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『夏色ノスタルジャ』(ディーノ&スクアーロ小説) 前編

会話が途切れた隙をみてさりげなく人の輪を離れたディーノは、影のように付き添う部下が押し開けた広間の厚い扉を通り絨毯敷きの廊下に出た。無難な管弦楽と人々のさざめきあいとが混ざり合うノイジーな空間、それらすべてが扉が閉まると同時にまるで波が引くように後方に遠ざかり消えていく。

やれやれと息をついてスーツの肩を回し、手首に重くなじむ腕時計の文字盤を確かめると午後十時を過ぎたところだった。乾杯からすでに二時間ほどが経過している。予定より少し早いが、パーティの招待主への義理立ても済んだことだしこのまま帰って寝るか、とあくびをしながらジャケットの内ポケットから携帯電話を探り出そうとしたところで、長い廊下の奥からゆっくりと近づいてくる人影に気づいて目線を上げた。

廊下の片側は全面が広いガラス張りになっていて、大粒の雨が横殴りの風とともに荒れ狂うシャワーのように激しく打ち付けている。その荒天の屋外からガラス一枚を隔てた静寂の中に一人たたずむ研ぎ澄まされた姿。モダンブラックのスーツに長身を包み、ネクタイとカフスはその身にまとわせる長い髪にも似た質のいい銀色でそろえられている。

「よお」

よく知るその顔に気安い声をかけてみると、相手は相変わらずの鋭い目線を投げ返してきた。ボンゴレ9代目直属の暗殺部隊のナンバー2と、同盟ファミリー3位のキャバッローネの長では立場的な優劣はほとんどなく、それ以前に旧知の仲でもあるため基本的には対等な関係だ。あえて口に出すことはないが、上下の義理を極端に重んじるマフィア界においては「対等」の二文字は貴重だとディーノは考えている。もちろん、目の前の彼がどう思っているかまでは分からないけれど。

「来てたんだな。もう帰るのか?」

「いや、」

大儀そうな物言いで、スクアーロはディーノの顔をにらむように見る。ディーノ同様、その色白の顔にアルコールの余韻はほとんどない。

「てめえを待ってた」

「へえ」

珍しい言葉にディーノは片眉を上げた。しかし心当たりはあったので促されるままに脇のドアノブをつかみ扉を開く。明かりのついていない部屋の中は暗かったが、スクアーロが電気のスイッチを押すとソファとテーブルの備えられた小さな応接室といった風情の部屋が現れた。ディーノは、付き従う部下に扉の前で待つようにと軽い微笑みと共に手のひらで指示して、乾いた室内に黒い革靴を踏み入れる。

調度らしきものはなにも置かれていない質素な小部屋で、今宵のパーティの主催者であるイタリア随一の富豪が有する広大な屋敷においてはほとんど使われていない空き部屋のようだった。人の残した気配というものがまったくと言っていいほど感じられない。部屋の正面にある出窓にはやはり雨粒が激しく叩きつけられ、時折、遠くで雷鳴が響いた。

「だりぃな」

中央のくすんだ焦げ茶色のソファに腰を沈ませた元同級生は、足を組んで白い喉をひねるといかにも邪魔そうに片手でネクタイを引き抜いた。ダークグレイのシャツに銀色のタイは色がよく合っていたのに、とディーノは思ったが、スクアーロは気にした様子もなく長い銀髪を振って息をつき、そんな台詞をこぼす。

「なにが?パーティがか?」

いかにも本音らしい一言に苦笑しながら向かいのソファに腰掛けるディーノに顔を向けて、スクアーロは銀の双眸をすがめた。

「腹黒い奴ばっかりだってのに上品ぶってんじゃねえってなぁ」

「んー、まあ、仕事のうちだからな」

模範的な答えを返しながらも、ディーノは知っている。作りこまれた笑みを顔面に貼り付けてグラス片手に近づいてくる男たちも、大広間をさざなみのように行き交いながら羽扇の陰からちらちらと目線を送ってくる華やかな衣装の女たちも、自分にとってはその名前やバックボーンと共に記憶しただ分類される記号のような存在にすぎないことを。大切なファミリーや、日本にいるツナや雲雀をはじめとするボンゴレ守護者たちの姿が、常に鮮やかに色づきその声や動きを伴って頭の中で再生されるのとは対照的なことである。

「悟ってんじゃねぇよ。根から腐るぞ」

本音を隠したディーノの返答に不満げに鼻を鳴らして、スクアーロはジャケットの内ポケットから抜き出した小さな紙片をディーノの胸に突きつけた。

「頭に入れたら焼き捨てろ」

「OK」

ディーノは軽く頷いて折りたたまれた紙を受け取り、中を開く。一度だけ目を通すと立ち上がり、壁際の棚に置かれた卓上式のライターに火をつけ紙片を近づけた。数百万ユーロの価値のある情報は瞬く間に燃えて端から崩れ、灰皿に落とされてそのまま燃え尽きる。

その一部始終を無感動に見届けたスクアーロは、そのまま黙って部屋から出て行こうとした。その背中にディーノは声を投げる。

「行くのか?」

「言ったろ。てめえを待ってただけだ」

「なあ、」

「あ?」

「今ちょっと思い出したことあるんだけど」

「・・・・・・」

「学生のときさ、やっぱりこんな雨の日でさ、おまえと、」

「覚えてねぇよ」

さえぎるように言って、スクアーロは振り向くことなく扉を押し開けて出て行った。残されたディーノは閉じられた扉を見て、窓に打ち付ける雨粒を見て、少し笑う。

「相変わらず、嘘が下手だ」

To Be Continued...
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200万ヒット記念企画で、りんごさまにリクエストいただいた「(ブログ主が)こんな二人だったらいいな、と思うディーノとスクアーロ」です。
続きます。もう少しだけおつきあいいただけたら嬉しいです(深々)

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