« ワールドトリガー第26話感想(ジャンプ(WJ)2013年37・38合併号) | トップページ | ēlDLIVE(エルドライブ)第3話感想(ジャンプLIVE) »

『夏色ノスタルジャ』(ディーノ&スクアーロ小説) 中編

<<前編に戻る

朝から降り続く雨に街全体が濡らされたような夏の日の夕方。

ディーノは手負いの猟犬を拾った。

「スペルビ・スクアーロ?」

「・・・へなちょこ野郎か」

狭い路地裏の隅で壁に背をつけて座り込み、糸のように降る雨に全身を濡らしながら鋭い目線でにらみ上げてくる大人びたクラスメイト。生々しい血の匂いと殺気の余韻を隠そうともせず、全身の毛を逆立てうなりながら威嚇する獣のような姿にディーノは瞬間気圧されて思わず後ずさった。しかしすぐに気を取り直して手にしていた青い傘を自分の肩に掛けると、降りしきる雨に打たれ続ける石畳に躊躇なく膝をつく。きちんとアイロンがけされたパンツの膝にみるみる雨水が染みて濃く色を変えるのを見て、スクアーロは眉間に訝しげなしわをよせた。

「おい」

「酷い傷だ」

金色の髪からたちまちしたたり落ちる雨粒を払いながら小さくつぶやき、ディーノは背後を振り返る。

「ロマーリオ、車をお願い」

「頼んでねぇ。余計なマネすんな」

言い終わるのを待たずにかぶせるようにして発される低い声。ディーノは困ったように眉根を下げる。

「でも」

「うるせぇ」

目線を外し腕を裂く傷を隠すようにしてその場を動こうとしない姿。言葉を交わすのは初めてではない、しかし咄嗟に気の利いた言葉を掛けられるほど親しくもない。ディーノはしばらく逡巡したが、不意に思いついて真面目な顔を作るとスクアーロの双眸を覗きこみ口を開いた。

「あの、こんにちは、ボンゴレファミリーのスクアーロさん」

「あぁ?」

翠玉と灰銀の視線の交錯。
すべてをぬるく濡らす真夏のスコールのなか。
表通りの喧騒も雨音もなにもかもが眩暈のように蜃気楼のように幻のように瞬間遠のくような錯覚。

「オレはキャバッローネファミリーのディーノ。ボンゴレとキャバッローネの盟約に従いあなたを保護します」

声変わりまもない声でささやくように言うと、ディーノは傘を持って立ち上がりスクアーロに向かって手を差し伸べた。

「貸し作ったとか思ってんじゃねぇだろうなぁ」

右腕に巻きつけられた包帯を心外そうな顔で眺めながらスクアーロは言う。キャバッローネの所有する屋敷の一角にあるディーノの私室で、備え付けのシャワールームから出てきたところだった。

「だからボンゴレとうちは同盟関係なんだってば」

イヤなら報告しないけど、と続けるディーノに、スクアーロはまたにらむような目線を投げてくる。研ぎ澄ました刃のような鋭利な眼差し。迫力あるなあ、とディーノは変なところで感心した。

「学校の友達がケガしてたから家で手当てしました、ってだけなら、別に報告するようなことでもないから」

「誰が友達だ」

クソが、と言い捨ててスクアーロはソファに腰掛けて行儀悪く足を組んだ。ローテーブルをはさんで、ソファではなく床にぺたりと座っていたディーノはその姿を見上げて首をかしげる。

「クラスメイトだし」

「オレに友達なんかいねぇよ」

「ケガ大丈夫」

「問題ねぇ」

結構しゃべるんだ、と、学校では化物剣士として恐れられているスクアーロと途切れ途切れでも会話が続くことにディーノは感動にも似た気持ちになった。人がいれば近くに座る。話しかけられればぶっきらぼうながらも言葉を返す。まったく他人と関わらないタイプかと思いきやそうでもないらしい。

眉間にしわを寄せた彫りの深い顔立ちや前髪の下から覗く射抜くような目線は、もともとの童顔に加えて母親似の優しい面立ちと言われるディーノよりも数歳は大人びて見える。だが、短く切った銀髪に大きめのタオルをかぶり借りたTシャツとスウェットに身を包んだ体躯は、鍛えられてはいるもののまだ年齢相応の細さを残していて、例えばロマーリオのような完成された大人の骨格ではない。剣帝を倒しマフィア界屈指の暗殺部隊に入隊したと噂に聞いてはいたが、それでもやっぱりまだ同い年なんだとディーノは妙な安心感を覚えた。

「なにか飲む?」

「酒でもあるのか?」

少し興味を引かれたように瞳を輝かせる同級生に、ディーノは肩をすくめて首を横に振った。

「ないよそんなの。この前ちょっと飲ませてって言ったらロマたちにすごい怒られた」

「いま飲んでるそれは」

「ミルク」

ミルクだぁ、と大げさなほどに呆れた反応をして、スクアーロは頭に被ったタオルの上から濡れた髪を両手でがしがしと拭いた。

「どんだけガキなんだぁおまえは」

「きみと同じ年」

「なにしてんだ、さっきから」

「宿題」

「マフィアの跡継ぎが宿題かよ」

「一応さ、君にも出てるんだよこれ」

同じクラスなんだから、と言いながら広げていた教科書を見せると途端に嫌そうな顔をされた。タオルを肩に落とし、大きな手を振りながらあっちへ行け、というジェスチャー。

「見せんな。頭痛くなる」

頭は悪くなさそうなのに、と思うが、そのまま口に出したら怒られそうな気がしてディーノは黙って教科書の計算問題に目を落とす。学校の成績は目立つ方ではないけれど、数字を扱うのは実は嫌いではない。愛用のシャーペンの芯をカチカチと出しながら目を伏せたまま言う。

「服はもうすぐ乾くけど、急がないなら泊まっていきなよ。すぐ夕飯だし」

スクアーロが着ていた服は雨と泥と誰のものとも分からない血で酷く汚れていたので、彼が手当てを受けシャワーを浴びている間にハウスメイドに洗濯と乾燥を頼んであった。そのことを伝えると、頭の上で舌打ちの音が聞こえる。

「てめぇのファミリーとワイワイしろってかぁ?めんどくせぇ」

「じゃあここでオレと食べる?別にいいよそれでも」

「あのなぁ、おまえなぁ」

いらだったように床を蹴ってソファをきしませる音。言葉にかすかな呆れの色が滲む。

「そーやってオレみたいなよく知らねぇ奴に馴れ馴れしくしてんじゃねぇ。いつか足元すくわれるぞ」

その言葉を聞いたディーノは教科書に落としていた目線をふと上げてスクアーロを見た。
きょとん、という擬態語が似合いそうな顔で大きな目を瞬かせる。

数秒の沈黙。

「えっと、ありがとう」

「はぁあ?」

唐突な言葉に、スクアーロは目を丸くして大声を上げた。そんなに驚かなくても、と思いながらディーノはまたシャーペンの芯をカチカチ鳴らしながら頬杖をつく。

「あのさ、さっき友達なんていないって言ってたけど、オレもいないんだ。鈍くさいし運動とかもダメだし、あんまりはっきり話せないし」

言いながら、ディーノは碧緑の瞳を細めて少し笑う。

「きみは友達なんて必要ないくらい強いんだろうけど、オレはそうじゃなかった、だから」

こういうのちょっと嬉しいんだよね。にこにこと無邪気な笑みを浮かべるディーノの顔を呆気にとられたようにしばらく見つめたあと、スクアーロはソファの肘置きに預けていた身体を起こすと両肘をソファの背もたれに載せ、深いため息をついた。

「飯」

「え?」

「さっさと飯持って来い馬鹿」

文句を言いながらもディーノと差し向かいで夕食をとったスクアーロは、結局そのままディーノの部屋に泊まった。帰るの帰らないのといったやり取りが一瞬あったような気もするが、最終的には一向に止む気配のない長雨を理由にディーノが引き止めたかたちだ。他愛ない会話をぽつぽつと交わしたあと、習慣的に夜が早いディーノに合わせてスクアーロも早々にソファに横になった、その夜のこと。

ディーノは暗闇の中で目を開けた。

大きな瞳をきょろきょろと左右に動かす。窓の外から届く雨音だけがわずかに響く部屋のなか、次第に暗順応する目と共に聴覚が捉えたかすかな違和感。少し逡巡したあと裸足のままするりとベッドから降り、部屋の中を手探りで移動する。

「ね、起きてる?」

「殺すぞ」

ソファの脇に立ちパジャマの袖から伸びた指先でおずおずと肩をつかみ揺すってみたディーノは、間髪入れずに凄まれてびくりとして手を引っ込めた。寝返りを打って向けられた真顔、暗闇を裂いて光りそうなほどに鋭い眼差しに浅い眠りを邪魔された苛立ちがありありと浮かんでいる。

「便所についてこいとか言うんじゃねえだろうなぁ」

「ち、違う!あ、でも」

近いかも、とつぶやいた顔を半目になって見返されて、ディーノは慌てて顔の前で手を振る。

「違う、トイレじゃないんだけど、なにか聞こえない?」

「あぁ?」

顔をしかめながらも半身を起こし鋭敏な感覚を聴力に集中させて、スクアーロは眉間にしわを寄せながら耳をすます。

「なにも聞こえないぜぇ」

寝ぼけたこと言ってねぇで寝ろ、と言い捨ててさっさと横になろうとするスクアーロに、ディーノは焦ったように声を掛ける。

「ほら、また」

「てめぇなあ・・・」

不機嫌を顔に貼り付けて口を開こうとしたスクアーロの耳に、ふと届いた音。
ひゅうひゅう、と切なげに喉を鳴らすような。

「風の音?いや声・・・女か?」

「やっぱりそうだよね!女の人の泣き声みたいな」

眉をひそめるスクアーロを見て思わず安心したような声を出すディーノは、しかしすぐに心配そうに眉根を寄せる。

「ちょっと見てこようと思うんだけど、スクアーロついてきて」

「はあ!?」

理不尽に起こされた不機嫌さから二、三度トーンの下がっていた声が、思わず大きくなる。

「なにビビってんだ、てめえの家だろうが!」

「そうだけど、でも!古くて広いから幽霊とか普通にいるし!」

いんのかよ、とスクアーロは呆れたようなつぶやきをもらす。神妙な顔でうなずくへなちょこを見返しながら、しかし面倒な気持ちに変わりはなく。

「ユーレイが部屋の外で泣いてるってんなら、それはそれでほっときゃいいじゃねぇか」

至極合理的、と自分で自分を評価してスクアーロはさっさと毛布を引き寄せると寝返りを打ち、ディーノに背を向けてソファの背もたれと向き合った。そのまままぶたを下ろしたが、しかし頭の後ろでうるさく言い募る声。

「幽霊ならいいけど、もし誰か泣いてたら!」

「なら一人で行けよ!」

「幽霊だったら怖い!」

しばしの不毛な押し問答の末、意外な頑固さの前に根負けしたのはスクアーロの方だった。しぶしぶソファから起き上がり足先を靴に突っ込む彼を見てディーノはほっと息をつき、ついでにひとつ小さく頼りないくしゃみをした。

To Be Continued...
************************************************************

<<前編に戻る
後編に進む>>

●小説部屋の目次へ

|

« ワールドトリガー第26話感想(ジャンプ(WJ)2013年37・38合併号) | トップページ | ēlDLIVE(エルドライブ)第3話感想(ジャンプLIVE) »

●03-2.小説部屋」カテゴリの記事