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『あんぱんには牛乳が大正義』 (出水&佐鳥小説)

「うわ先輩なに飲んでんの!」

「はあ?」

屋上の扉をばしんと開けて自慢の視力でおれを発見するなり猛ダッシュしてきて目の前で止まったかと思えばおれの右手を指差してでかい声でわめいてくる後輩。失礼千万な態度とタメ口に妙に腹がたって思い切り冷たく返してやると、しかもブラックだしありえないしなどと更に意味不明なセリフを浴びせてきた。ありえないのはおまえだ馬鹿。

「昼休みにコーヒー飲んでなにが悪いんだよ」

「だってそれあんぱんでしょ?あんぱんには牛乳っしょ普通!」

「おまえの宇宙の常識をおれに押し付けるな」

心底バカバカしくなってこれ見よがしにあんぱんを頬張り同じ口にコーヒーを流し込むと、うわあああ、と悲痛な声を上げて目の前のコンクリにへたりこむ佐鳥。もうその存在自体がネタで出来てるんじゃないかとすら時々思う。たまには真面目な話のひとつもしてみろと内心呆れるものの、うっかりそんなことを言おうものならまたぎゃんぎゃんうるさく抗議してきそうなのであえて何も言わないでおいた。ぶつぶつ言いながら砂を払って立ち上がり、隣に座ってコンビニの袋からおにぎりを取り出すいつもの横顔。こちらが黙っていても勝手にしゃべってくれるので一緒にいて楽な存在ではある、とまで考えたところでひとつ思い出したことがあって口を開いた。

「おまえあの子どうなったの」

フェンスに背をつけて足を伸ばして、あんぱんの入っていたビニル袋をくしゃくしゃと丸めながらふと言ってみる。確か同じクラスの、こいつ曰く「すっごい可愛い」女子に「佐鳥くんと一緒にいると楽」だなんて言われて舞い上がっていたのはちょうど冬休み前の出来事だったはず。思い出しついでに好奇心で話をふってみると、屋上は寒いだの午後の授業がだるいだのこの間の体力測定がどうだったのと他愛ない話題に一人盛り上がっていた佐鳥の声がぴたりと止まった。

「…せんぱい」

「あ、おれ地雷踏んだ?」

「先輩って!」

なんかもうほんとデリカシーないよね、とつぶやくと、一秒前まで騒がしすぎるくらいに騒がしかった佐鳥がいきなり電池の切れたおもちゃのように抱えた膝に顔をうずめて動かなくなってしまった。登場以来の無駄なハイテンションはどうやら空元気というやつだったらしい。しかし普段のテンションを100とするとそれが105に上がっただけのような状態だったので傍目には分かりにくいことこの上ない。

「フラれたか」

「フラれてない!」

キッと顔を上げて秒速の勢いで否定する。あ、ちょっと泣いてやがるこいつ。

「フラれるより前に!彼氏いた!普通に!」

「あー…」

ご愁傷様、と返すとまるで同意するかのように北風が切なく吹き抜けた。やっぱりコートも持ってくれば良かった、と学ランの首に巻いたマフラーを口元までひっぱり上げて冷えた両手をポケットにつっこむ。わざわざ階段を下りてコートを取ってくるのは面倒だからトリガー起動して屋上から教室にダイブしてやりたいけどもちろんそんなことはしない。

「なんで彼氏いんのに一緒にいて楽とか言うの!もう女子…まじ女子!」

「ごめんちょっと意味わからない」

ポケットから出した右手でホットコーヒーの缶をつかむ。缶はだいぶ温度を失っていたけれど、あかぎれそうな指先をわずかにぬくもらせる程度の熱は残していた。ありがたく口に運ぶ。

「うまく行ってないかもしれないじゃん。彼氏と」

「クリスマス一緒に過ごしたって!ユビワもらったって!」

それがもうきらきらの指輪でさあ、とひどく悲しそうに続ける佐鳥はどうやらほんのり想っていた相手に新年早々その指輪をみせびらかされてしまったらしい。内心号泣しながらも「良かったね」なんていい人を装って笑うこいつの姿が目に浮かんで、二度目のご愁傷様。きっと佐鳥はいわゆる「話しやすい男子」の部類なんだろう。人懐こいし親切だしサービス精神も旺盛。基本的に悪い奴じゃない。悪い奴じゃないけど。

(なんか、惜しいんだよな)

しかしさすがにそのまま口に出すわけにもいかず。まあほかにもいい子はいるんじゃねーの、と常套句を言ってみると、佐鳥は、ぐす、と赤くなった鼻をすすりながら口を開いた。

「じゃあ先輩もし女だったらオレと付き合いたいと思う?」

「はあ?」

何言い出すんだ失恋のショックで頭イッちまったんじゃないか。半目になって見返してやると、ほらやっぱり、と勝手に聞いたくせに勝手に落ち込んでうなだれている。意外とめんどくさいなこいつ。

「じゃあボーダーで付き合うならだれ」

「なにその話まだ続くの」

「続くの」

昼休みの駄弁にしても酷い話題だけど、これで傷心の後輩の気がまぎれるならと適当に考えを巡らす。おれもたいがい面倒見のいい先輩だと思う。

「嵐山さん」

「ああー…」

真剣に考えたところで仕方ないので無難なところを言ってみた。ボーダー所属の女子、主にB級ちゃんたち主催で密かに行われているという彼氏にしたい男ランキングで毎回ぶっちぎりの一位を獲得してる人だから我ながら間違いない選択だと思う。一発目に尊敬する隊長の名前を出されて、佐鳥はなんだかちょっと嬉しそうにした。だからおれに選ばれたから何だっつうんだ、と呆れるけれど。

「それか、奈良坂」

「先輩メンクイー…」

なぜか引いている佐鳥は、それでもなんだか目に生気が戻ってきたような気がする。おしゃべりで元気になるとか女子かこいつは。

「米屋先輩とか出ないの?」

「近すぎて無理」

「じゃあ太刀川さんは」

「おれの手には負えない」

酷い、と責められたけれど、こんな与太話に酷いもなにも無いと思うんだおれは。

「でも本命は鬼怒田さん」

「ぶはっ」

真面目な顔で言ってやると、狙い通り吹き出す佐鳥。笑いの沸点が低いのもこいつの特徴だ。ちなみにくすぐられるのにも覿面に弱いから、佐鳥を笑わすのは難易度としてかなり低い。さしずめレベル1マイナ。ちなみに最高難度は三輪のレベル50、と以前遠征艇内であまりのヒマさに遠征メンバーでやったボーダー内格付けを思い出す。

「鬼怒田さんとか!不倫じゃん!」

「いやあの人バツイチだから」

「あ、そっか合法か」

うんうんとうなずく佐鳥。ゴシップまじりの話題だけどだいぶ調子が戻ってきたようで何よりだ。

「だからおれは嵐山さんと結婚して奈良坂と浮気して鬼怒田さんをひっそり想いながら死んでいく」

「鬼怒田さんのが先でしょ年齢的に」

「毎年、鬼怒田さんの命日と誕生日に墓参りに行く」

「喪服で?」

「喪服で」

「お墓の前で泣くの」

「さめざめとな」

そっか、とつぶやいて佐鳥はふとあごを上げて空を見る。つられて見上げると冬の空は嫌味なほどにからりと晴れて、探してみても雲の欠片ひとつ見えなかった。

「そういうのもありかなあ」

「そういうのもありじゃね」

この後輩が何をもって「そういうの」と言っているのかはたぶん半分も窺い知れてはいないけれど、何にしてもうるさいくらいでないとこちらとしても調子が狂う。早く元気になあれ、と心の中だけでエールを送って、おれは飲み干したコーヒーの缶をコンビニの袋に勢いよく突っ込んだ。

THE END
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