗きこむ。しまった考えてねえ、と冷や汗をかくスクアーロの耳元に素早く口を寄せてXANXUSが何事かをささやく、その言葉をスクアーロはそのまま口に出した。

「スーナ。そう、スーナだ」

「あらあら、かわいいお名前」

ちょっと女の子みたいだけどベルちゃんだってそうだものね、と微笑むルッスーリア。後ろに立つベルも肩をすくめて頷く。

「まーいいや、特別サービスで王子が遊んでやるよ。ほら来いよスーナ」

他の幹部に身辺を任せておく間に、スクアーロが元の姿に戻る方法を探してくる手はずになっている。そっと目配せしあうと、XANXUSはスクアーロの肩から機敏に飛び降りて大人しくベルの元に歩いていく。その小さな背中を見ながら息をついたところで、ベルの腕から逃れたマーモンがファンタズマと共にふよふよと宙を飛んでスクアーロに近づいてきた。

「隊長、話があるんだけど」

スーナ、もといXANXUSを囲んで、スクアーロが腹心に用意させた積み木を出し始めたベル。その手元を覗き込むルッスーリアとレヴィを尻目に、マーモンは廊下に続くドアを指差した。

「ボスの親戚の子って、ウソだろ」

マーモンに促されて廊下に出たスクアーロは、いきなり核心を突かれて思わず言葉につまった。もともと嘘をつくのは得意な方ではない、むしろかなり苦手な方だ。

「う・・・」

「やっぱりね。あんな見え透いたウソで騙されるのはあいつらくらいさ」

シニカルに肩をすくめて、マーモンは背後のドアを顧みる。確かに、いざ戦闘ともなれば無駄に頭の回る連中だが、抜けているところは底抜けに抜け切っているといえる。まあなあ、と浅いため息をついてスクアーロはマーモンの顔を見る。

「おまえは騙せねえなあ」

「当たり前だよ。で、相手の女は誰だい?」

「は?」

この際うちあけるか、と口を開きかけたスクアーロは、ここでまた微妙にズレた質問をされてあごを落とした。

「ボスの親戚の子じゃなくてボスの子なんだろ?」

「ちっげえええええ!!!」

マーモンの言葉に、スクアーロはがくりと頭を垂れる。しかし考えてみれば道理ともいえる結論かもしれない。突っ込まれた以上は味方につけてしまえと、スクアーロは神妙な顔をする。なんだか途方もなく疲れた。

「わかった、おまえには話す。正直手に負えねえから知恵を貸してくれ」

「なるほどね」

腕を組んで話を聞いたマーモンは、小さな口をとがらせながら頷き思案顔になる。そう長い話ではない、ボスが急に子どもになった、原因も戻る方法も分からない、とただそれだけだ。

「ボスはなにか飲んだり食べたりしてなかったかい?」

「昼飯のあとはコーヒーくらいだったと思うが・・・コーヒーならチビになる直前まで飲んでたな」

「それが怪しいね。いつもと違うことは?」

「分からねえ、厨房に聞いてみるか」

頷きあった二人は、連れ立って階下の厨房に向かう。夕食の仕込をしていたところを脅迫まじりに引っ張り出された料理長の証言をまとめると、XANXUSの口に運ばれたコーヒーは今朝早くに届いた荷物に入っていた新しい豆で淹れたもので、当然、規則に従って毒見されていた。そして今のところ身体に異常のあった者はいないという。

「毒見してんのか」

ならどうしてボスさんだけ、と首をひねるスクアーロの肩の上で、マーモンは料理長に尋ねる。

「誰からの届け物だい?差出人不明の荷物に入ってたものは使わないだろ?」

幹部二人に問い詰められて顔を青くしながら、気の毒な料理長は弁明するように言う。

「アルコバレーノの方からでしたので・・・問題ないかと」

「アルコバレーノ?」

「ヴェルデ様です」

問題大ありだよ、とつぶやいてマーモンは呆れたようなため息をついた。

裏社会に轟くアルコバレーノの名声、それ自体はマフィアに関わる者ならば一国を裏で牛耳るレベルの大ボスから下働きの少年に至るまで広く知られている。しかし個々人がどんなに厄介な変人かというところまではいち料理人が知る由もない。毒見の結果に異常がなかったことも手伝って信用してしまったのだろう。

「もしもしヴェルデかい?僕だよ」

執務室に戻り、カップの底に残されたコーヒーを検分、といっても見ているだけのスクアーロの肩の上でマーモンは携帯電話を握ってくだんの相手と話している。

「コーヒー豆を、ああ、そうだよ」

あの緑髪に白衣の野郎か、とスクアーロは接点の薄いアルコバレーノの斜に構えた姿を思い出す。食えないオーラを出してはいたが、敵対する仲ではなかったはずだが。

「ふぅん・・・なるほどね。ああ、隊長ちょっと」

「なんだぁ?」

「そのコーヒー、飲んでみて」

「な、何言ってんだ!小さくなるのはごめんだぜぇ!」

「たぶん大丈夫だよ。いいからちょっと」

「・・・責任取れよ」

半ばやけくそになりながら、スクアーロは手にしていたコーヒーカップに唇をつけると、目を閉じて中身を一息に飲み干した。すっかり冷めて無駄に苦味を増してしまったような濃い液体が喉を滑り落ちる。内心警戒しながら、今まさに縮みだすかもしれない自分の手を見つめてみるが、しかし何も起こらなかった。

「大丈夫みたいだね」

その様子をフードに隠された瞳で見ていたマーモンは、確認するように頷いてみせた。また電話に口を寄せて話し始める。

「うちの隊長は大丈夫。そう、雨属性。ボスは大空と嵐の属性だよ」

そのあともひとしきり何事かを話したあと、じゃあね、と言って通話ボタンをオフにしたマーモンは、スクアーロに言う。

「分かったよ」

「本当か!?」

「簡単に言うと、ヴェルデはいま植物に属性を持たせる研究をしてるらしいんだ」

「植物に属性?」

「そう。一番うまくいってるのがコーヒーの栽培で、究極的にはその属性のコーヒーを飲むことで属性を強化できるっていうことらしいんだけど、どうも副作用があったみたいだね」

「副作用、が、アレか?」

小さくなってしまったXANXUSのことを暗に示しながら言うと、マーモンは頷く。

「ボスが飲んだのはおそらく鎮静の働きをする『雨』のコーヒーだ。属性外のコーヒーを飲んでもなにも起こらないはずが、ボスはもともとレアな大空と、しかも嵐属性とのダブル持ちっていう激レア体質だから予想外の反応が出たんだ。要するにヴェルデのテスト不足だね」

ヴェルデのことだから、むしろこれがテストのつもりだったんだろうけどね、などと不穏な言葉を吐くマーモン。傍若無人なアルコバレーノの所業にすっかり巻き込まれたスクアーロは、滅多に感じたことのない頭痛までしてくる始末だった。

「・・・で、どうしたら治るんだ」

属性持ちの植物だの副作用だのといったややこしい話はどうでもいいと割り切って、スクアーロは直球の質問をする。結局いつ、どうしたら大人の姿に戻れるのか。

「とりあえずヴェルデが大空のコーヒーを持って明日こっちに来るってさ。たぶん中和できるだろうって。データも取りたいとかほざいてたけどボスに消される前に退散するべきだって忠告しておいたよ」

「明日だな」

ようやく見えた光明。スクアーロはやれやれと息をついた。

マーモンを肩に乗せたまま、どうなっていることやら、と談話室の扉を開けるとそこには意外にもなごやかな光景が広がっていた。気配に気づいて振り向いたベルが嬉しそうな声をあげる。

「マーモンどこ行ってたんだよ!ほら見て、スーナすげえんだぜ!」

なぜか自慢げに言うベルの前にあるのは、積み木でできた城らしきもの。よしよしよくできたわね、とXANXUSの頭を撫でるルッスーリアに瞬間戦慄したスクアーロとマーモンだったが、XANXUSは無表情のまま手を伸ばして積み木をつかむとまたひとつ重ねた。それを見て感極まったように拍手するレヴィの目にはなぜか涙が浮かんでいる。

「ガキ嫌いじゃなかったのか」

中身は大人なのだから積み木くらいできて当然なのだが、そうとは知らずにはしゃぐベルに苦笑いしながらスクアーロは言う。

「ガキは嫌いだけどスーナ賢いし、それにボスの家族だしー」

「ベルはそればかり言ってるな」

大きな背中を丸めて座り、色とりどりのブロックでロボットらしきものを作ろうと奮闘しているレヴィが鼻をすすりながら言うと、隣のルッスーリアがサングラスの奥の瞳を細めて笑う。

「それはそうよねえ、ボスの血を分けてるならかわいいわよ。ベルちゃんボス大好きですものね」

「当たり前じゃん」

「オ、オレも好きだ!」

「うっぜ。まじうっぜ」

XANXUS本人を目の前にしているとは夢にも思っていない三人の幹部は、どこか無邪気にはしゃぎながら和気藹々と積み木の街を作っている。その中心に座るXANXUSは、やはり一言も言葉を発さずに黙々と積み木に手をつけていて、その様子を眺めるスクアーロとマーモンは思わず顔を見合わせ、笑いをこらえながら肩をすくめあった。

「じゃあ、そろそろ部屋戻るか、ス、スーナ」

気を抜くと吹き出しそうになるのをかろうじて我慢しながら声をかけたスクアーロに、ベルは不満げな声をあげる。

「えーなんで!もっと遊ぶ!」

ベルは言いながら素早く腕を伸ばすと、マーモンにするようにXANXUSを両腕に抱き込んだ。両の瞳は相変わらず切りそろえられた前髪に隠されているが、それでも全身から発せられる離さないぞ、という意志。しかしボーダーの胸にむりやり収められたXANXUSの額に瞬間青筋が立つのを見て、スクアーロは待て待て、と思わず両手を挙げてXANXUSにアイコンタクトを送った。だがそれを見たベルは自分に対して牽制されたものと受け取って、リスのように頬をふくらませる。

「まだいいじゃん。スーナに庭のバラ園見せてやんだ」

「スーナは明日には家に帰るんだ。休ませてやらねえと」

「やだ!」

「やだじゃねえ!ワガママ言うな!」

XANXUSを腕に抱いたベルとマーモンを肩に乗せたスクアーロの言い争いが勃発しようとしたまさにそのとき、パンパンと手を叩いて間に割って入ったのはルッスーリア。

「二人ともケンカしないの。こうしたらどう、スーナちゃんは今夜ベルちゃんの部屋にお泊りする。で、明日帰る」

「スーナ、どうするんだ」

大柄な身体を屈ませたレヴィに表情を伺われたXANXUSは、顔をしかめながら首を曲げてスクアーロを見る。急いで近づき小さな口に顔を寄せたスクアーロは、XANXUSに耳打ちされた返答に思わず驚き、そして笑った。

「あ、いたボスいた!おかえりー!」

執務室の扉から揺れる金髪を覗かせて、ベルが嬉しそうな声を出す。正面に据えられたマホガニーのデスクに王者然として座っていたXANXUSは、その声に伏せていた瞳をちらりと上げた。脇に立っていたスクアーロも、書類を手にしたまま目線を投げる。

「これさあ、今度スーナに会ったらさあ、あげてほしいんだけど!」

XANXUSの元に一直線に走ってきたベルは、デスクの上に広げた右手をたたきつけた。デスクにぶつかる軽い金属音、どけられた白い手のひらの下から姿を見せたのは小さなティアラ。

「この前さあ、スーナがオレの部屋にお泊りしたときね!スーナ、オレの王冠じーって見てたから!ほしかったんじゃないかと思うんだよね!これオレがチビのときにつけてたのだからあげるって!」

ほしいのって聞いたら首振ってたけど、そういうの見逃す王子じゃないからさ、と得意気に言うベル。目の前に置かれた小さなティアラをじっと見るXANXUS。

「・・・派手だと思って見ていただけだ」

「え、ボス何か言ったー?」

「言ってねえ!言ってねえよなあボス!じゃあ今度会ったら渡しておこうな!」

スーナは親と一緒に世界中を旅してるからなあ、オレらじゃなかなか捕まえられねえしなあ、という、先日追加した設定を早口でもう一度言いながら、スクアーロはベルに用が済んだならさっさと出ていけとあごで促す。

「隊長うっさいなー。じゃーねボス、スーナにまた来いよって言っといてよね!」

「・・・二度とあってたまるか」

「えー?ボスなにー?」

「おらもういいだろ!大事な話してんだから出てけ!」

激昂するスクアーロ、楽しそうに舌を出すベル、騒がしい二人を眺めながらひとつあくびをして、XANXUSはデスクの引き出しを開けるとベルが置いたティアラを慇懃にしまった。

THE END
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「XANXUS」の逆さ読みで「SUXNAX」=「スーナ」です。

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200万ヒット記念企画で、くまこさまにリクエストいただいた「スクアーロ中心でヴァリアー」でした。
ドシリアスかギャグか悩んだ結果こんな感じになりました、家族なヴァリアーが大好きです。

くまこさま、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!(深々)

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