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『恋愛教則』 (烏丸&小南小説)





玉狛支部の簡易キッチンの椅子に浅く腰掛けて、烏丸京介は爪先を器用に使って封筒の封を開けた。

糊付けはされておらず、小さなシールで留められただけだったので開くのは難しくない。シールは綺麗な青い星形で、さすがに今どきハート形のシールを使う女子はいないな、と烏丸は一人思う。

(烏丸くん、これ読んでください!)

学校の廊下で背後から呼び止められて振り向いた瞬間に顔を伏せて真っ赤な耳をした女子に光速の勢いで胸に手紙を叩き付けられて、烏丸が声を発そうとしたときにはすでに彼女の姿は廊下の遥か彼方、点のように小さくなってしまっていた。仕方なくひとまず鞄に入れてそのまま支部に直行し、夕方の防衛任務まで数学の課題でもやろうと鞄に手を突っ込んだところでその手紙の存在を思い出した。そういえばクリスマスが近かったな、と壁にかけられたカレンダーを見ながら二つ折りの上品なアイボリーの便箋を開く。

いきなりごめんなさい云々。直接言う勇気がないので云々。ずっと前から烏丸くんのことが云々。女性らしい小さな文字が綴るのはいわゆる恋文というやつで、烏丸はこの手の手紙をもらうのは初めてではない。というよりそれなりに場慣れしてしまうほどには多い。さかのぼれば小学生の頃から、そして中学生になってその数は激増し、その勢いは高校に上がった今もまったく衰えていない。統計を取っているわけではもちろんないが、バレンタインデーと夏休み前とクリスマス前に特に増えるのはどうやら気のせいではなさそうだった。

ボーダーのA級隊員を務めていることとの相関関係は分からない、ただどうやら自分の容姿が異性を惹きつけやすい仕上がりであることは烏丸自身も理解していた。ただ生来の性格からして、自惚れることも卑下することもなく自分自身を構成する要素のひとつとして冷静に捉えているだけのこと。そしてその認識をあえて吹聴するほど烏丸は愚かではなく、また賞賛されれば、どうも、と流せるだけの年季はあった。

そういえばいつだったか、同じ支部所属の木崎レイジに聞いてみたことがある。恋愛感情ってなんなんですかね、と。

なにか現実的な問題に悩んでいたわけではない。ふとした思い付きだったのだが、真面目な彼は表情を変えることなく少しだけ考えたあと、もちろん人によるだろうが、と前置きした上でただ一言、こう言った。

(性欲と独占欲、かな)

ごくごくシンプルな答えだったが、烏丸はなるほど、と呟いてそれきりその話はしなかった。それでもときどき、ほんのときどき、思い出すことがある。性欲と独占欲。性欲については人並に理解できていると思う。問題は独占欲の方だった。

「あっとりまる!いた!」

支部の廊下を駆ける騒々しい足音からして、扉が開く前から接近には気づいていた。いつも何かに立ち向かっているような勢いのある先輩の、キッチンのドアを開けるなり上げた大声が耳に届く。

「どうしたんすか小南先輩」

手紙に目を落としながら烏丸は聞く。手紙を最後まで読んでしまって、文末に差出人のクラスと名前が書いてあることまでを確認して少し安心した。あの光速の攻撃では顔がまったく見えなかったので、もし個人を特定する情報が書いていなかった場合は差出人不明で放置することになってしまうところだった。明日にはクラスに出向いて断りのセリフを告げることになるだろう。

「ないのよ!捜してるの!」

「どら焼きですかそれともプリンですか」

「失礼ね!いちご大福よ!」

失礼ね、の意味はよく分からないものの、烏丸は知らない、の意をこめて首を振った。おそらく陽太郎の仕業だと推測するが冤罪の可能性もあるのであえて何も言わないことにする。もう、と地団駄を踏んで憤る小南の真っ直ぐに伸ばされた艶のある髪を見るともなく見ながら烏丸はふと木崎の言葉を思い出す。

性欲と独占欲。

自分の知る小南は押しが強いくせに押されると弱い。自信家なのに隙だらけ。他人の懐に遠慮なく滑り込み場の雰囲気をさらっていく。彼女の周りはいつも賑やかで些細なことにもなぜか全力。木崎説をたとえば当てはめてみても、独占欲つまり自分だけのものにしたい、という感覚とはどこかがズレていた。小南は誰のものでもない。

「なんか、違うな」

「ん?なによ?」

独り言をつぶやく烏丸を不審そうな目で見る小南。このボーダー屈指の実力者のガードがふと緩む瞬間が烏丸にはなぜか手に取るように分かる。そして隙を見つけたが最後、どうしてもそこを突きたくなってしまう謎の衝動。

「いえなんでも。ところで先輩、最近かわいいですね」

「・・・え?はっ!?」

烏丸のカンは当たり、予期せぬセリフに不意を突かれてたじろぐ小南の頬がみるみる紅潮するのを眺めながらさらりと続ける。

「すみませんウソです」

「さっ・・・」

最低ばか最低とりまる最低。叫びながら思い切り振り上げられた小南の平手を身軽にかわして、烏丸は珍しく小さく声を上げて笑った。

THE END
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